アルヴァ・アアルトが少年時代を過ごしたフィンランドの街「ユヴァスキュラ」のアアルトの建築10選
フィンランドの中南部の湖水地方、ユヴァスヤルヴィ湖畔の小さな街「ユヴァスキュラ」。ここは、北欧モダニズムの巨匠アルヴァ・アアルトが少年時代を過ごした街でもあり、彼が初めて設計の仕事を得た地でもある。「アアルトとの所縁が深い街」として知られるユヴァスキュラでは、至る所にアアルトの建築作品を見つけることができる。
最も影響力を持った20世紀の建築家の一人、アルヴァ・アアルト
フィンランドのクオルタネ出身の建築家、北欧モダニズムの巨匠 アルヴァ・アアルト。彼のデザインの特徴は、そのどれもが有機的なフォルム、素材、そして光の組み合わせでできていることである。生涯で200を超える建物を設計し「建築は家具と補完し合うもの」という思想から、設計した建築に合わせて家具のデザインも手掛ける。
アルヴァ・アアルトが生み出した有機的なフォルムの建築や、彼のデザインした家具やガラスアイテムは、北欧デザインが世界に広まる「大きな役割」を果たしたと言われている。
アアルトの建築物が立ち並ぶ「ユヴァスキュラ大学」
街の西側にある「ユヴァスキュラ大学」は、1951年の設計競技によりアアルトが勝利し、本館や図書館など7施設の設計を手がけキャンパスだ。キャンパスは、陸上競技用のトラックを中心にその廻りを馬蹄形に囲むように建築が配置され、赤いレンガの外装にハイサイドライト、トップライトなど、アアルトの建築的な特徴が集約されている。
Jyväskylän yliopisto – ユヴァスキュラ大学
住所:Seminaarinkatu 15, 40014 Jyväskylän yliopisto, Finland
アルヴァ・アアルトの遺作になった「タウンシアター」
1982年に完成し今でも現役で使われている、ユヴァスキュラの中心部にある「タウンシアター」。ここは「アアルトの遺作となった大型文化施設」として有名な施設で、彼の後期の作品ということで完成度の高い空間が広がっていることも特徴である。
内部空間は、円柱の木のルーバーなどアアルトが特徴的に使う建築エレメントが多く使われており、湾曲した壁面や丸い柱を巻いた円筒タイル、格子がリズミカルで大きな開口部など「アアルトの建築手法」が随所に散りばめられている。
Jyväskylän kaupunginteatteri – ユヴァスキュラ・タウンシアター
URL : https://www.jyvaskyla.fi/kaupunginteatteri
住所:Vapaudenkatu 36, 40100 Jyväskylä, Finland
アアルト自身が設計した「アルヴァ・アアルト美術館」
ユヴァスキュラ大学の西側にある「アルヴァ・アアルト美術館」は、アアルト自身が設計したアアルトの美術館だ。アアルト建築の特徴の1つであるマテリアル「白の壁」を多く使用した時代を代表する建築物としても知られている。
彼がデザインした家具や設計したモデルが展示されているのはもちろん、カフェスペースやテラススペースに置かれたテーブルやチェアなど、どこまでもアアルトのデザインを楽しめる。
大きな展示空間の上部に見えるパイン材を使った波打つ壁は、1939年にNYで開かれた万博でアアルトが使った技法だ。外観も含めて、変形した平面が生んだ設計が印象的な建築である。
Alvar Aalto Museum – アルヴァ・アアルト美術館
開館時間:11:00~18:00
休館日:月曜日
入館料:€6
URL : https://www.alvaraalto.fi/kohde/alvar-aalto-museo/
現在改修中の「中部フィンランド博物館」
アルヴァ・アアルト美術館の隣に建つ「中部フィンランド博物館」は、ユヴァスキュラを中心とする中部フィンランド地方の歴史や文化、地理に関するさまざまな展示行う施設である。この施設もアアルトによる設計で、白い外観からもアアルトらしさが感じられる。訪問時は、増築のためのコンペで勝利したフィンランド若手建築家グループによる建築の改修中だった。
Museum of Central Finland – 中部フィンランド博物館
住所:Alvar Aallon katu 7, 40600 Jyväskylä, Finland
アアルト夫妻の最初の大きなプロジェクト「労働者会館」
ユヴァスキュラの中心にある「労働者会館」は、建築の仕事を始めて間もないアルヴァ・アアルトが「最初に設計した大きなプロジェクトの公共施設」だ。「アアルトの建築家としての足掛かりとなった建物」として、彼の建築の中でも「古典主義様式時代」の建築様式を用いている代表的な建築とされている。
1925年に完成し、現在もなお会議やパーティー用として利用されている労働者会館。まだモダニズム建築にたどり着いていない頃の建物だが、アアルト建築の歴史を辿り、理解を深めることができる重要な場所である。
Aalto-sali – 労働者会館
URL : http://aaltosali.fi/
住所:Väinönkatu 7, 40100 Jyväskylä, Finland
モダニズム以前のアアルトの建築を見ることができる「自衛団ビル」
写真奥の旧「自衛団ビル」はアアルト初期の建築で、1929年に建てられた作品だ。労働者会館同様に、まだ「古典主義様式時代」な要素を少し引きずっているデザインであることが分かる。現在は、ホテルとしてリニューアル中らしく、アアルトを辿る歴史が深い建築作品を体感できる宿泊施設に、注目が集まる。
Forenom Aparthotel Jyväskylä
住所:Kilpisenkatu 8, 00280 Jyväskylä, Finland
連続する大きな窓が特徴的な旧「警察署ビル」
タウンシアター沿いの坂を下って行くと現れるのは、アアルト設計による旧「警察署ビル」。本来は、警察署として使用されていたが、現在はオフィスビルになっている。
連続する大きな窓が特徴的なこの作品は、警察署ビルらしい「重い雰囲気」のあるデザイン慣習を一変する。周りの風景に溶け込む「明るい雰囲気」でデザインされたものだ。1階にはカフェが配置されており、アアルトらしいインテリアになっている。
Sodexo Tietotalo
開館時間:8:00~13:30
休館日:土・日曜日
URL : https://www.sodexo.fi/ravintolat/jyvaskyla/tietotalo
住所:Kilpisenkatu 1, 40100 Jyväskylä, Finland
アルヴァ・アアルトによるオフィスビル
旧警察署ビルのならびにあるオフィスビルも「どこかアアルト建築に似ている」と思ってみたら、やはりアアルトの作品だ。街を歩いていると、貴重なアアルトの建築作品がふらっと度々に登場する。それこそがアアルトと深い縁で結ばれる「ユヴァスキュラ」という街の凄さなのかもしれない。
Rakentajantalo
住所:Hannikaisenkatu 17, 40100 Jyväskylä, Finland
アルヴァ・アアルトの傑作建築のひとつ「セイナッツァロの村役場」
ユヴァスキュラ中心部からバスで30分ほど行くと現れるのは「旧セイナッツァロ村」というエリア。ここには、アアルトの建築のなかでも傑作との声も多い「セレナッツァロの役場」が存在する。
1952年完成したこの役場は、外壁の煉瓦と木製のサッシで構成された外観が印象的だ。内部は、アアルトらしい図書館や中庭とつながるような回廊、神聖な雰囲気の議会場など多様な空間が織りなす。廊下や階段の細部に至るまでも、人の心を動かすアアルトのきめ細かいデザインがなされている。
Säynätsaloon kunnantalo – セイナッツァロの村役場
会館時間:12:00~17:00
休館日:火曜日
入館料:€8
URL : https://www.tavolobianco.com/ja/top/
住所:Parviaisentie 9, 40900 Säynätsalo, Finland
アルヴァ・アアルトの夏の家・通称「コエ・タロ」
アアルトの傑作「セレナッツァロの役場」と同じく、旧セイナッツァロ村にあるアルヴァ・アアルトの夏の家・通称「コエ・タロ」。ここは、アアルト自身がサマーハウスとして使っていた実験住宅だ。
フィンランドらしい森の中に溶け込む住宅は、北欧らしいインテリアで作る心地よいリビングが広がる。北欧の理想的なライフスタイルを送ることができそうな居心地の良さが感じられる空間だ。
Alvar Aalto Experimental – アアルト・夏の家/コエ・タロ
URL : https://www.alvaraalto.fi/en/location/muuratsalo-experimental-house/
入館料:€20
住所:Melalammentie 6, 40900 Jyväskylä, Finland
アルヴァ・アアルトの所縁が深い街、ユヴァスキュラ
ユヴァスキュラは、アルヴァ・アアルトの所縁が深い街として多くのアアルト建築が残る貴重な街だ。「アアルトっぽいなと思った建築が、後々に調べたところアルト建築だった」という現象も多く体験でき、何気なく通り過ぎた建築もかっこいい。まさに魅惑の街である。
「世界で最も影響力を持った20世紀の建築家」の一人であるアルヴァ・アアルト。彼がユヴァスキュラに残した作品の数々と歴史で、この街がいかに価値ある場所であることは言うまでもない。そして今、アアルトのおかげで「建築の街」としての認知も強く根付いており、ピーター・ズントーの建築など著名な建築家の作品が建ち始めている。ここから読み解くことができるのは、アアルトが手本となり影響を与えた建築家やデザイナーによって、現在・未来へと今後もユヴァスキュラが進化し続けていく姿だろう。