松山将勝が両親のために建てた、奄美大島の伝統を取り込んだモダンで住み良い住宅 「父母の家」
福岡を拠点に活動する建築家・松山将勝。奄美大島の集落に建つ「父母の家」は、松山氏の両親である奄美大島の伝統工芸である大島紬を生業にしてきた老夫婦の、終の棲家として計画されました。自身も生まれ育った土地である奄美大島の伝統的な建築手法や要素を取り込みつつ、現代的な暮らしやすさも兼ね備えた、住み良い住宅です。
周囲の自然を取り込むような大きな開口部が特徴の外観
敷地は奄美北部の太平洋側に位置し、長閑な集落の風景や山並みを望む高台にあります。周囲の豊かな自然を取り込むべく、4方に内外を貫通するコンクリートの壁を放射状に立て、大開口を設置。ゆったりとした軒下をつくる大屋根は4mピッチで配した75mmの鉄骨柱で支えています。南の島での設計は、台風や亜熱帯気候の厳しい環境への備えが最も重要な要素になりますが、その備えから外部に対して閉鎖的な建築が多く見られます。
「父母の家」では、この場所の自然豊かな風景を日常の暮らしに取り込める開放的な空間を可能としながら、過酷な気候風土にも耐えうる強さを持った建築の実現に向け、二つの手法によって解決策を見出したいと考えられました。
自然を取り込む暮らしと過酷な気候風土への耐性
自然豊かな風景を暮らしに取り込みつつ、亜熱帯ならではの気候風土に耐えるべく盛り込まれた工夫は大きく二つ。
一つめは、大屋根を架け深い軒を持つ形態を用いる事で、室内の殆どを木陰の下で涼むような環境を創り出す事。
2つめは、台風に対して建築を閉じる事で対策を講じるのではなく、むしろ外部に限りなく開いていけるような強い骨格を持つ建築を創造する事でした。
具体的には、鉄、コンクリート、木の3 要素をすべて用いて、それぞれの特性を生かした断面を探りながら、最終的には、鉄骨で大屋根を支持し、コンクリートで外壁を覆い、大屋根の重量や熱橋対策には木組を用いた構造体に至りました。
外と内部の境界が曖昧な、自然と溶け込むような住空間
平面は、4mの均等スパンで構成された鉄骨造に対して、コンクリートの壁は構造に拘束されることなく自由な構成を可能としています。
かつての奄美群島の建築様式として広く用いられてきた分棟型住居のように、それぞれの機能は独立している様相を見せながら、個室以外のパブリックな空間は、突出する壁と共に内から外へと限りなく拡張していく場の状態を創り出しています。
浮遊する屋根と壁の隙間から挿入される光の陰影は、この島で生まれ育った松山氏が少年時代に体感した光の再現であり、原風景によって導かれる形態を問い続け辿り着いた建築でありました。
豊かな自然を取り込んだ、時間の移ろいが愛おしく感じられる住宅
モダンな外観の中にも、奄美の伝統や気候風土への耐性を盛り込み生み出された「父母の家」。移りゆく光の表情や室内からのぞむ穏やかな風景が、老夫婦の残りの人生や暮らしに幾度もの彩りをもたらしてくれるはずです。