世田谷美術館を手掛けた建築家・内井昭蔵による沖縄初の県立美術館「浦添市美術館」

数多くの建築作品が点在する沖縄。独自の歴史と文化によって生み出された建築は、それぞれにユニークで見応えたっぷり。県の公立美術館である「浦添市美術館」は、縦に伸びる建築群がもたらす迫力と、細部にまで行き届いた装飾が独特な存在感を放つ建築です。

初の県立美術館

沖縄初の公立美術館として平成2年に開館した「浦添市美術館」。常設展示室と企画展示室などを備えており、漆芸品を中心に、絵画や焼物、染織、金工など延べ2000点の美術品を収蔵しています。

設計は、高円宮邸や世田谷美術館などを手掛けた建築家・内井昭蔵です。内井は幼少の頃から教会に頻繁に足を運んでいたキリシタンでもあり、和風のデザインと洋の装飾性の調和が作品に多く見られます。

中世ヨーロッパのような独特な雰囲気の建物群

敷地は文化ホールなどが並ぶ大きなエリアの一角で、起伏がある丘の上に位置しています。

琉球石灰岩が敷かれた小道を進むと、回廊に沿って建物に囲まれた街路のような空間へと辿り着き、展望台となっている塔を目指して進むと美術館の入り口が現れます。

外壁にブラスト処理の施された茶色の正方形タイルが貼られた建築群は、まるで中世のヨーロッパのような独特な風景を生み出しています。建築は基本的に正四角形と正八角形の平面を組み合わせた構成になっており、屋根部分と柱が正八角形になります。従来の経済合理性から選択される四角形の柱に対するアンチテーゼ的な八角形の柱は、内井の細部のパーツへのこだわりを垣間見ることができます。

建物群の中で最も高い展望塔は、頂上まで登ることができます。こちらも正八角形平面で、その外形に沿って螺旋階段が回され、頂上に近くなると柱が中心に落ちた幅員の狭い鉄骨階段となります。

頂上からは建物群の屋根と周囲に広がる風景を一望することができ、上から屋根を見ると軒樋のディテールが分かります。ここからの視点も考慮し、外観としての屋根を軒樋も含め、丁寧にデザインされていることがわかります。

トップライトによる柔らかな光が心地よい内部空間

展示棟の中へ一歩進むと、エントランスホールはドーム天井の吹き抜けとなっており、廊下を進むと企画展示ゾーンが広がります。

展示室に囲まれたラウンジ部も含めて、ここには5つのドーム天井が架かっています。

廊下の奥には常設展示のゾーンがあり、こちらにも4つの展示室にそれぞれドームの天井が載っています。

建築は、「塔と回廊による構造」をテーマに、垂直方向に展開される塔性と、水平方向に展開される回廊性によって構成されています。エントランスホールや展望台の塔と合わせると11本の塔が立ち、これを回廊でつないだ格好になっているのがわかります。

「装飾は人間を健康にする」内井の思想が感じられる空間

内井の建築デザインの考え方として「装飾は人間を健康にする」というものがあり、「浦添市美術館」でもその考えの元に生まれた装飾が数多く見られます。従来の日本建築ではあまり見られない「装飾」ですが、行き届いた美意識から導き出されたそれは、人の心に潤いを与え、健康をもたらすものなのだと感じられる空間です。

浦添市美術館

所在地 :〒901-2103 沖縄県浦添市仲間1-9-2
開館時間 : 9:30-17:00
定休日 : 月曜日、年末年始
TEL : 098-879-3219
WEB : https://www.city.urasoe.lg.jp/article?articleId=60cee4e164667334e2f677cc
アクセス : 空港から国道330号線(バイパス)を北へ12km、約40分