建築家・五十嵐理人による変化に寄り添う“壁柱”がつくる立体的な都市型住宅「市松の家」
埼玉県の住宅街に位置する角地に建つ「市松の家」は、変化し続ける暮らしに柔軟に応えることを前提に構想されたRC造住宅です。設計を手がけたのは、建築家・五十嵐理人。家族構成の変化や、住まい手が営む店舗の移転といった将来的なライフスタイルの変動を見据え、構造と空間の仕組みそのものに可変性を内包させている点が特徴的な一軒です。
角地という条件を読み解き、新たな構造発想へ

敷地は隅切りが施された角地で、二方向からの視線や接道条件を含む特徴的な形状を持ちます。

その特性を生かし、コンクリートのコア柱を敷地の隅切り部と対角の2箇所に配置。これによって、外周部に構造体を設けることなく内部の自由度を確保し、空間構成の幅を大きく広げる出発点としています。
諸機能を内包する2本のコア柱と片持ちスラブ

コア柱は、単なる構造体ではなく、内部にエントランス、浴室、トイレ、収納といったプライベート性の高い諸室に加えて、空調設備や電気配線、配管などのインフラを集約。

これによって大きな開口を必要としない機能を最小限の範囲に閉じ込み、外周や床面を構造的にも空間的にも軽やかに扱えるようにしています。

床と屋根のスラブはコア柱に掛け渡される形でキャンチレバー構造とし、柱や基礎を用いずに枝葉のように展開。

建物全体は単純な立方体でありながら、市松状に構成された壁柱とスラブが、平面・断面ともに奥行きある空間性を生み出しています。
鳥が枝移りするように移動できる一筆書きの空間

内部空間は、一筆書きのように緩やかな動線で構成されています。

奥に進むほどプライベートな領域へと切り替わるグラデーションがつくられ、床レベルの変化や壁柱との位置関係によって、多様な過ごし方に対応する居場所が散りばめられています。

LDKや個室といった用途を固定せず、鳥が枝から枝へ移るように、柱と床を行き来しながら思い思いの場所で生活できる空間構成となっているのが特徴です。

将来的な家族構成の変化や住まい方の更新にも柔軟に応じられる器として計画されました。
不透明ガラスがもたらす抜けと広がり

外壁には不透明ガラスを用いており、住戸内への視線を遮りつつも光と気配を取り込むことで、内部空間の広がりを外部にまで延長する役割を担っています。

市松状に配置された2本のコア柱と、断面的にずらされたスラブによって生まれる距離感は、どの場所にいても空間の“向こう側”を感じさせ、生活領域の奥行きを豊かに見せています。

単なるプライバシー確保ではなく、周辺環境との関係を建築的操作によって調整するアプローチが採用されている点も特徴的な住まいです。
暮らしの未来を受け止めるフレームとしての住宅
「市松の家」は、固定的な間取りの住宅とは一線を画し、構造そのものが暮らしの変化を支えるフレームとして機能する建築。コア柱に機能を集約し、キャンチレバー構造によって床を自由に展開した空間は、用途の拡張や再構築を無理なく受け止める柔軟さを備えています。単純な外形の内部に潜む奥行きのある空間と、外部まで連続する意識の広がりが、都市住宅における新たなモデルを提示しています。