満天の星空でオフグリッドな夢を。“愚かさ”という名の砂漠のキャビン
カリフォルニアの砂漠の外れに、見捨てられたように錆びた2つのキャビンがあります。よく見ると、建物の脇には大きなソーラーパネルが掲げられているのがわかります。夜になると明かりが灯り、オープンエアの2階のデッキに人影が現れました。頭上の満天の星が、漆黒の暗闇にいまにも落っこちてきそうです。
カリフォルニア州ジョシュアツリー国立公園の北側、巨大な岩とユッカに囲まれたモハーヴェ砂漠にある2つのキャビンは、錆びた鉄で赤く覆われています。連邦政府から譲渡された土地の上に、1954年に建てられた朽ち果てた1階建ての農家を、宿泊用のキャビンとしてリノベーションしたもの。ニューヨークとロサンゼルスを拠点とする建築スタジオ、Cohesionのマレック・アルカディ (Malek Alqadi) がデザインを担当しました。
「フォーリー (Folly:愚かさ)」と名付けられた建物は、わずかなスペースでも有効活用しようと考えるタイニーハウスとは、まったく異なるコンセプトの建築と言えます。
「フォーリーは、現代的でミニマルなラグジュアリーに包まれながら、自由気ままなにすべての現実から逃れたいという欲求から生まれました。ゲストと会話するように構築された奇抜な構造が、景色や瞬間に興味を持たせて、環境との対話を促進するのです」とマレックは言います。
フォーリーは、2つの離れたキャビンから構成されています。フォーリーの最大の“愚かな”特徴は、2つ目のキャビンにある、部分屋根のオープンデッキ。この「ポータル」と呼ばれるStargazing Suite(星見のスイート)には、屋外のはしごを伝ってアクセスします。居心地の良いラウンジエリアの中心には、クイーンサイズのベッドが置かれ、オープンエアの中で横たわりながら銀河の神秘に酔いしれたり、日光浴を楽しむことができます。
北向きの壁には、ミニ冷蔵庫、収納スペース、バイオエタノール暖炉が隠され、映画観賞用のプロジェクターも備え付けられています。暖炉と暖房付きベッドで温まりながら、映画を観たり星空を眺めたりできる贅沢な環境です。モハーヴェ砂漠では雨はほとんど降りませんが、雨の時は開放部をカバーする電磁シャッターをiPad経由で操作します。
43平方メートルのメインキャビンでは、未コーティングの合板が漆黒の石膏と強いコントラストをなしています。広々としたインテリアには、サボテンが印象的に飾られています。
現代的でシンプルなキャビンは、酸化金属シートで覆われており、砂漠の風景と調和しています。オリジナルの建物の厚板と骨組みを再利用し、リビング・ダイニングエリアとキッチン、寝室ロフト、バスルームを収容するために元の屋根をかさ上げし、新しい構造に組み込んでいます。
傾斜した屋根は住空間を増やすのみならず、ソーラー駆動式の天窓を通って、熱気を放出させるのを可能にしています。「既存の構造を紡ぎ合わせてそれを補強し、美しい環境を損なうことなく、再び生命力を与えるというアイデアでした」とマレック。
シャワーのあるウェットルームには、砂漠で広く見られる花崗岩の岩石が置かれ、腰掛けられるようになっています。
2つの建物をつなぐ木製デッキには、屋外レインシャワーと馬用の飼い葉おけを利用したバスタブがあります。
ソファとダイニングチェアはイケア製です。ソーラー冷蔵庫はEcoSolarCool社のもの。はしごはロフトにつながり、降雨センサーを備えたソーラー駆動のベルックス (Velux)の天窓が取り付けられています。
ダイニングエリアには、デンマークのノームアーキテクツ (Norm Architects) のテーブル「Snaregade」をフィーチャーしています。
洗面所では、クラウス (Kraus)社のシンクとデルタフォーセット (Delta Faucet)の水栓が、ラグジュアリー感を醸しています。
住環境には、Augustのスマートロック、Scoutの防犯システム、ルートロン (Lutron)によるワイヤレス調光システム「Caséta」や、iPadでコントロールするソーラーエネルギーモニターなど、先端テクノロジーが満載されています。
フォーリーは完全オフグリッドであり、「ソーラーパネルツリー」で生み出される電力を使用して、セントラルシステムでコントロールされています。セカンドキャビンの1階には、水タンクとオフグリッド設備が収容されています。
ルーフトップにソーラーパネルを設置する代わりに、エネルギーを供給するための“太陽の木”が外部に建てられました。「ソーラーツリーを補強するために2メートル以上の深さの穴を掘りました。夏の真っただ中の砂漠の太陽の下で、パネルを設置するために6メートルの屋根に登るなんて考えられなかったんです」とマレック。ほとんど自分たちで組み立てた、この自立型の太陽光発電装置のおかげで、砂漠の太陽がキャビンのすべての動力を供給し続けます。
「フォーリーの目的は、人々が持続可能性を体験できるようにすることです」と彼は説明します。「“コネクト”のために、Wi-Fiのようなアメニティやテクノロジーを加えていますが、完全に“ディスコネクト”されて自然を楽しむこともできます」 。
Cohesionでは現在、オフグリッドビレッジの構想を発展させています。「人々は、オフグリッドの場所にバスルームがあることや、コネクトされていない状態でも十分な電力があることを知らないのです。これは本当に目を見張らせるような体験となるでしょう」。
「贅沢のために持続可能性を犠牲にする必要はありません。世界は美しく、そのままに保持しておきたい。私たちは、社会的責任を果たすホスピタリティの基準を改革することによって、現代社会にインパクトを与えたいと思っています」とマレックは語ります。
フォーリーはAirbnbでレンタル可能です。リビングエリアのソファベッドを含めて6名まで宿泊することができます。それ以上のゲストも敷地内にテントを設置できます。BBQが楽しめるファイヤーピットの薪は無料で提供され、チェックインは送られてくるコードでドアのスマートロックを解錠するだけ。
もちろん“愚かさ”のためのハンモックも用意されています。
Via:
dwell.com
tinyhouseblog.com
follyfolly.com
thecohesionstudio.com
airbnb.jp/rooms/18332523