余白が暮らしを育てる──建築家・山﨑健太郎が考える住まいの可能性

住まいは、家族構成や働き方、ライフスタイルの変化とともに、その使われ方も少しずつ変化していきます。そうした変化を受け止めながら、柔軟に使い方を広げられる空間のあり方が、これからの住まいには求められています。

そのひとつの答えとして、「余白」という発想を軸に設計を行っているのが、建築家・山﨑健太郎さんです。住宅から公共建築、福祉施設まで幅広いプロジェクトを手がけるその建築には、暮らす人自身が関わりながら空間を育てていくための余地が残されています。

今回は山﨑さんに、設計において大切にしている「余白」という考え方と、暮らしの変化を受け止める住まいのあり方についてお話を伺いました。

山﨑健太郎デザインワークショップ代表、工学院大学教授・山﨑健太郎

1976年生まれ。2002年工学院大学大学院修了。入江三宅設計事務所を経て2008年山﨑健太郎デザインワークショップ設立。
国内外で多数の受賞歴があり、地域みんなの居場所である高齢者デイサービス「52間の縁側」では、2023年度グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、2023年度JIA日本建築大賞、2024年度日本建築学会賞(作品)の三賞の史上初、同作品における受賞を達成。
その他主要な受賞歴として、日常を感じるコモン型の「新富士のホスピス」ではJIA優秀建築賞、日事連建築賞60周年記念賞、グッドデザイン賞ベスト100を受賞、斜面を活かした階段状の「はくすい保育園」では、グッドデザイン・未来づくりデザイン賞、AR Emerging Architecture Awardsのほか、iF design award 建築部門での金賞を日本人で初めて受賞した。沖縄の地域住民と琉球石灰岩を積んで建設した「糸満漁民食堂」では、日本建築学会作品選集新人賞、日事連建築賞 会長賞、JCD DESIGN AWARD 2013 金賞+笈川誠賞を受賞。SDレビューにおいては2016,2017年に2年連続で入選を果たした。

建築における「余白」という考え方

Photo : Naoomi Kurozumi

まず最初に、暮らしの中で大切にされているデザインについて教えてください。

「“余白”を大事にしています。建築で言うと、床と壁と天井って、一度つくると固まってしまいますよね。そうすると、どうしてもキッチンとかリビングとか、機能的な使い方を前提に空間をつくることになってしまうんです。

そこであえて、僕は機能を決めすぎない設計を意識しています。

例えば、気持ちのいい窓辺をつくっておく。そこでは本を読んでもいいし、ご飯を食べてもいいし、おしゃべりしてもいい。そういうことが自然に起こるような、少し余白のあるつくり方を大事にしています」

暮らしの変化を受け止める「未完の住まい」

Photo : Naoomi Kurozumi

山﨑さんの作品に「未完の住まい」という住宅があります。2階があえて未完成のような空間になっているのが印象的でした。

「この住宅のクライアントは古着店を営んでおり、将来はコレクションを増やしていきたいという思いがありました。

Photo : Naoomi Kurozumi

住宅をつくるときって、子ども部屋が2つ欲しいとか、将来を想定して空間を決めていくことが多いんです。でも実際に暮らしてみると、人生ってそんなに予定通りにはいかないですよね。例えば子どもの人数が増えるかもしれないし、生活スタイルが変わることもあります。

Photo : Naoomi Kurozumi

最初から空間を固定してしまうよりも、後からどうにでもできる余地を残しておく。建築が人生の形を決めてしまわないほうがいいと思うんです。

『未完の住まい』では、2階の空間をあえて用途を決めない状態で残しました。そこに何もないわけではなく、気持ちのいい窓辺のような場所はちゃんとつくってあります。そうすると、暮らす人たちが自分たちで工夫して使い方を考えられるんです。

Photo : Naoomi Kurozumi

例えば子ども部屋として使うこともできるし、収納スペースや趣味の場所にすることもできる。むしろ最初に決めることがあるとすれば、家族が一緒に過ごす場所をどうつくるか、ということかもしれません。リビングとつながる場所をつくるとか、そういうことだけ決めておく。暮らしの中で、住まいのあり方が形づくられていくのではないかと考えています」

残りの使い方は、暮らしながら見つけていけばいい。そんな柔軟さこそが、山﨑さんの考える住まいの魅力なのかもしれません。

好きな場所から受け取る建築のヒント

龍安寺のスケッチ
龍安寺のスケッチ

最後に、お好きな場所や空間について教えてください。

「仕事柄、いろんな場所に行くことが多いんです。京都や大阪、沖縄などに出張することも多いんですが、合間に半日くらい時間をつくって、いい場所に行くのが楽しみなんです。

最近訪れた中で印象に残っているのは、京都の龍安寺や奈良の慈光院です。昔から残されてきた場所って、やっぱりすごいなと思います。みんなが大事だから残してきたものですよね。そうした空間から、建築のヒントを得ることも多いです。

なんでこれが大事にされてきたんだろう、と考えながら見る。そういうことを通して学ぶのは、設計をするうえでも大事なことだと思っています」

余白が暮らしの可能性を広げる

山﨑さんが設計において重視しているのは、空間の使い方を固定しない「余白」という考え方です。床・壁・天井といった構成要素が一度つくられると容易には変えられないからこそ、用途を決めきらず、住まい手に委ねる余地を残しています。

建築が暮らしを規定するのではなく、暮らしが時間をかけて空間を更新していきます。その関係性こそが、これからの住まいに求められる柔軟さと言えます。

後編:人と地域をつなぐ建築──建築家・山﨑健太郎が語る空間のつくり方(6月25日 公開予定)