
建築家・佐々木慧が語る、デザインと暮らしへの哲学―建築でつなぐ人と自然、未来へのまなざし
前編:建築家・佐々木慧が語る、デザインと暮らしへの哲学―福岡で生まれる創造の源泉とは
福岡を拠点に国内外で活躍する建築家・佐々木慧。アクソノメトリック株式会社代表として、建築設計を軸に家具、インテリア、ランドスケープ、都市計画まで多岐にわたる分野で活躍しています。今回は佐々木さんに、クリエイティブおいて大切にしているポイントや、設計を手掛けた「NOT A HOTEL FUKUOKA」、大阪・関西万博のポップアップステージについて伺いました。
対話を大切にしながら、自分のクリエイティブに昇華する

佐々木さんは住宅に限らずカフェやオフィス、インテリアや家具に至るまでスケールの異なるプロダクトデザインを手掛けられていますが、クリエイティブにおいて最も大切にしていることは何ですか。
「人としっかり話をして、条件や場所などの情報をすべて受け止め、それを自分なりに咀嚼することです。独りよがりにならないよう、対話を通して建築をつくることが自分のスタンスですね」
日常と旅のあいだにある、街と寄り添うホテル

2023年の開業以来、ランダムに積み重ねた箱から緑があふれるようなユニークな形状が話題を集めている「NOT A HOTEL FUKUOKA」では、ホテルを構成する異なるコンセプトの8部屋のうち一室を佐々木さんが手掛けられています。こちらの設計では、どのような点を意識されましたか?

「地域や自然環境にとって“利他的な建物”を目指しました。宿泊ゲストだけでなく、周辺住民にも配慮し、圧迫感のない外観や、公園の緑と調和する植栽計画を提案しました。ホテルではあるものの住宅地に位置しているため、街に対して閉鎖的にならないよう、周囲と同じ植栽を取り入れることで、環境に自然に馴染むような設計を心がけました」

佐々木さんが手掛けられたペントハウスは数か月先まで予約が取れないほどの人気を集めていますが、こちらの設計で意識された点はどういったものでしょうか。

「すべての部屋に屋外空間としてテラスが設けられているのですが、特にペントハウスは、広いテラスと屋上を活用し、福岡の街を体験しながら、友人とのパーティーなども楽しめる、街との関係性を大切にした空間にしました」
半年の会期終了後も続くサステナブルな空間設計
先日開幕した大阪・関西万博では、佐々木さんはポップアップステージの1つの設計を担当されています。こちらは音楽やトークイベント、お祭りなどのイベント実施を想定した広場ということですが、どういったことを意識してデザインされましたか。
「万博の広場として使用される期間が半年に限られているため、その会期を木材の乾燥期間として活用するという構想をベースにしました。空中に浮かぶ丸太で囲まれた、人工的な森のような空間をつくり、会期終了後にはその木材を製材して、別の建築に再利用する予定です。普段は、より長期的に使用される建築を設計することが多いため、今回は半年という限られた使用期間の中で、サステナブルな視点を活かした設計を心がけました。」
1970年の大阪万博以来、約半世紀ぶりに日本で開催される万博ですが、どんな意義があるとお考えですか。
「子どもたちを万博に連れて行って、世界の人々や未来の姿に触れてほしい。未来が楽しく明るいものだと感じてもらえる場になれば、それだけで意義深いと思います」
全力で人生を楽しむ
周囲や自然との関係性を意識した、サステナブルな視点で枠に縛られないデザインを生み出している佐々木さん。そんな佐々木さんにとってライフイズ◯◯の◯◯に入るものは何でしょうか。
「ライフイズ “ファン”ですね。人生を全力で楽しむために、建築をやっています」
人や自然、未来への思いやりがより良い空間につながる
「NOT A HOTEL FUKUOKA」や大阪・関西万博のプロジェクトを通して見えてきたのは、佐々木さんの建築が単なる空間づくりにとどまらず、人や自然、そして未来への思いやりに根ざしているということでした。「ライフ・イズ・ファン」と語るその笑顔の裏には、建築を通じて世界をより良くしたいという真摯な思いが込められていました。