リナ・ボ・バルディによる「サンパウロ美術館 (MASP) 」は、フリー・スパンで空中に浮かせた展示空間

ブラジル・サンパウロ市の中心部、アヴェニダ・パウリスタという大通りに、常識を覆す建築物が立っています。それは、巨大な赤い梁に支えられ、まるで空中に浮かんでいるかのような「サンパウロ美術館(MASP)」です。設計したのは、イタリア生まれの女性建築家リナ・ボ・バルディ。彼女は「建物が占有した地面は市民に返すべきだ」という強い信念のもと、都市の真ん中に74メートルもの無柱空間という大胆な贈り物をしました。

ブラジル・モダニズムを象徴する空中に浮かぶ「フリー・スパン」構造

サンパウロのアヴェニダ・パウリスタ通りを歩く人々が、一様に驚きの目で見上げる建築。それが、イタリア生まれの建築家リナ・ボ・バルディが設計したサンパウロ美術館 (MASP) です。

この美術館の最大の特徴は、ヴォリュームを文字通り空中に浮かせている、大胆な「フリー・スパン(無柱空間)」構造にあります。建物を支えるのは、鮮烈な赤色に塗られた巨大なコンクリートの梁が2つ。この梁が、下の地面から74メートルもの距離を橋のように支え、その巨大なボリュームを地上から切り離しています。

リナ・ボ・バルディは、この空間を美術館の建設によって奪うのではなく、”市民に開かれた「自由な公共広場」として返す”という強い信念を持っていました。この革新的なデザインは、ブラジル・モダニズム建築の象徴として、現在も強いインパクトを与え続けています。

来場者と作品の関係を変える、ガラスとコンクリートの「透明な空間」

MASPの魅力は、外観のインパクトだけにとどまりません。内部の展示室に入ると、そこには独特の空間が広がっています。

リナ・ボ・バルディは、当時の伝統的な美術館が持つ権威的な展示方法を否定し、観客と作品の関係をより対話的にしたいと考えました。

その結果生まれたのが、美術品を壁に掛けるのではなく、厚いガラス板でできた自立式の「イーゼル」に立てかけるというユニークな展示方法です。

これにより、絵画が空間の中にまるで彫刻のように自立し、観客は作品の裏側にある情報や他の作品を同時に見渡すことができます。

むき出しのコンクリートやガラスといった工業的な素材を多用しながらも、自然光を取り込み、作品と人が自由に交流できる”温かみのある「透明な空間」”を作り出した点は、ボ・バルディの人間中心の思想を強く反映しています。

建築を超えた「文化のるつぼ」、サンパウロ市民に愛されるMASP

リナ・ボ・バルディが残した74メートルの無柱空間は、単なる建築的ギミックではなく、サンパウロという都市に不可欠な公共の広場として機能しています。

この広大なフリー・スパンの真下では、週末になると、古物市やコンサート、政治集会、ストリートパフォーマンスなど、市民による多様な活動が日常的に繰り広げられます。美術館の機能が空中に引き上げられたことで、地上は常に市民の熱気で満ちています。

MASPは、質の高い美術品を収蔵・展示する「美術館」という役割を超え、サンパウロの”社会、文化、そして日常のエネルギーが交差する「るつぼ」”となっているのです。その自由で寛容な空間こそが、リナ・ボ・バルディがこの街に残した最も偉大なレガシーであり、MASPが今日まで市民に愛され続ける最大の理由と言えるでしょう。

リナ・ボ・バルディの傑作「サンパウロ美術館(MASP)」

「サンパウロ美術館(MASP)」は、建築家リナ・ボ・バルディの「自由と公共性」という哲学が、コンクリートとガラスという素材を通して結実した都市のシンボルです。上階ではヨーロッパの巨匠からブラジルの現代アートまでがガラスのイーゼルに立ち、ユニークな展示空間を作り出しています。そしてその下には、市民生活のエネルギーが渦巻く広大なフリー・スパンが息づいています。この「浮遊する美術館」は、建築が単なる機能ではなく、都市と住民の関係を再構築する力を持つことを証明しています。サンパウロを訪れた際は、ぜひこの空間に足を踏み入れ、リナ・ボ・バルディがブラジルに残した大胆で温かいビジョンを感じ取ってください。

サンパウロ美術館 – Museu de Arte de São Paulo Assis Chateaubriand

開館時間:10:00~18:00(火曜日~20:00)
URL:https://masp.org.br/
住所:Av. Paulista, 1578 – Bela Vista, São Paulo – SP, 01310-200 ブラジル