
密集地における“開かれた暮らし”の提案「間がゆとりを生む暮らし」
山形県内の静かな住宅街。その一角に建つ「間がゆとりを生む暮らし」では、建築家がオーナーの希望を丁寧に汲み取りながら、敷地の特徴と周辺環境を巧みに読み解き、外部と内部の“間”を活かした設計がされています。西側道路に面した敷地以外の三方には隣家が建ち並ぶという密な環境下で、いかにプライバシーと開放感を両立させるか。その問いに対し、建築家が導き出した答えは、空間に“間”を生むことでした。
黒の外観が街並みに調和する洗練された佇まい
建物は、2つのダークグレーのボックスが絶妙なバランスで重なり合うようなフォルムが印象的。
全体としては黒を基調とした端正な外観なものの、ボリュームの重なりや色のグラデーションによって、圧迫感を感じさせません。
駐車スペースには屋根を備え、雨天時にも濡れずに出入りができるよう配慮。
玄関から続く軒下空間も、日常の動作に豊かな余白を添えています。
外部からの視線を遮るように設けられたテラス前の壁もアクセントに。
周囲からは閉じた印象でありながら、内部からは自然とつながるような穏やかな空間に。
まさに“間”が暮らしの質を高める空間です。
土間から広がる、暮らしの動線
玄関を開けると、細長く奥へと延びる三角形の土間スペースが現れます。
その突き当たりにはシューズクローゼットを配置。LDK側からはシューズクロークは隠れるため、玄関の存在感を近くに感じさせません。
玄関から直接LDKへとつながる動線によって、余計な廊下を介さず、空間に無駄のない構成となっています。室内の床にはモルタル風のシートを採用。スタイリッシュでインダストリアルな印象を与えながらも、外観と調和するモノトーンの雰囲気を継承しています。
開放的で整ったLDK空間
LDKは庭へと続く大きな開口を備え、隣地が気にならないよう設計された外構により、開放的な景色を実現。
深い軒が日射をやわらげ、四季折々の表情を室内に取り込みます。
キッチンは対面式のペニンシュラ型。背面には引き戸付きの収納棚を設け、生活感を上手に隠せる工夫が。
ダイニングテーブルはキッチンカウンターと一体化させることで、配膳や片付けもスムーズに。
空間を有効活用しながら、家族との距離感も自然と近づく構成です。
日常の中にある“特別”を育む仕掛け
リビングは間接照明が柔らかな表情を添え、夜には落ち着いた雰囲気を演出。窓からの光と照明のバランスが、時間帯によって異なる表情をもたらします。
階段下にはコンパクトなデスクスペースを設け、静かに集中できる“こもり感”のある場所を確保。
また、その裏には洗面台を配置し、帰宅後すぐに手洗いができる衛生的な動線をつくり出しています。階段はスケルトン仕様にすることで、視線の抜けを生み出し、空間の広がりをより一層際立たせています。
機能と美意識のあいだにある“ゆとり”
建築家が描いたのは、敷地の制約を逆手に取るような、洗練された空間構成でした。周囲を囲まれていながらも、室内は明るく、風が抜け、視線が遠くへと抜けていく。生活のあらゆる場面にちょっとした“間”を生み出すことで、心にゆとりが生まれます。1階はそんな「暮らしの土台」として、外と内、人と人をゆるやかにつなぐ場所となっています。