「愉し囲し」建築家が手がけたテラスを中心に内と外が溶け合う、家族の時間を豊かにする住まい
黒いガルバリウム鋼板の外壁に包まれたこの住まいは、角地にありながら、街に対して静かで落ち着いた表情を見せています。シャープな輪郭を描く外観からは、内側に広がるおおらかな空間までは想像しにくいかもしれません。しかし、玄関をくぐると、その印象はやさしくほどけていきます。そこにあるのは、家族の時間を受け止め、外の心地よさまで暮らしの一部に取り込んだ、のびやかな住まいです。
角地という条件を、のびやかな暮らしへと変える

敷地は約180㎡、およそ50坪の角地です。2方向が道路に接しているため、周囲からの視線を受けやすい条件ともいえます。こうした敷地では、外に対して閉じた構成が選ばれることも少なくありません。しかしこの住まいでは、その条件を制約として扱うのではなく、空間の個性として丁寧に読み替えています。

外観は、ガルバリウム鋼板の縦張りで端正にまとめられています。ダークトーンで統一された佇まいは、住宅地の中でも過度に主張することなく、静かな存在感を放っています。その一方で、住まいの内部は外観から受ける印象とは対照的に、光や緑、家族の気配がやわらかく行き交う構成です。外に対しては凛と閉じ、内に対しては大きく開く。その切り替えが、この家ならではの魅力をつくっています。
アウトドアリビングが暮らしの中心にもうひとつの居場所をつくる

この住まいを象徴するのが、1階のLDKに隣接して設けられたアウトドアリビングです。単なる屋外スペースとしてではなく、家族や友人が自然と集まり、日常を少し豊かにしてくれる場所として計画されています。食事を囲んだり、子どもが遊んだり、風を感じながら椅子に腰かけたり。そんな何気ない時間が、ここでは住まいの楽しみとしてしっかりと位置づけられています。

土間で仕上げられたテラスは、大きな掃き出し窓を通してLDKと一体的につながっています。さらに、室内の木張り天井が軒へとそのまま連続することで、内と外の境界がやわらかく曖昧になっています。室内にいながら外の光や空気を感じられ、外に出ても室内の延長のような安心感があります。その絶妙な距離感が、この住まいに心地よい広がりをもたらしています。

また、アウトドアリビングには外部から直接アクセスできる動線も確保されています。玄関とは異なるもうひとつの入口としても機能し、来客時には住まいに自然な奥行きと遊び心を与えています。閉じすぎず、開きすぎない。そのちょうどよい関係性が、暮らしをより豊かに見せてくれます。
回遊動線と高低差が日常に心地よいリズムを生み出す

1階は、玄関からLDK、パントリー、洗面・脱衣室、ウォークインクローゼットまでがゆるやかにつながる回遊動線で構成されています。行き止まりの少ない間取りは、家事のしやすさだけでなく、家の中を移動する時間そのものに心地よさを与えてくれます。しかも、その動線の随所からテラスの光や緑が感じられるため、住まいのどこにいても外とのつながりが意識されるつくりになっています。

玄関に入ってまず印象的なのは、空間の抜けを生み出すスケルトン階段です。木の踏み板とスチールの手すりを組み合わせた軽やかなデザインが、住まい全体の空気感を象徴しています。

広めに取られた土間や、壁面に設けられたオープンシューズラックも、機能性に加えて空間の表情づくりにひと役買っています。

LDKは、単なるワンルームのような一体空間ではなく、床の高低差によって場の性格がやわらかく分けられています。

ダイニングから一段上がった位置にリビングを設けることで、視線は抜けながらも、それぞれの居場所に落ち着きが生まれています。

造作のカウンター棚や壁付けのテーブルも設けられ、食事だけでなく、仕事や勉強、会話の時間まで受け止める、暮らしの中心らしい場所に仕上がっています。
素材の組み合わせが作る機能だけではない美しさ

キッチンはステンレスを基調にまとめられ、端正で潔い雰囲気をつくっています。天板や設備だけでなく、空間全体の見え方まで丁寧に整えられており、使いやすさと美しさが両立された印象です。そこに木の棚板や造作家具が加わることで、無機質に寄りすぎないあたたかさも生まれています。道具や器が見える形で収まり、日々の営みそのものが空間の一部として美しく立ち上がってきます。

洗面室やランドリーまわりも、暮らしやすさへの配慮が感じられる場所です。大きなミラーや自然光を取り込む窓によって、コンパクトな空間にも広がりが生まれています。ランドリーから収納へとつながる動線も整理されており、毎日の家事を無理なく支えてくれます。使いやすさを優先しながらも、細部の納まりや開口のかたちにまで気を配ることで、生活感だけに寄らない洗練が生まれています。
成長に寄り添いながら住まいも変化する

2階には洋室とフリールームが設けられています。現在は子どもの遊び場として使われているスペースも、将来的には成長に合わせて役割を変えていくことができそうです。光がやさしく差し込む明るい空間には、今の家族の暮らしに寄り添う柔軟さがあります。

寝室には木の腰壁が用いられ、落ち着いたやわらかさが感じられます。大きな窓から入る光が床に静かな陰影を落とし、一日の終わりに気持ちを整える場所としてふさわしい雰囲気をつくっています。華美ではないけれど、きちんと心地よい。その積み重ねが、この住まい全体の魅力につながっています。
「愉し囲し」に込められた、家族の時間を包むという考え方です
この住まいに付けられた「愉し囲し」という言葉には、楽しむことと、囲うことの両方の意味が重ねられています。テラスを囲んで過ごす時間、キッチンを中心に広がる家族の会話、思い思いの場所でありながら緩やかにつながる日常。そのどれもが、この家では自然に生まれる風景になっています。
外に対して閉じながらも、内には豊かに開いていくこと。内と外、家族と住まい、日常と少し特別な時間。その境界をやわらかくつなぎながら、暮らしを包み込むようにつくられた住まいです。テラスを中心に、家族の時間がのびやかに広がっていく。そんな豊かさを、静かに感じさせてくれる一棟です。