建築や都市の理論で読み解き構築する建築家レム・コールハースが率いるOMAの建築10選!

あなたは、建築が単なる建物を超えて、都市や社会を映し出す鏡だと考えたことはありますか?レム・コールハースは、そんな建築の新たな可能性を切り開いた建築家の一人です。彼の作品は、摩天楼が林立する都市や、複雑に絡み合う社会構造を、大胆で独創的なデザインで表現しています。本稿では、コールハースの代表作10選を通じて、彼の建築が私たちに投げかける問いや、建築の未来について考えていきます。

建築家レム・コールハースとは!?

レム・コールハース
レム・コールハース | Via : Wikipedia

レム・コールハースは、オランダ出身の建築家であり、都市計画家でもあります。ジャーナリストや脚本家としての経験も持つ多才な人物で、建築設計事務所OMAを設立し、世界的に活躍しています。ロンドンのAAスクールで学び、現在はハーバード大学でも教鞭をとっています。彼の建築は、都市と建築の関係性や、現代社会における建築の役割を深く考察しており、多くの建築家に影響を与えています。OMAの研究機関であるAMOでは、建築を超えた都市や社会に関する研究も行っています。

彼の建築理論は非常にユニークで、ヒューマニズムと資本主義、秩序と混沌といった対極にある要素を大胆に融合させ、従来の建築概念を打ち破るもので知られます。代表作である『錯乱のニューヨーク』では、「マンハッタニズム」という都市理論を提唱し、摩天楼が林立する都市の構造を分析しました。また、コールハースは建築の素材を生かすことやヒューマンスケールの維持といったヒューマニズム的な側面と、巨大建築や資本主義社会の構造に注目する側面を併せ持ち、その矛盾を積極的に受け入れる姿勢が特徴です。

参考:ジャーナリスト、脚本家を経て建築家へと転身。OMAを率いる巨匠レム・コールハースとは?

1.ネクサスワールド レム・コールハース棟

ネクサスワールド レム・コールハース棟
ネクサスワールド レム・コールハース棟 | レム・コールハースやスティーブン・ホールなど巨匠建築家による集合住宅「ネクサスワールド」

福岡にある「ネクサスワールド レム・コールハース棟」は、その独特な外観が特徴的です。黒く波打つ石垣は、コンクリートを岩石の形に型抜きし、塗装することで実現されており、建物に重厚感と個性を与えています。

内部は、コンクリートやエキスパンドメタルを多用し、静かで落ち着いた雰囲気。緩やかなスロープや吹き抜けのパティオなど、開放的な空間とプライベートな空間が巧みに組み合わされています。各住戸は3層構造で、1階のパティオ、2階の個室、3階のLDKとルーフテラスから構成されます。特に3階のLDKは、大きな窓と傾斜天井が特徴で、開放感あふれる空間となっています。この建築は、集合住宅でありながら、各戸のプライバシーを確保しつつ、住む人に開放感と豊かな住空間を提供することを目指しています。

参考:レム・コールハースやスティーブン・ホールなど巨匠建築家による集合住宅「ネクサスワールド」

ネクサスワールド – nexus world

住所:福岡県福岡市東区香椎浜4丁目7−1 ネクサス香椎

2.クンストハル美術館

クンストハル美術館
クンストハル美術館 | オランダ・ロッテルダムにあるレム・コールハースとOMAによる批評的な建築「クンストハル美術館」

オランダ・ロッテルダムにある「クンストハル美術館」は、モダニズム建築への批評性を内包しながら、現代建築の新たな可能性を示した重要な作品です。従来のモダニズム建築が重視する「四角い平面」に対して、クンストハルは「斜行空間」という概念を取り入れ、内部の床を斜めにすることで、空間の連続性と奥行き感を生み出しました。この斜めの床スラブは、エントランスやカフェでは天井となり、ダイナミックな空間を創出しています。

また、クンストハルは、ミース・ファン・デル・ローエやコルビュジエといったモダニズム建築の巨匠へのオマージュと同時に、それらへの批評性を内包しています。インダストリアルな素材や鮮やかな色彩を用いたインテリアは、OMAらしい実験的な要素が強く、現代建築における新たな表現の可能性を示唆しています。

参考:オランダ・ロッテルダムにあるレム・コールハースとOMAによる批評的な建築「クンストハル美術館」

クンストハル・ロッテルダム芸術ホール – Kunsthal Rotterdam

開館時間:10:00~17:00
休館日:月曜日
URL : http://www.kunsthal.nl/
住所:Museumpark, Westzeedijk 341, 3015 AA Rotterdam,Netherlands

3.エデュカトリウム

エデュカトリウム
エデュカトリウム | Via : Wikipedia.

オランダのユトレヒト大学の「エデュカトリウム」は、従来の建築概念を覆す革新的なデザインが特徴です。この建築では、床、壁、天井といった要素が一体化し、空間を構成する要素が連続的に変化しています。特に、スラブが床であり壁であり、天井でもあるように機能することで、ダイナミックで一体感のある空間が生まれています。エントランスから続く斜めのスラブは、建物の外と内を繋ぎ、空間の連続性を強調しています。また、ガラスのカーテンウォールによって、建物の構造が明快に視覚化され、内部空間との一体感が生まれています。

インテリアデザインも、コンクリート打ちっぱなしやトラバーチン、グレーチングなど、様々な素材を組み合わせることで、工業的な雰囲気と同時に温かみのある空間を作り出しています。

参考:オランダ・ユトレヒトにあるレム・コールハースとOMAによる革命的建築「エデュカトリウム」

エデュカトリウム – Educatorium

開館時間:7:15~22:00(金曜日~20:30)
URL : https://www.uu.nl/educatorium
住所:Leuvenlaan 19, 3584 CE Utrecht, Netherlands

4.ボルドーの家(ルモワンの家)

ボルドーの家
Via : Wikipedia.

「ボルドーの家」は、フランス・フロリアックの丘上に建つ邸宅です。車いす生活を送る依頼主のために、3つのレベルを繋ぐ油圧式リフトを備え、バリアフリーを実現しています。キッチンや日常的なスペースは庭のレベルに、リビングは2階、ベッドルームは3階と、機能ごとにフロアを分けることで、広大な敷地を最大限に活用しています。

この住宅は、単なるバリアフリー住宅にとどまらず、レム・コールハースらしい革新的なデザインが特徴です。2002年には歴史的記念物に指定されるなど、建築界において高い評価を受けています。

5.イリノイ工科大学・スチューデントセンター

イリノイ工科大学・スチューデントセンター
イリノイ工科大学・スチューデントセンター | 電車を飲み込むチューブと建築が一体化するOMAによるイリノイ工科大学「スチューデントセンター」

アメリカのシカゴにあるイリノイ工科大学の「スチューデントセンター」は、線路が建物を貫通するという斬新な構造が特徴です。建物の上を走る電車によって生み出された独特な空間は、インダストリアルな雰囲気を醸し出し、内部は多様な素材と空間構成によって、ダイナミックで複雑な印象を与えます。斜めのスロープや緩やかな階段など、動線が工夫されており、来訪者は様々な角度から空間を体験することができます。また、地下の食堂は大きな窓から光が差し込み、開放的な雰囲気となっています。

この建築は、ミース・ファン・デル・ローエの「ユニバーサルスペース」といった従来の建築概念を打ち破り、新しい空間の可能性を示唆しています。工業的な素材をそのまま用いたインテリアデザインも特徴的で、OMAらしい実験的な建築と言えるでしょう。

参考:電車を飲み込むチューブと建築が一体化するOMAによるイリノイ工科大学「スチューデントセンター」

イリノイ工科大学・スチューデントセンター – McCormick Tribune Campus Center

住所:3201 S State St, Chicago, IL 60616 USA

6.ソウル国立大学美術館

ソウル国立大学美術館
ソウル国立大学美術館

韓国にある「ソウル大学美術館」は、傾斜地に建てられ、一部が宙に浮いているようなダイナミックな外観が印象的でユニークな美術館です。内部は、展示室だけでなく、大講堂や講義室、教育施設など、様々な機能が複合的に組み込まれています。地下から5階までの吹き抜け空間は、開放感と広がりを感じさせ、来館者に心地よい空間を提供します。

この美術館は、現代的な素材と韓国の伝統的な要素を融合させたデザインも特徴です。教育にも力を入れており、市民が美術に気軽に触れられるような工夫が随所に凝らされています。

ソウル大学校151棟・美術館

開館時間:10:00~18:00
休館日:月曜日
URL : http://www.snumoa.org/

7.シアトル中央図書館

シアトル中央図書館
シアトル中央図書館 | 読書の街・シアトルに現れる衝撃的なレム・コールハース率いるOMA設計の「シアトル中央図書館」

「シアトル中央図書館」は、アメリカ・シアトルにある独創的なデザインが特徴の図書館です。複雑な幾何学形状の外観は、シアトルの街並みに独特の存在感を放ち、内部はランダムに積み重ねた本をイメージしたような、開放的で多様な空間が広がっています。スキップフロアでつながる各フロアは、それぞれ異なるインテリアデザインが施されており、読書や学習、ミーティングなど、様々な活動に対応できるようになっています。また、大きな吹き抜けや自然光を取り込む設計により、明るく開放的な空間が生まれ、人々が集い、交流できる場所となっています。

この図書館は、単なる蔵書施設にとどまらず、市民が自由に学び、創造性を育むことができるような、新しいタイプの公共空間となっています。レム・コールハースは、本を収める場所という従来の図書館のイメージを打ち破り、人々が集い、共に学び、そして創造性を育むことができるような、全く新しいタイプの図書館を誕生させました。

参考:読書の街・シアトルに現れる衝撃的なレム・コールハース率いるOMA設計の「シアトル中央図書館」

シアトル中央図書館 – Seattle Public Library – Central Library

開館時間:10:00~18:00(火水木曜日~20:00)
URL : https://www.spl.org/hours-and-locations/central-library

8.カーサ・ダ・ムジカ

カーサ・ダ・ムジカ
カーサ・ダ・ムジカ | 巨大な岩のような外観が見る人の目を釘ずけにする!OMA・レム・コールハース設計の「カーサ・ダ・ムジカ」

ポルトの歴史地区に位置する「カーサ・ダ・ムジカ」は、レム・コールハース率いるOMAが設計した、独特な形状のコンサートホールです。大きな岩石のような外観は、街のシンボルとなり、来場者を惹きつけます。内部は、多様な空間がスキップフロアで連続しており、まるで洞窟を探検しているような、ユニークな体験を提供します。

この建築は、コンサートホールという枠を超え、街の人々が集い、交流できるような、新しいタイプの公共空間となっています。OMAは、従来のコンサートホールのイメージを打ち破り、人々に感動と驚きを与える建築を創造しました。

参考:巨大な岩のような外観が見る人の目を釘ずけにする!OMA・レム・コールハース設計の「カーサ・ダ・ムジカ」

カーザ・ダ・ムジカ – Casa da Música

URL : https://www.casadamusica.com/
住所:Av. da Boavista 604-610, 4149-071 Porto, Portugal

9.プラダ財団美術館

プラダ財団美術館
プラダ財団美術館 | レム・コールハースとOMAがミラノにあるプラダの美術館をデザイン!「プラダ財団美術館」

イタリア・ミラノにある「プラダ財団美術館」は、ミラノの旧蒸留所を改修し、現代アートを展示する複合施設です。既存の建物を最大限に活かしつつ、新しい建築物を融合させることで、「保存」と「創造」が共存するユニークな空間を実現しています。美術館内は、様々な素材やデザインの建物が組み合わさり、まるで小さな都市のような賑やかさを感じさせます。特に、ウェス・アンダーソンがデザインしたカフェ「BAR LUCE」は、映画のセットのような美しい空間で、来館者を楽しませています。

プラダ財団美術館は、単なるアート鑑賞の場にとどまらず、人々が集い、交流できるような、新しい文化の拠点となっています。OMAらしい実験的なデザインと、プラダの革新的なアートコレクションが融合し、訪れる人に刺激的な体験を提供します。

参考:レム・コールハースとOMAがミラノにあるプラダの美術館をデザイン!「プラダ財団美術館」

プラダ財団美術館 – Fondazione Prada

開館時間 : 10:00~20:00
休館日 : 火曜日
URL : http://fondazioneprada.org
住所 : Largo Isarco, 2, 20139 Milano, Italy

10.カタール国立図書館

カタール国立図書館
カタール国立図書館

カタールのドーハにある「カタール国立図書館」は、エデュケーション・シティに位置し、100万冊以上の蔵書を誇る、独創的なデザインが特徴の図書館です。大理石の壁と空色のカーテンウォールが周囲の景観に溶け込み、建物の2つの角を持ち上げることで、図書館の中心部へのアクセスが容易になっています。内部には、ライトを内蔵した本棚が階段状に配置され、資料が探しやすく、見通しの良い空間となっています。

特に、地下には貴重な書物を展示する空間があり、大英図書館との共同でアラブとイスラムの歴史を文書化するプロジェクトも進行しています。この図書館は、単なる蔵書施設にとどまらず、カタール国民の生涯学習を支援する、文化的な拠点となっています。

カタール国立図書館

開館時間:8:00~20:00(金曜16:00~)
URL : https://www.qnl.qa/
住所:District of Freedom, Education City, Al Luqta St, Doha, Qatar

建築界に多大な影響を与えるOMAと建築家レム・コールハース

レム・コールハースの建築は、ヒューマニズムと資本主義、秩序と混沌といった対極にある要素を融合させ、常に時代の先端を走り続けています。彼の作品は、単なる建物にとどまらず、都市や社会に対する深い考察と、建築の新たな可能性を示唆しています。本稿で紹介した10選の建築作品を通して、コールハースが建築界に与えた影響の大きさを改めて感じることができたのではないでしょうか。