「バスケ愛」の聖地・カウナスに誕生した、G. ナトケヴィチュースによる「リトアニア・バスケットボール博物館」
リトアニアにとって、バスケットボールは単なるスポーツではありません。それは、民族のアイデンティティ、誇り、そして情熱を体現するものです。その「バスケ愛」の中心地、カウナスに、建築家・G. ナトケヴィチュース&パートナーズによるリトアニア・バスケットボール博物館が誕生しました。

この博物館は、国の宝であるバスケットボールの歴史を収める「箱」ではなく、国民の高揚感とエネルギーを建築的に表現した、幾何学的な炎のようなフォルムを持っています。
幾何学的な「炎」のフォルム・情熱を象徴する外観デザイン

リトアニア・バスケットボール博物館の外観は、一見すると巨大で不規則な幾何学的構造に見えますが、それはリトアニアのバスケットボールファンが持つ燃えるような情熱を、建築的に象徴したものです。全体は、鋭い角度を持ち、まるで炎が揺らめいているかのような、躍動的な印象を与えます。

ファサードに使用された素材の質感と赤やオレンジを想起させる色調は、この「炎」のイメージを強化しています。このデザインは、博物館という静的な施設に、試合中のダイナミックな動きや熱狂といった、スポーツ特有のエネルギーを付与しています。

G. ナトケヴィチュースは、カウナスの都市景観の中で、この建物を文化的な灯台として機能させようと意図しました。その特異なフォルムは、人々の注意を引きつけ、リトアニアのバスケットボールの歴史的な偉業と、国民の揺るぎない献身に対する敬意を、大胆な形で表現しているのです。この建物自体が、国民的スポーツの情熱的な声明となっています。
緊張感と解放・コントラストで魅せる内部の空間構成

外部の情熱的なフォルムとは異なり、博物館の内部は、訪問者の感情と動線を緻密にコントロールする空間的なコントラストに満ちています。

建築家は、意図的に狭く、低く抑えられた通路や導入空間を設け、そこから一気に光あふれる巨大な吹き抜けの展示ホールへと解放することで、ドラマチックな高揚感を生み出しています。

この「緊張と解放」のシークエンスは、バスケットボールの試合における緊迫した瞬間と勝利の歓喜といった感情の起伏を、鑑賞体験として再現しています。

内部に使用される素材は、コンクリートやスチールといった現代的な要素と、木材や柔らかなテクスチャといった温かい要素が組み合わされています。

展示ホールでは、高い天井と十分な自然光が、トロフィーやユニフォームといった展示品を聖なる遺産のように際立たせます。また、視線が複雑に絡み合う斜めの壁や階段は、鑑賞者に空間を探索する楽しさを与え、単に記録を見るだけでなく、リトアニア・バスケットボールの歴史の中を動き回るような感覚を提供しています。この空間構成こそが、博物館を単なる展示場ではなく、記憶を呼び起こす舞台へと昇華させています。
地域の歴史と繋がる「聖地」文化とライフスタイルとしてのバスケットボール

リトアニアにおけるバスケットボールは、ソビエト連邦時代には独立の精神と抵抗の象徴であり、冷戦終結後は国民的な誇りの源となりました。この博物館は、その歴史的な重みを深く理解し、地域の歴史と国民のアイデンティティに繋がる「聖地」として設計されています。

博物館は、カウナスの社会生活のハブとしても機能しています。展示機能だけでなく、交流スペース、カフェ、イベントホールなどが設けられ、試合がない日でもファンや市民が集まり、語り合う場を提供しています。特に試合の勝利後や祝祭の際には、この博物館がバスケットボール文化を共有し、祝福する場所となります。

この建築は、スポーツの記録だけでなく、リトアニア人のライフスタイルそのものがバスケットボールと一体化していることを示しています。

歴史的な重みと現在の熱狂を内包するこの博物館は、カウナス市民にとって精神的な拠り所であり、国内外のファンにとっては情熱を共有するコミュニティの場となっているのです
リトアニア人のアイデンティティを表現したバスケットボール博物館
G. ナトケヴィチュースが手がけたリトアニア・バスケットボール博物館は、情熱、歴史、そして国民のアイデンティティを、建築という媒体を通じて力強く表現した傑作です。炎のような幾何学的なフォルムと、緊張と解放のコントラストに満ちた内部空間は、バスケットボールというスポーツが持つドラマと高揚感を体現しています。
この博物館は、単なるスポーツ記録の保管庫ではなく、リトアニアという国と国民にとっての生き生きとした「聖地」です。文化的な交流のハブとして機能するそのデザインは、バスケットボールが如何にリトアニア人のライフスタイルに深く根ざしているかを物語っています。カウナスを訪れた際には、ぜひこの建築的な情熱の結晶に触れ、リトアニアの熱狂的なバスケットボール文化を肌で感じ取ってみてください。その空間体験は、スポーツと建築の力強い結びつきを教えてくれるでしょう。
リトアニア・バスケットボール・ハウス
開館時間:10:00~12:00/13:00~17:00
休館日:日・月曜日
URL:https://ltu.basketball/
住所:Santakos g. 11, Kaunas, 44279 Kauno m. sav., Lithuania