「人と人、社会との繋がりを伝えていきたい。」建築家・松山将勝の大切にしたいデザインと空間
毎週月曜日に立山律子がお送りする福岡のラジオ放送CROSS FM「DAY+」。「#casa(ハッシュカーサ)」の枠に今回ゲストとしてお越し頂いたのは、福岡を拠点に活動し、住宅からクリニック、病院などの商業空間まで幅広い建築設計を手掛ける建築家・松山将勝(まつやままさかつ)さんです。前編では大切にされているデザインや好きな空間について伺いました。
福岡を拠点に活動する建築家・松山将勝
1968年鹿児島県奄美大島生まれ。1991年東和大学卒業後、1997年松山将勝建築設計室設立。〈父母の家〉〈大屋根の棲家〉〈海辺のすみか〉など、住宅をメインに様々な建築設計を手掛け、高い評価を得ています。現在はご自身の活動の傍ら、公益社団法人 日本建築家協会九州支部 支部長も務められています。
生活行為を自ら選んでいくような自由さを持った空間を提案
まずはじめに「日常生活の中で大切にしているデザイン」について伺いました。「職業柄、建築設計の話になりますが、家族の暮らしやライフスタイルは多種多様である一方で、なぜか多くの住空間は一律であると思っています。なので僕はその家族でしか存在しない場の状態、空間の展開をどのように作っていくかということについてこだわってデザインしています。
例えば家族それぞれで暮らし方が違いますよね。僕たち建築家は要望に即した設計を行っていきますが、それは暮らしを限定していくことになります。つまり、ここは食事の場所、くつろぐ場所、寝る場所というふうに。そうではなく、今日はここで食事をしよう、くつろごう、といった家族がもっと限定されることなく、生活行為を自ら選んでいくような自由さを持った空間を提案したいと考えています。」
確かに、住宅が出来上がったときにはここがキッチン、リビングと空間と機能が決まっているものですよね。そうではなくて、住んでから考えてくださいという自由なデザインが松山さんの特徴のようです。
「とはいえ全てを住み手側に委ねるのではなく、ある程度は暮らしの想像ができる状態を作っています。空間の機能を限定されることが不自由さに繋がっていくと思うので、新しい在り方を提案できないかと日々考えています。」
居心地がいい空間とは人それぞれ。だからこそ住み手側が用途を決められるフレキシビリティが大事なのですね。
「暗くて影のある空間が心地が良くて好き」と語る松山さん
新しい住宅空間の在り方を提案している松山さんですが、どのような空間がお好きなのでしょうか。
「多くの方が明るく開放的な空間を好みますが、個人的には暗くて影のある空間が心地が良くて好きなんです。自分の作品でも無意識に暗い場所を作ってしまいます。僕の癖なんですね。とはいえ、依頼主も最初は抵抗されますけど、僕に作らせる以上しょうがないですよね(笑)。実際に完成した空間で暮らしてみると、オーナーからも『実は影の空間が気に入っています』と言われます。あれだけ抵抗してもそれを体験してみると心地よさがわかる。人の好みは変わるんだな、と感じられる瞬間が多いです。住宅を設計する上では自然光をどう取り入れるかを意識することが多いのですが、僕はどちらかというとどのような影空間を作るかといった意識が強いので、やっぱり暗い空間が好きなんだと思います。根が暗いのかもしれませんね(笑)。
暗くて狭い空間でも、意外と落ち着いたり納まりが良くて居心地が良かったりしますよね。広さや開放感に捉われずにヒトの本能を考えるからこそ、本当に心地の良い空間が作れるのかもしれません。
今後の暮らしのデザイン、自身の活動について
新型コロナウィルスによって生活が変わりつつある現代。建築家としての活動にも影響はあるのでしょうか。
「アフターコロナについてですね。個人的に危惧しているのは、人と接触しなくても仕事や暮らしが維持できる社会に変わってしまうということです。建築家はその時々の社会のニーズに適応していかないといけませんが、とはいえ僕たちは建築を通して人と人、社会との繋がりを作ってきたので、その大切な繋がりまでも希薄になってしまうのではないかと心配しています。オンラインでの合理的な社会は否定しませんが、その“繋がり“は失ってはいけないものだと建築家として伝えていきたいですね。」
住宅はもちろん、建築とは人が集い時を共有する空間。リアルな場でしか生まれない“繋がり”の大切さは私たちも忘れてはいけないものですよね。
毎週月曜日にゲスト対談を行なっている福岡のラジオ放送CROSS FM「ライフスタイルメディア #casa」。建築家・松山将勝さんをゲストに迎えた後編については「『住み手が決める自由な住宅を提案したい。』建築家・松山将勝が考える心地よい空間と豊かな暮らし」からどうぞ。