若手建築家が挑む実験的建築!「いのち」を問い直す大阪・関西万博のトイレ5選。

2025年大阪・関西万博の会場に点在するトイレは、単なる機能的な空間ではありません。若手建築家がそれぞれの個性と哲学を込めて設計した、アート作品のようなトイレが5つ存在します。これらは、万博のテーマである「いのち」を、建築やデザインを通じて問い直し、来場者に新しい視点を与えてくれます。

1.夢洲の自然環境を再構成した「トイレ1」

GROUPが設計した「トイレ1」は、万博の舞台である夢洲の歴史に着想を得た仮設建築です。かつての埋立地に芽生えた独自の生態系を再構成し、人間が立ち入れない「夢洲の庭」をパビリオンの中心に据えました。この庭には、人間以外の存在に向けたサウンドスケープや、ロボット化された植物が共存する、自律的な生態系が展開されます。の外壁には、工事用の亜鉛メッキ仕上げの安全鋼板を使用。その鈍い銀色が、万博会場の賑わいと、庭の静謐な風景を反射させ、来場者に「もう一つの夢洲」の姿を提示します。

入口と出口を分けた構造は、庭へのアプローチであると同時に、ジェンダーに配慮した設計となっています。この建築は、万博という人間中心の祭典の中で、あえて人間不在の場所を創り出すことで、失われた自然や未来の環境について考えさせる問いを投げかけています。

2.400年の時を超えて蘇る”残念石”の建築「トイレ2」

studio m!kke、Studio on_site、Yurica Design and Architectureが手掛けた「トイレ2」は、大坂城の石垣として切り出され、使われなかった「残念石」を建築に再利用したユニークな試みです。400年もの時を経て大阪へ運ばれた巨石は、単なる素材ではなく、人々が関わり、議論し、行動を起こすきっかけとなり、建築をかたちづくりました。このプロジェクトは、自然が持つ本来の質を尊重し、現代のデジタル技術を駆使して石を傷つけずに設計するという、非合理性や人間性を取り戻す試みでもあります。

3.3Dプリンターと土壁が融合した建築「トイレ4」

浜田晶則建築設計事務所AHAが設計した「トイレ4」は、建設用3Dプリンターと土壁を組み合わせたユニークな建築です。このトイレは、大地から立ち上がるような有機的な層状の形をしており、その姿はまるで「峡谷」のようです。水平垂直のエレメントで構成される現代建築に対し、自然界で見られる有機的な形を追求。土という原始的な素材と、最新の3Dプリンティング技術を融合させることで、人の身体や感覚に寄り添う「本当に必要なかたち」を問い直しています。この建築は、地域の土を使い、未来の「人間の巣」としてのあり方を提示し、人と自然と機械が共生する新しい建築の可能性を示唆しています。

4.カラフルな「積み木」が織りなす「トイレ5」

米澤隆が手がけた大阪・関西万博の「トイレ5」は、まるで子どもの遊び場のような、カラフルな積み木が積み重なったデザインが特徴です。1段目のユニットはトイレ機能、2段目の三角柱は採光と換気、3段目の大きな三角柱は屋根として機能し、それぞれが役割を分担しながら全体を構成しています。この施設は、解体して公園や広場に移設・再利用できる構造になっており、場所に合わせて必要な数や形に組み替えられるサステナブルな設計です。当初は「2億円トイレ」と揶揄されましたが、実際には公共トイレの基準を下回るコストで実現しており、そのユニークなデザインから、多くの来場者にとっての撮影スポットとなっています。

5.水とジェンダーの問いを内包する「トイレ6」

KUMA & ELSAが設計した「トイレ6」は、水資源とジェンダーという現代の課題をテーマにした「水のパビリオン」です。この建築では、空から落ちた雨水が屋根を流れ、蒸発して雲になり、再び戻ってくる水の循環プロセスを可視化しています。また、屋根の勾配や素材、動線に至るまで自然の摂理を徹底的に取り入れています。内部は介助や多様な性のあり方に対応するオールジェンダートイレとなっており、死角のない開放的な空間で、誰もが等しく利用できることを目指しています。さらに、このパビリオンは、会期後のリユースを前提に設計されており、水で育った木材や川砂利など、水にまつわる素材が使われています。

持続可能な未来に向けた大阪・関西万博のトイレ

大阪・関西万博のトイレは、若手建築家たちが環境、歴史、社会、そしていのちの循環を深く考察した結果として生まれました。デッドストックの布、残念石、3Dプリンター、再利用可能なユニットなど、それぞれのトイレが持つ物語は、単なる休憩スペースを超えて、持続可能な未来に向けた大切なメッセージを伝えています。