建築家・酒井一徳による奄美大島の市街地に、穏やかな内庭を抱く住まい「大熊の家」

奄美大島の市街地中心部、交通量の多い角地に建つ「大熊の家」。設計を手がけたのは、土地の気候や文化、暮らしの本質を丁寧に読み解きながら、地域に根ざした建築を実践する建築家・酒井一徳です。賑わいのある立地において、いかにプライバシーを守りながら、家族がのびのびと暮らせる住まいをつくるか。その問いから、この家の計画は始まりました。

風土に寄り添う、素材選びという設計

Photo : Toshihisa Ishii

外壁はメンテナンス性に優れたグレーのガルバリウム鋼板を基調に、一面にはアクセントとして屋久島の杉を採用。

Photo : Toshihisa Ishii

油分が多く、湿気の多い奄美大島でも、シロアリなどの虫害に強い屋久島の杉は、この土地の風土に適した素材です。無塗装で用いることで、時間とともに木肌はグレーへと変化し、やがてガルバリウムと一体となった落ち着きのある外観へ。無機質になりがちな金属外装に木を組み合わせることで、温かみと経年変化を楽しめる住まいとしています。

中庭を中心に据えた、安心と開放の両立

敷地は交通量が多く、2人の子どもを育てるうえで安全性とプライバシーの確保が欠かせませんでした。そこで計画の中心に据えられたのが、中庭です。外からの視線を遮りながらも、明るさと風を室内へと導く中庭を軸に住まい全体を構成。街中にありながら、家の内側には穏やかで開かれた空間が広がります。

暮らしに寄り添う、やさしいアプローチ

Photo : Toshihisa Ishii

玄関へと続くアプローチには、緩やかなスロープを設置。自転車や三輪車も無理なく出入りでき、日常の動線にさりげない配慮が施されています。小さな子どもがいる家庭にとって、こうした積み重ねが暮らしやすさにつながっています。

趣味を受け止める、自由な土間空間

Photo : Toshihisa Ishii

バイク好きなご夫婦の希望により、玄関には土間兼バイクスペースを設けました。壁にはバイクを掛けられる工夫を施し、土間ではちょっとした練習も可能。造作の収納棚を充実させることで、ヘルメットや工具類もすっきりと収まります。単なる玄関にとどまらず、趣味と暮らしが重なり合う、自由度の高い空間です。

光と風が巡る、伸びやかな平面構成

建物は、長方形の居住空間に対して、手前に少し短い長方形の玄関・自転車スペースを並べた構成。自転車スペース越しにLDKを覗くと、その奥には中庭が広がり、自然光が室内へとまっすぐに届きます。LDKの反対側には、プライベート空間と水回りを配置。玄関とLDKを隔てる壁は上部を開けることで、光と風、そして家族の気配がやわらかく行き交う設えとしています。

食卓を中心に整えた、縦長のLDK

Photo : Toshihisa Ishii

縦長のLDKには、空間の中央に沿うようにダイニングテーブルを配置。中庭から注ぐ光が食卓を明るく照らし、家族の時間を自然と中心に引き寄せます。細長いシーリングライトが、すっきりとした印象と程よい緊張感を空間にもたらし、日常の風景を美しく整えています。

街に開かず、家族にひらく住まい

交通量の多い市街地という条件のなかで、「大熊の家」は中庭という内側の風景をつくることで、家族の安心と心地よさを守ってきました。風土に適した素材選び、趣味を受け止める土間、光と風を巡らせる構成。そのすべてに、酒井が大切にする「その土地に根ざした暮らしを丁寧にかたちにする姿勢」が息づいています。街中にありながら、穏やかに暮らしを育む住まいです。