世界的建築家・隈研吾が手がけた沖縄の伝統的な赤瓦を使った「石垣市役所新庁舎」

2021年に業務が開始された「石垣市役所新庁舎」。現代では減少しつつある沖縄の伝統的な赤瓦を大々的に使用した建築は、「国立競技場」や「高輪ゲートウェイ駅」などのデザインを担当された建築家でありデザイナーの隈研吾の作品です。これまでの伝統的な漆喰の存在感を維持しつつ、コストや整備性を意識したデザインは、隈研吾の「石垣の原風景を未来につなげてくれることを願っています」という想いを乗せたものになっています。

琉球建築の伝統的なデザイン

隈研吾がデザインした石垣市役所新庁舎は、琉球建築の伝統的なデザインを踏襲しています。琉球建築といわれて思い浮かべるものは、真っ赤な瓦の低い屋根や狛犬、石を積まれてできた塀が代表的なものとなるでしょうか。これらにはそれぞれに意味を持っており、それは沖縄の風土によって長い年月をかけてはぐくまれてきた伝統です。ここでは、石垣市役所新庁舎の外観に用いられた「赤瓦」と「ヒンプン」について紹介します。

まず「赤瓦」。沖縄ではもともと赤色ではなく灰色の瓦が主流でした。しかし17世紀後半から、沖縄南部一帯で取れる「クチャ」という赤い泥岩を使った瓦が現れました。このクチャで作った瓦には適度な吸水性があります。スコールが多く気温が高い沖縄では、赤瓦が持つ吸水と蒸発という機能によって屋根裏の気温が下がり、室内が涼しく保たれます。このように見た目も機能も優れた赤瓦は、しかし当時の琉球王府のみに使用が許され、一般庶民が使うことはできませんでした。庶民に使用が解禁されたのは、明治時代に入ってからでした。そこから次第に赤瓦の建物が増え、現在のような沖縄の景観が作り出されていったのです。

そして「ヒンプン」。これは、石垣市役所新庁舎の入り口の前に作られた石でできた壁です。これには魔よけの意味が込められています。沖縄には「マジムン」と呼ばれる妖怪が存在するとされています。マジムンは直進しかできないと信じられており、沖縄の民家では家の入口の前に「ヒンプン」という塀を立ててマジムンが入ってこないようにしていたのです。

伝統を現代、そして未来へつないでいくための工夫

琉球建築は見た目が美しく、また当時の技術では沖縄の風土に対応できるように進化してきたものです。しかし、技術の進歩が著しい現代においては、デメリットのほうが目立つようになってしまいました。特に「コスト」と「整備性」という点がデメリットとして大きく、実際に沖縄では平成15年から平成25年の10年間で、琉球建築の建物は半数近くまで減少しています。そんな失われつつある琉球建築の伝統を残すという問題に、石垣市役所新庁舎のデザインを担当された隈研吾は立ち向かいました。

隈研吾は、石垣の赤瓦の特徴を「赤瓦を圧倒するほど漆喰の存在感」と言っています。しかし、かつてのように赤瓦に漆喰をべったり厚塗りする手法はコストがかかりすぎ、メンテナンスも難しいです。そこであえて石垣らしい赤瓦屋根を主役にし、石垣の原風景を未来につなげていけるようなデザインを市役所に提案しました。赤瓦屋根はセラミック製ではあるものの、伝統的な琉球建築の雰囲気を生かした、幾重にも折り重なる屋根になっています。

「和の大家」がデザインする木材を生かした内装

石垣市役所新庁舎の内装においては、隈研吾の世界観が現れています。

現代建築と木材を見事に取り込んだ国立競技場のように、内部のいたるところに木目が使われています。

エントランスから入ってすぐ目につくのは、三層吹き抜けのこう配天井です。

真っ白の壁に貼り付けられた様々な幅の「リュウキュウマツ」は、石垣島の自然を生かしたデザインになっています。

コンセプトである「みんなが集えるランドマーク」に沿った、市民や観光客に愛される庁舎です。また、壁以外にもベンチやテーブルに木材が使われており、石垣島の自然を感じる一助になっています。

隈研吾がデザインした赤瓦を主体とする石垣市役所新庁舎は、沖縄の伝統を未来につなげていく

隈研吾は、国立競技場の建築の忙しさの中でもこの石垣市役所新庁舎のデザインに携わりました。隈研吾の沖縄にかける想いが、赤瓦が素晴らしい伝統を未来につなげることを意識した石垣市役所新庁舎に現れていると言えます。機能性を踏まえつつ周囲の景観やその土地の伝統を生かしたデザインは、その施設を利用する人々の心をとらえ、伝統を未来に残していくためのきっかけになるでしょう。

石垣市役所新庁舎

開館時間:8:30~17:15
休館日:土・日曜日
住所:〒907-8501 沖縄県石垣市真栄里672