
光と影の”モノリス”、アレハンドロ・アラヴェナによる「イノベーションセンター」が示す、サステナブルな建築の未来
チリ、サンティアゴにあるカトリック大学のキャンパスに、巨大なコンクリートの「モノリス」が静かにそびえ立っています。プリツカー賞受賞者である建築家アレハンドロ・アラヴェナと彼のチーム、エレメンタルが手がけたチリ・カトリック大学・イノベーションセンターは、その異質な外観とは裏腹に、未来のサステナブル建築のあり方を示す重要なプロトタイプです。この建築は、「イノベーション」という抽象的なテーマを、熱負荷を抑える鈍重な外壁と、交流を促す開かれた内部という対照的な二面性によって実現しました。
「モノリス」の外観と、環境負荷を抑える「鈍重」なデザインの理由
サンティアゴの街並みの中で、チリ・カトリック大学・イノベーションセンターは、その巨大で閉じたコンクリートの塊のような外観で強烈な存在感を放っています。
設計者であるアレハンドロ・アラヴェナは、この建築をあえて「モノリス(一枚岩)」のように鈍重にデザインしました。
その背景には、チリの強い日差しという環境条件への、極めて合理的な対応があります。建物の外壁を厚いコンクリートで覆い、開口部を最小限に抑えることで、外部からの熱の侵入を徹底的に遮断。
これにより、夏の暑い時期でも空調への依存度を下げ、エネルギー消費を大幅に削減しています。これは、サステナブル建築が必ずしもガラス張りのハイテクな外観である必要はない、というアラヴェナの主張を体現したものであり、伝統的な建築の知恵を現代的に解釈した結果と言えます。
内部に広がる「開かれたアトリウム」コラボレーションを促す空間設計
「モノリス」のような閉じた外観とは対照的に、建物の内部に一歩足を踏み入れると、全く別の世界が広がっています。中央には、光が降り注ぐ巨大な吹き抜け(アトリウム)が貫通しており、各階のオフィスや会議室、研究室がこの空間に面して配置されています。
アラヴェナはこのアトリウムを、イノベーションを生むための「知識の垂直な広場」と位置づけました。研究者や学生が階段の上り下りや休憩中に偶発的に出会い、交流できるよう、経路やバルコニーの設計に細心の注意が払われています。
外の熱から守られた内部空間は、まさに「知的交流のための気候の良いマイクロ・クライメイト(微気候)」であり、分野を超えたコラボレーションを促すための物理的な装置として機能しているのです。
構造と経済性を両立「付加価値」を生み出すアラヴェナの思考法
アラヴェナ率いるエレメンタルは、社会的・経済的な制約の中で最高のデザインを追求することで知られています。このイノベーションセンターにおいても、構造体そのものをデザインの一部とすることで、経済的な合理性を実現しています。
内部の巨大なコンクリートの梁は、建物を支えるだけでなく、空間の印象を決定づけるデザイン要素でもあります。さらに重要なのは、アラヴェナが建築に与えた「付加価値」です。このシンプルで頑強なコンクリート構造は、将来的な用途変更や間取りの変更に極めて柔軟に対応できます。
彼は、低コストで建設した建物が何十年経っても使われ続けられるようにすることで、長期的な視点でのサステナビリティと経済性を両立させています。これは、目先の美しさだけでなく、社会に対して真の価値を提供するという、アラヴェナの建築哲学が結実した形と言えるでしょう。
アレハンドロ・アラヴェナ率いるエレメンタルによる「イノベーションセンター」
アレハンドロ・アラヴェナがデザインしたイノベーションセンターは、単なる最新の研究施設という枠を超え、”建築における「知恵」”を再定義しています。外部の強烈な日差しを遮断する厚いコンクリートの鎧と、内部で光と視線が縦横無尽に交錯する”「知識の広場」。この劇的な対比こそが、サステナビリティとコラボレーション”という、現代のイノベーションに不可欠な要素を同時に満たしています。また、構造体と経済性を両立させ、未来の柔軟な用途変更まで見据えたデザインは、持続的な価値を生み出すというアラヴェナの哲学を体現しています。チリ・カトリック大学・イノベーションセンターは、次世代の建築家やデザイナーたちに、「鈍重」さの中にこそ、最も賢明なソリューションがあることを静かに示し続けているのです。
チリ・カトリック大学・イノベーションセンター – Centro de Innovación UC
住所:Vicuña Mackenna 4860, Santiago, Macul, Región Metropolitana, チリ