片山正通率いるWonderwall®が東京湾を”庭”に見立てた新クルーズ船「AMANE」をトータルデザイン。

東京湾に、邸宅が浮かびます。片山正通率いるインテリアデザインスタジオ「Wonderwall®」が、日本郵船の新クルーズ船「AMANE(海音)」のトータルデザインを手がけました。2027年春の就航を予定するこの船は、東京湾で36年にわたって親しまれてきたレストラン船「LADY CRYSTAL(レディ クリスタル)」の後継船です。「庭園としての東京湾」というコンセプトのもと、水上を巡りながら食事を楽しむという体験が、新しい空間と思想のもとに生まれ変わります。

旧岩崎邸から引き出された、デザインの原点

Wonderwall®がこのプロジェクトに臨むにあたって最初に行ったのは、日本郵船が紡いできた客船文化の歴史を丁寧にひもとくことでした。その探索の中で、設計の核となるヴィジョンを与えたのが「旧岩崎邸庭園」という場所です。日本郵船の歴史とも縁の深い岩崎彌太郎の長男・岩崎久彌の本邸として建てられたこの建物を、片山は以前から繰り返し訪れ、その空間に惹かれてきたといいます。

改めてこの場所と向き合う中で着目したのは、邸宅と庭が互いに呼応しながら、ひとつの空間体験をつくり出しているという関係性でした。邸宅の内部から庭を眺めるとき、庭は単なる外部空間ではなく、室内の延長として、あるいは室内を意味づける風景として機能しています。この発見がそのままコンセプトへと結晶しました——東京湾を庭と見立て、その水上に浮かぶ邸宅として船上空間を設計する、という思想です。

「和魂洋才」を現代の船上空間へ

コンセプトを支える精神的な軸として、Wonderwall®が参照したのは「和魂洋才」という思想です。日本古来の精神を大切にしながら、西洋の様式や技術を取り入れ、両者を調和させていくこの考え方を、「AMANE」という船において現代の空間として再解釈しています。

その姿勢が最も明確に表れているのが、1Fメインダイニングです。日本建築に由来する格天井を現代的な手法で取り入れ、ピラーを空間の中に出さない構成によって、食事の場としてだけでなくイベント時にも柔軟に対応できる開放的なホールが実現しています。古い意匠を懐古的に引用するのではなく、構造と機能の文脈に落とし込みながら現代へと接続する——片山の設計が持つバランス感覚が、ここに凝縮されています。

邸宅を巡る体験をデザインする——空間ごとの設計思想

AMENAの船内は、邸宅の各部屋を順に巡っていくような体験として設計されています。乗船の入口となる桟橋は、渡り始めた時点で船首の個室や船内の様子が視界に入る構成となっており、期待感を高めながら自然と船へと誘います。

乗客が最初に足を踏み入れる1F廊下はギャラリーとして機能し、アーティスト・山口幸士が「AMANE」のために描き下ろした5点の作品が展示されます。アートに触れながら各空間へと進む動線が、邸宅を歩き回るような時間の流れを船内につくり出しています。

2Fのバーラウンジは船尾側に配置されています。開閉できるガラス面が海と船内をやわらかくつなぎ、海風を直接感じることも、ガラス越しに東京湾の夜景を楽しむこともできます。風の影響を受けにくい船尾の特性を活かした、静かで親密な空間です。

同じく2Fに設けられた船首側の個室は、東京湾のパノラマを最も印象的に受け止められる場所として計画されており、船首デッキと室内が連続する構成によって、着席での会食から立食まで多様なシーンに対応します。6名用の個室も2室設けられており、少人数の会食では専用デッキへ直接出られる設えとなっています。

「庭園としての東京湾」というコンセプトを最も開放的に体感できるのが、3Fのフライング・デッキです。海上ならではの風と光、眺望の広がりを全身で受け止めながら、パーティーやレセプションにも使える空間として計画されています。

船という動く建築において、外部と内部の境界を意識的に揺るがしながら設計されたAMANEの空間は、移動そのものをひとつの邸宅体験として完結させています。

日本郵船グループ初、水素燃料電池を搭載したハイブリッド型電気推進船

AMEANEは、デザインにとどまらない革新を船の構造にも持ちます。日本郵船グループとして初となる水素燃料電池システムを搭載したハイブリッド型電気推進船であり、従来の船に比べて振動・騒音・燃料特有の臭いが大幅に低減されています。静かで清澄な船内環境は、邸宅で過ごすような落ち着いた時間の質を高める要素でもあり、次世代エネルギーの可能性と快適な空間体験が、このクルーズ船の中で自然な形で重なっています。

Wonderwall®が手掛ける新クルーズ船「AMANE」

東京湾という「庭」を持つ邸宅が、2027年春、水上に現れます。36年の記憶を受け継ぎながら、まったく新しい体験として生まれ変わるAMANEの就航を、ぜひ楽しみに待ってみてください。

Wonderwall®/片山正通

photo Kazumi Kurigami
photo Kazumi Kurigami

インテリアデザイナー/株式会社ワンダーウォール 代表/武蔵野美術大学 名誉教授

1966年岡山生まれ。片山正通率いる株式会社ワンダーウォールは、コンセプトを具現化する際の自由な発想、また伝統や様式に敬意を払いながら現代的要素を取り入れるバランス感覚が国際的に高く評価されている。ブティックからブランディング・スペース、大型商業施設の全体計画まで、世界各国で多彩なプロジェクトを手がけている。

www.wonder-wall.com

新クルーズ船「AMANE(海音)」

就航予定:2027年春
全長:約48.0m/全幅:約9.5m/喫水:約2.1m
総トン数:約480トン
定員:約90名(着席時)
クライアント:日本郵船株式会社
本船トータルデザイン:片山正通(株式会社ワンダーウォール 代表)
ロゴデザイン:平林奈緒美
プロジェクトコンサルティング:寺田心平(株式会社タイソンズアンドカンパニー)
廊下アート:山口幸士
建造:前畑造船株式会社(長崎県佐世保市)
Wonderwall® 公式サイト:wonder-wall.com