ル・コルビュジエの建築思想の実験的な住宅「ヴァイセンホフ・ジードルングの住宅」
ベンツやポルシェ、ダイムラーなど自動車の大企業の本社が多く集まり、自動車産業が世界的に有名なシュトゥットガルト。日本では日本人サッカー選手がVfBシュトゥットガルトに所属していることもあり馴染みがある都市だろう。
そのシュトゥットガルト郊外のヴァイセンホーフで、1927年にミース・ファン・デル・ローエが中心となりドイツ工作連盟主催の住宅展が開かれた。ミースだけでなく、ヴァルター・グロピウスやJ.J.P.アウト、ハンス・シャロウン、そしてル・コルビュジエも参加した。
とりわけル・コルビュジエの設計した「ヴァイセンホフ・ジードルングの住宅」は、上野の国立西洋美術館と同時に「ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-」として世界遺産に登録され注目を集めている。
近代建築の五原則の実験的な住宅「ヴァイセンホフ・ジードルングの住宅」
住宅展の前年に「近代建築の五原則」を発表したル・コルビュジエが実験的な住宅として提案したのが、この「ヴァイセンホフ・ジードルングの住宅」。1926年に建てられたクック邸とこの住宅、そして「近代建築の五原則」が見事に表現されたサヴォア邸を年代順に見ると徐々に完成度が上がっていることがわかる。
外観からは、サヴォア邸などと異なり高低差がある敷地に建っているためピロティは少し控えめだが、上階の水平連続窓は既にサヴォア邸などと非常によく似ていることが伺える。
また、サヴォア邸が郊外型の住宅だったのに対して、限られた敷地を効率良く使う都市型にも思えるデザインだ。この住宅は2世帯住宅として設計され、この裏側には1世帯用の住宅もある。
ル・コルビュジエの建築思想を空間体験
2世帯のうち1世帯の居住スペースはル・コルビュジエによるヴァイセンホフ・ジードルングの住宅を含め、1927年の展覧会に出展された作品に関する模型などの資料を展示するスペースとなっている。
水平連続窓は正面ファサードだけでなく裏側にも展開されていて、各諸室の機能に対応するように続いている。階段脇のフリースペースは明るく開放的な雰囲気になっている。
もう一世帯の居住スペースは、完成当時をできるだけ忠実に再現し、当時のデザインを追体験できるようになっている。モダンなインテリアは、どこか親しみのある雰囲気で今見ても色褪せることなく斬新である。随所にル・コルビュジエや彼の従兄弟で当時ともに設計事務所を開いたピエール・ジャンヌレのデザインした家具が配置されている。
リビングスペースと寝室のスペースを可動間仕切りでフレキシブルに空間を使用している。平面の機能の配置の自由さや可動間仕切りは、近代建築の五原則の自由な平面が非常によくわかる要素だ。
空間によってところどころ壁の色を変える手法は、装飾を取り払い、面として床壁天井を見せるモダニズム建築から発生していると考えられるが、この住宅において既に効果的に使用されていたと考えられる。
80年も前のものとは思えないキッチンは、既に現在とほぼ変わらないデザインになっている。
眺望も良い屋上庭園
屋上スペースは2つの住居をつないでいて、ここでも近代建築の五原則の中の屋上庭園が設置されている。広さや自由度はサヴォア邸のそれと比べるとコンパクトだが、高台にあるため眺望も良く、2つの住戸を1つの統合された住宅デザインにするには一役買っている。
サヴォア邸のようにカーブを描く壁などはないが、ドイツのモダニズム建築らしい潔さがある。また、都市型の住宅故に庭と違って屋上はプライバシーを守りながら開放感を得る最上のアイディアである。
「ヴァイセンホフ・ジードルングの住宅」は、モダニズムの実験的な住宅でありながら現代でも通じるデザインで参考にすべき点が顕著に見いだせる傑作だ。また、サヴォア邸などと見比べる際にル・コルビュジエの建築思想の変化や成熟度を計り知る重要な住宅建築である。
今でこそモダンな都市型住宅で洗練された住宅だが、ピロティで持ち上げられたヴォリュームは、非現実的あるいはロマン的すぎるデザインであるとか、不自然な形態の強要であるといった周囲の批判があったのだとか。それに「住宅は住むための機械である / machines à habiter」と唱えたル・コルビュジエの住宅が、自動車産業の街に建っていることも非常に興味深い。
Weissenhofmuseum im Haus Le Corbusier – ヴァイセンホフ住宅博物館
開館時間 : 11:00~18:00
休館日 : 月曜日
電話 : +49 711 2579187
URL : http://www.stuttgart.de/weissenhof/
住所 : Rathenaustraße 1, 70191 Stuttgart