「長く愛される、暮らしに寄り添うようなものをデザインしたい」ミナ ペルホネン・皆川明のインスピレーションの源

日本を代表するブランド「ミナ ペルホネン(minä perhonen)」。日本各地の生地産地との連携により生み出されるハンドドローイングによるオリジナルのテキスタイルが特徴です。「特別な日常服」をコンセプトとして始まった活動は、家具やうつわなどのインテリアへとデザインの幅を広げながら、日々に寄り添うものづくりを目指しています。今回はミナ ペルホネンのデザイナー・皆川明さんに、インスピレーションの源やものづくりへの視点について伺いました。

「ミナ ペルホネン」デザイナー・皆川明

photo: Shoji Onuma

1967年東京生まれ。1995年にミナ ペルホネンの前身であるminä(ミナ)を設立。ハンドドローイングを主とした図案によるテキスタイルデザインを中心に、衣服をはじめ、家具や器、店舗やホテルの空間ディレクションなど、暮らしに寄り添うデザイン活動を行っています。デンマークのKvadrat、スウェーデンのKLIPPANなどのテキスタイルブランド、イタリアの陶磁器ブランドGINORI 1735へのデザイン提供、新聞・雑誌の挿画なども手掛けています。現在はご自身の活動の傍ら、多摩美術大学の教授も務められています。

好きなものに囲まれて暮らしたい

まずは、日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。

「暮らしの中のデザインというと、全てにおいて興味があるのですが、インテリアや食器、部屋に飾るアートなど、全て自分の好きなものを、実際に作家に出会いながら集めて、それらを大事にしながら暮らしています。自分の好きなものに囲まれて暮らしていると思います。」

好きな場所は1日の流れごとに変わる

衣服に限らず様々な空間のディレクションも手掛ける皆川さんですが、お好きな空間はどういったものなのでしょうか。

「家の中ではキッチンにいることが多いです。食事を作ったり、それを食べるダイニングや、そのあとにコーヒーを飲むリビングなど、その時間それぞれで好きな空間、場所があります。」

お料理がお好きなんですね。得意料理はありますか?

「ミナ ペルホネンの前身、ミナというブランドをしていた頃は魚市場でアルバイトをしていたので、魚料理や和食を作ることが多いですね。」

魚市場と聞くと意外な経歴ですが、今でもそこで学んだ経験が日常で生かされているのですね。

旅先の日常風景からデザインのインスピレーションを得る

「ミナ ペルホネン/皆川明 続く」展示風景
photo: Norio Kidera

ミナ ペルホネンのデザインからは、やわらかくあたたかな印象を受けますが、デザインのインスピレーションや活動を続ける原動力はどこから得られていますか?

「新型コロナウィルスが広がるまではヨーロッパをよく訪れていたり、旅先の土地の日常からいろいろな情報を得て感じたものをスケッチをしたりデザインをしたりと、目で見たものからインスピレーションを受けています。」

なかなか海外に行けない日々が続いている現状は辛いのではないでしょうか。

「いままでの旅の思い出からたくさんのデザインが生まれているような気もします。」

確かに、旅の思い出は色褪せずに、記憶に積み重なるものかもしれません。

陸上競技もファッションも、日々の地道な努力の積み重ねが大切

「ミナ ペルホネン/皆川明 続く」展示風景
photo: Norio Kidera

学生時代は陸上部、なかでも長距離走の選手として活躍していたそうですが、そこでの経験から服作りに生かされているポイントはありますか。

「長距離走の練習というのは地道に長い距離をひたすら毎日走ったりと、細かな練習の積み重ねなのですが、ファッションでも毎日のものづくりの中から少しずつ小さな気づきを得て、それをつぎのものづくりに活かす、という点では陸上の日々の練習と似ているように感じます。」

独立前に所属されていた会社では、生地からデザインされて、洋服を縫って、販売まで全部一社でやっていたとのことですが、その時の経験も今に繋がっているようですね。

「洋服作りが一貫してどういった流れで作られているのか、ということを理解する上ではとても勉強になりましたし、今のものづくりもその延長のような感覚でやっていると思います。」

流行に流されず、本当に自分が好きなものをデザインしたい

「ミナ ペルホネン/皆川明 続く」展示風景
photo: Norio Kidera

ミナ ペルホネンというと流行に左右されないデザインが多くの方に愛されていますが、そうしたのデザインを作るのは大変ではないでしょうか。

「わたしたちのデザインのチームでは流行という考えは全く持たないのですが、自分たちが何を好きなのかをしっかりと持っていることが大事だと思うので、日々の暮らしの中で、いろいろな考えを持ちながら何が好きなのか、心の内側から出てくるものをデザインしたいと思っています。」

生活を豊かにし、愛着が生まれるようなものを選ぶ

photo: Norio Kidera

ミナ ペルホネンのショップではオリジナルのアイテムに加えて器や食料品など皆川さんの審美眼で選ばれたアイテムがたくさん並びますが、どういった視点でセレクトされていますか。

「生活の時間というのは人にとってとても大切な時間なので、その時間ができるだけ豊かで、身近で、そしてそのものに愛着が詰まっていくようなことを思いながら選んでいます。」

フィンランドの魅力は、ものを長く愛するライフスタイルにある

フィンランドには19歳の頃から通っていらっしゃるそうですが、フィンランドの魅力とはどういった点でしょうか。

「フィンランドにもわたしたちのものづくりと同じように、ものを長く愛着を持って使い続けるという生活習慣がありますし、デザイナーたちもそれをもとに長く愛されるデザインをしているので、そこに共感と好感を持って、19歳に初めて訪れた時と変わらず通い続けています。」

フィンランドにも様々なブランドがありますが、見た目のよさや機能性を超えてあたたかみを持ったデザインが多いような気がします。これらには皆川さんのデザインにも通ずるものが感じられますね。

「“かっこいい”ということは、比較的一過性で終わってしまう価値の場合もあるので、わたしたちは長く愛されるものとして、暮らしに寄り添うようなものを考えながらデザインしたいと思います。」

長く愛されるものづくりを目指す

自身の心の内側を見つめたり、旅先での日常生活から得たインスピレーションをもとに、流行にとらわれない独自のデザインを生み出す皆川さん。衣服に限らず、長く愛されるものづくりによって生み出されたアイテムは、これからも多くの人の生活に寄り添い、暮らしを豊かにしてくれそうです。

福岡市美術館で開催中の展覧会「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」

「ミナ ペルホネン/皆川明 続く」展示風景
photo: Norio Kidera

ミナ ペルホネンのデザイナー・皆川明さんは、流行に左右されず、長年着用できる普遍的な価値を持つ「特別な日常服」をコンセプトとし、日本各地の生地産地と深い関係を紡ぎながら、オリジナルの生地からプロダクトを生み出す独自のものづくりを続けてきました。

2022年4月23日(土)より福岡市美術館で展覧会「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」が開催中。生地や衣服に加え、創作の背景を浮き彫りにする作品や資料を併せて展示され、ミナ ペルホネンと皆川明さんのものづくりとその思考を紹介。

ミナ ペルホネン/皆川明 つづく

会期:2022年4月23日(土)〜6月19日(日)
開館時間:午前9時30分~午後5時30分※いずれも最終入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
観覧料:一般 1600円・高大生 1000円・ 小中生 600円
URL : https://mina-tsuzuku.jp
場所:福岡市美術館・〒810-0051 福岡市中央区大濠公園 1-6
アクセス:地下鉄空港線・大濠公園駅より徒歩10分

皆川明さんのサイン本をプレゼント

2022年4月23日(土)より福岡市美術館で開催中の展覧会「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」の開催を記念して、今回CROSS FM『DAY+』に出演頂いたミナ ペルホネンのデザイナー・皆川明さんよりサイン本のプレゼントがあります。

展覧会の図録でもあり、「つづく」をキーワードにミナ ペルホネンの創作のプロセスや思考を綴じ込めた、特別な一冊です。お近くの書店、または、Amazonにてご購入できます。

サイン本をご希望の方は、メールフォームよりご応募ください。

サイン本プレゼント

後編:デザイナー・皆川明が考える心地の良い空間と〈ミナ ペルホネン/皆川明 つづく〉展の見どころ