「街や社会を変えられるような気がする」建築家・工藤浩平が考える地方プロジェクトの魅力と大阪万博での建築デザインについて

前編:「多くの人から愛されるものには普遍的な魅力がある」建築家・工藤浩平が大切にしているデザインや建築家を目指したきっかけについて

個人住宅の設計を中心に、公共施設や店舗、宿泊施設など様々な建築物を手掛ける「工藤浩平建築設計事務所」代表、建築家・工藤浩平さん。建築家としての活動の傍ら、多摩美術大学や東京理科大学で講師としても活躍されています。今回は工藤さんに、地方プロジェクトの魅力や現在手掛けている2025年大阪・関西万博の休憩所のデザインについて伺いました。

条件やオーナーのライフスタイルを一つひとつつなぎ合わせる

工藤浩平・佐竹邸
Satake-house/photo : 楠瀬友将

建築家として非常にユニークな住宅をいくつも手掛けていますが、工藤さんの手掛ける住宅建築は街や周囲の環境に大きく開いた構成が多いように感じます。これはどういった意図で設計されているのでしょうか。

工藤浩平・佐竹邸
Satake-house/photo : 楠瀬友将

「その敷地はもちろん、施主の生活スタイルをヒアリングしていく中で浮かび上がる『こうしたらいいんじゃないか』というアイディアを、一つひとつつなぎ合わせていくことで最終的な形にたどり着くことが多いですね。」

社会を変えられるような影響力が地方プロジェクトの魅力

工藤浩平・プラス薬局みさと店
Plus Pharmacy Misato/photo : 中村絵、工藤浩平

工藤さんは東京のみならず、地元でもある秋田県をはじめ地方のプロジェクトも数多く手掛けられていますが、地方でのお仕事の面白さはどういったところでしょうか。

工藤浩平・プラス薬局みさと店
Plus Pharmacy Misato/photo : 中村絵、工藤浩平

「東京の場合は予算が大きかったり、大規模なコンペなどで競争があったりと、常に緊張感があります。一方、秋田をはじめとした地方ではそういったものがない分、パーソナルな問題がたくさんあるんです。また、東京ではクライアントやプロジェクトが大規模すぎて自分自身でできることに限界を感じることも多いのですが、地方であれば町長や市長などのリーダーとの距離感が近く、会いたい人には話を聞ける環境が整っています。それもあってか、地方であれば街や社会を自分が変えられるような感覚になるんです。そういった点で、関わる人それぞれの影響力が強くなることは地方のプロジェクトの魅力だと思います。」

心地よい空間づくりへのアプローチが場所によって異なる

工藤浩平・楢山の別邸
Villa in Narayama/photo : 楠瀬友将

佐竹邸のように都市的な場所にコミットする建築がある一方で、楢山の別邸や、鳥海邸のような周辺環境との関係性を作っていく建築がありますが、それぞれに共通する要素、違う要素はどういったところでしょうか。

工藤浩平・楢山の別邸
Villa in Narayama/photo : 楠瀬友将

「共通する要素としては、周辺に対してどれくらい開けるのか、どういう場所が作れるのかといった敷地から導かれる物理的な可能性が最初にあることでしょうか。

一方、その敷地自体、東京だと多くの建築物がせめぎ合うように立っているので余裕がなく、その分開口を設けて開放感をどこでつくるか、ということを意識する必要があります。楢山の別邸や鳥海邸のように敷地に余裕がある場合はどれくらい余白を空間に取り込むか、といった流れで考えます。そういった心地よい空間づくりへのアプローチのスタイルは異なる点と言えるかもしれません。」

石を用いた次に繋がる空間

大阪・関西万博、休憩所2
Rest Area2 at EXPO’2025

工藤さんは2025年の大阪・関西万博の休憩所の設計を手掛けられています。国を挙げた大きなプロジェクトに関わることにどういった意義を感じられていますか。また、こちらはどういったデザインになる予定なのでしょうか。

「万博は歴史が深くて、これまでにロンドンやパリなど多くの土地や文化の中で行われてきました。そうしたプロジェクトに自分が携わるということでこれまでの歴史と繋がるような感覚があります。その中で現代に生きる建築家として、僕のするべき使命というようなものを設計にあたって意識しました。

大阪・関西万博、休憩所の現場
Via : @koheikudo_and_associates

建築は石を用いたパビリオンになるのですが、なぜ石に着目したかというと、サステナビリティが問われる現代において、建築というある種環境破壊のような側面のある行為を行う上で、一時のための建築ではなく、次に繋がる建築でありたいと考え、地球から生み出された素材である石にフォーカスしました。石を用いてまずは人間のための空間を作り、期間終了後は大阪湾に埋める予定です。今回の会場である大阪湾の埋立地は石で埋め立てられているのですが、人間の開発によって大阪湾の潮流が乱れていて、生態系も乱れているという事実がリサーチでわかりました。そこで、環境を以前のように戻すべく、埋め立てに要する土砂を海底から取ったあとにできる窪地を埋め戻す活動をされている方にヒアリングして、パビリオンで使った石を窪地に埋められるような流れにしたいと考えています。僕ら人間のために建てたものでも、長い時間を考えると、人間のみならず地球のためにもなっているような、大きな意味で環境のデザインに繋がる建築を目指したいと思っています。」

楽しむことで人生の可能性が広がる

住宅を中心に、周囲との関係性も含め心地の良い空間づくりを手掛ける工藤さん。そんな工藤さんにとってライフイズ〇〇の〇〇に入るものは何でしょうか?

「“Joy”です。なんでもかんでも面白がったり楽しんだりすることで可能性が広がると思うので、楽しむことが大切だと思っています。」

多角的な視点から心地良い空間を生み出す

万博のプロジェクトでは、人間のみならず他の生態系にも配慮した空間づくりを目指していると語る工藤さん。場所、人、自然との関係性を多角的な視点で見つめることで、より多くの人に愛される空間を生み出しているようです。