アートと街が交ざり合う、建築家・西沢立衛による街に開かれた美術館「十和田市現代美術館」

近年、青森県が現代アートに力を入れていることをご存知ですか。縄文遺跡、津軽三味線など、土俗的文化のイメージが強い青森県。実際に県立美術館が設立されたのは2006年と、アートに対しては後進的でした。しかし、県立美術館に先立って2001年に設けられたアーティスト・イン・レジデンス「国際芸術センター青森」を筆頭に、2006年に「青森県立美術館」、2020年に「弘前美術館」、そして2021年に「八戸市美術館」がオープンし、現代アートを醸成する環境が整いつつあります。県立美術館に続いて2008年に開館した「十和田市現代美術館」は、街とアートの一体感がユニークなスポットです。

街づくりの中心としての美術館「十和田市現代美術館」

写真左手のアートはチェ・ジョンファによる「フラワー・ホース」

青森県十和田市が推進するアートによるまちづくりプロジェクト「Arts Towada」の拠点施設として開館した「十和田市現代美術館」。十和田市の中心部の主要施設が並ぶ大通りに面しており、将来は街全体を美術で活性化していく構想が進められています。

写真右側の壁画はポール・モリソンによる「オクリア」

建築は、国内外で活躍する22人のアーティストによる常設と市民活動スペースから構成されています。設計を行ったのは妹島和世とともに建築家ユニットSANAAを主宰する西沢立衛。

エントランスホールの床はジム・ランビーによる「ゾボップ」

展示室が街にそのまま投げ出されるかのように様々な向きへ配されており、街の中に点在するような印象を与えています。また、それぞれの建築に大きな開口を設けることで内部の様子を街に溶け込ませています。

一つのアート作品ごとに設けられた一つの展示空間

ロン・ミュエクによる「スタンディング・ウーマン」

約4000㎡の美術館の敷地内に点在する、それぞれにアートが入った15個の展示室は、透明な風通しの良い廊下で繋げられています。

作品を一つひとつ訪ねながら、気軽に外へ出たり街の様子を伺うことができます。この構成によってアートと街が交ざり合い、一体感を生み出しています。

展示室の間の外部空間もアートが配置され、より街に開いた美術館に

建築の内外の展示物は通りからも鑑賞できるようになっており、通りを歩いているだけで街そのものが美術館のように感じられます。

写真左手のアートは椿昇による「アッタ」

美術館にはアナ・ラウラ・アラエズやロン・ミュエク、チェ・ジョンファなど現代アートを代表する作家の作品が収蔵されており、ひとつのアート作品に対して独立した一つの「箱」が展示室として与えられています。

アナ・ラウラ・アラエズによる「光の橋」

「アート作品のための家」のコンセプト通り、大きさや高さの異なる箱が小屋のようなスケール感で集まり集落を形成しているような構成です。別の展示室に入るたびに異なる美術館に入るような感覚で、それぞれの作品を新鮮な視点で楽しむことができます。

美術館前の「アート広場」に並ぶパブリックアートも見どころ

水玉模様が印象的な草間彌生による「愛はとこしえ十和田でうたう」

美術館向かいの公園「アート広場」にも多種多様なパブリックアートやストリートファニチャーが多数展示されています。

フランスの建築家3人組のユニットR&Sie(n)による「ヒプノティック・チェンバー」

フランスの建築家3人組のユニットR&Sie(n)による「ヒプノティック・チェンバー」という作品は、鑑賞するのみならず、内部にも入って空間を体感することが可能です。

ベルリンのアーティスト集団・インゲスイデーによる「ゴースト」と「アンノウンマス」

十和田市現代美術館の同じ白い箱の「アンノウンマス」とその隣の明らかにお化けという「ゴースト」とは、ベルリンのアーティスト集団・インゲスイデーの作品です。

オーストリア出身のアーティスト、エルヴィン・ヴルムによる「ファットハウス」

国内外のアーティストの作品を身近に感じることができる、ユニークな広場です。

青森の長い冬にも楽しめる空間

写真左手のアートはチェ・ジョンファによる「フラワー・ホース」

冬場には一面に降り積もる雪と白い建築が同化し、より青森という土地との一体感が感じられます。

カフェスペースの床はマイケル・リンによる壁画作品

室内ではSANAAユニットの一人・西沢立衛らしいミニマルなディティールの開口部によって、外の雪景色が切り取られ、一つのアート作品のように空間に浮かび上がります。

写真左手のアートは椿昇による「アッタ」

ガラス張りの通路から眺める雪景色に溶け込むアート作品からも、青森らしい風情が感じられます。

街のなかで楽しむ現代アート

作品を一つの建物に仕舞いこむのではなく、ただ作品が街に置かれているだけでもない。アートと街の融合が建築によって見事に成り立つ「十和田市現代美術館」。建築と街づくりが一体となり、新感覚でアート作品を楽しめる空間です。

十和田市現代美術館

開館時間:9:00〜17:00(最終入館 16:30)
※cube cafe&shopも同様(カフェラストオーダー 16:30)
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は、その翌日)、年末年始
料金:一般 1800円(企画展閉場時:1000円)、高校生以下 無料
TEL:0176-20-1127
Web:https://towadaartcenter.com/
所在地:青森県十和田市西二番町10-9
アクセス:十和田観光電鉄バス「八戸駅」東口⑤から乗車「官庁街通」バス停下車、美術館まで徒歩5分