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杉本博司による時空を超えた建築とアートの融合する空間「杉本博司ギャラリー・時の回廊」
前編:安藤忠雄による、建築と美食の調和を目指した空間「ベネッセハウス・ミュージアムレストラン・日本料理 一扇」
「杉本博司ギャラリー 時の回廊」は、香川県直島の「ベネッセアートサイト直島」の一環として設計された空間で、現代アートと建築の融合を体現しています。このギャラリーは、世界的なアーティストであり建築家でもある杉本博司が手掛け、彼の建築哲学とアート作品が一体となった特異な空間を生み出しています。杉本博司は「建築は時間を超えた表現である」と語り、このギャラリーを「時」の概念をテーマに設計しました。
自然と調和する設計
杉本博司と直島のつながりは、1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の活動に、写真家として参加したことがきっかけとなりました。その10年後「家プロジェクト」において「護王神社」を制作、町内の神社をアートとして再建。さらにその15年後、アート的な建築の集大成であり、自身の”遺作”として位置づける 「江之浦測候所」を小田原に創設。創作活動のひとつの原点とも言える直島と自身の集大成とを繋げる形で構想されたのが、この「杉本博司ギャラリー 時の回廊」です。「江之浦測候所」が建築と作庭などの空間が中心となっているのに対し、こちらでは、杉本博司の写真作品やデザイン、彫刻作品などをメインに鑑賞できる場としています。
「杉本博司ギャラリー 時の回廊」は、ベネッセハウスや直島の他の文化施設とともに、自然豊かな環境の中に位置しています。瀬戸内海の穏やかな海辺に近く、周囲には緑豊かな丘陵地帯が広がります。この立地は、杉本博司が追求する「自然との調和」という建築思想を反映しています。
ギャラリーは、訪れる人々が瀬戸内海を一望できるよう設計されており、建築そのものが自然の風景と対話するかのような存在感を放っています。安藤忠雄の設計によるベネッセハウスと近接しており、それらと共鳴するように配置されています。
杉本博司が創り出す時間と空間の交差点
杉本博司が設計したこのギャラリーの外装は、シンプルでありながら緻密なデザインが特徴です。コンクリートをメインに無機的な素材が用いられていますが、その無機質さが周囲の自然の豊かさを引き立てています。
ガラスの茶室が生む静寂の美学
まず、外部に展示されているのは「聞鳥庵」(もんどりあん)と名付けられた、全面が無色透明な硝子で出来た一辺約2.5mの立方体の茶室。静かに佇む茶室を取り囲む木々の色づきや、四季折々の自然の変化がガラスに写され、時の移ろいを表します。2014年のヴェネツィア建築ビエンナーレ関連展のために制作された後、2018年にベルサイユ宮殿、2020年に京都で展示され、こちらに移設されました。
内部に設けられたラウンジ・ボードルームから、ガラスの茶室「聞鳥庵」を眺めることができます。杉本博司が率いる「新素材研究所」によってデザインが一新された空間には、プリズムを撮影した「Opticks」シリーズが飾られています。
ほか、4000年前の神代杉や樹齢1000年の屋久杉など、長時間を生きてきた木材を使った彫刻としての家具も見どころ。
改装に当たっては、安藤忠雄の建築のディテールに沿ったデザインを意識しており、「(安藤との)合作と言っても良いものができた」と杉本博司は語っています。
時間を記録する展示空間のデザイン
ギャラリー内部は、光と影のコントラストを生かした空間設計が施されています。
最低限の照明が設定された空間では、晴れの日と曇りの日によって作品に異なる印象を受けます。
展示は「華厳の滝」、「カリブ海・ジャマイカ」、のような初期の写真作品から、《観念の形 003オンデュロイド:平均曲率が0でない定数となる回転面》といった立体作品、ラウンジに登場した2022年の最新作「三種の神樹」までが並び、まさに時代とともに杉本博司の世界観に没入することができます。
館内ではそれぞれの作品が効果的な配置をされており、まさに作品のために空間が設えられたことを実感できます。
直島ならではの手つかずの雄大な自然を巧みに取り込んだ設計によって、空間そのものが新たな作品として感じられます。
回路にちりばめられたガラスが写す小さな風景群
「杉本博司ギャラリー 時の回廊」のあるベネッセハウスパーク棟からテラスレストランやショップに向かう通路の壁沿いに設けられた、テレジータ・フェルナンデスの「ブラインド・ブルー・ランドスケープ」は、その時々の光と風景を取り込み、美しく輝きます。このインスタレーション作品では、およそ1万5000個にも及ぶガラスキューブを壁面に散りばめることで、ガラスに映り込む島の風景と、それを覗き込む鑑賞者自身が向き合う体験ができます。
建築、自然、アートが織りなす新たな時の物語
「杉本博司ギャラリー 時の回廊」は、建築とアート、自然が一体となった空間であり、杉本博司が描く「時」の哲学を体現する場です。杉本博司自身の日本文化への探求心と、現代的な建築技法が見事に融合したこのギャラリーは、訪れる人々に特別な記憶を刻む場所となっています。
杉本博司ギャラリー 時の回廊
開館時間:11:00~14:00(予約制)
URL:https://benesse-artsite.jp/art/sugimoto-gallery.html
住所:〒761-3110 香川県香川郡直島町 積浦3418