建築家・手嶋保による、半地中型の構成に心地の良い暮らしの工夫が詰まった住まい「鎌倉山の家」

日本建築士会連合会賞にて優秀賞を受賞した〈伊部の家〉や、日本建築学会作品選集に入選した〈桜台の家〉など住宅設計を中心に手掛ける建築家・手嶋保。神奈川県に建てられた「鎌倉山の家」は、山の眺望を望む丘に佇む住まい。一見平家のような住宅は、下階が地中に埋められた二階建ての構造。心地の良い暮らしを実現する工夫が詰まった空間です。

洞窟と小屋をイメージした平家のような2層構造

撮影:楠瀬友将

敷地は鎌倉山の北東斜面を見下ろす眺めの良い場所にあり、山を切土して開発された宅地のため、前面道路から840〜2000mmほどの高低差がありました。そうした環境から、高さを極力低く、道行く人々にも圧迫感を与えないよう、建物を平家にし、敷地の奥に配置して前庭を眼下に広がるランドスケープと一体にする構成が導かれました。そこで、前面道路との高低差を活かし、下階を半分地中に埋めて上階をGL +1mの高さに設定。周囲に対してヴォリュームを低く抑え道路から適度な距離を取ると共に、地中の安定した環境を享受します。

撮影:楠瀬友将

建物は地下は洞窟、地上は小屋をイメージされています。地面から立ち上がる部分を基壇と捉え、シンプルなコンクリート洗い出しとした。その上に載る水平の梁はフリーズと捉え化粧打ち放しにしてあります。頂部の木造部分が小屋を構成しており、古典的な建築の成り立ちを意識しています。

眺望をめいっぱい楽しむ”くの字”プラン

撮影:楠瀬友将

建物の配置は眺望を考慮した結果”く”の字型に。内部は緩やかに上るアプローチの先にある玄関を経てリビングへ、更に奥に進むと段差を上がって書斎、キッチンダイニングが配置され、くの字に曲がるところにはファイヤープレイスが設けられています。

撮影:楠瀬友将

内装は、ベージュに着色したモルタル掻き落として仕上げの床と、オフホワイトの色味をつけたヒノキ張りの天井が連続する温かみのある印象にまとめられています。リビングには眺望を楽しめるよう基礎上部から持ち出したコンクリートのベンチを設置。左手側のガラス引き戸奥の玄関から来客が直接集える場となっています。

撮影:楠瀬友将

書斎の開口部には机下に網戸付き通風用の開口部を設けており、ヒノキ張りの天井に覆われた穴蔵から景色を望むような落ち着いた空間となっています。

地中階にまとめられたプライベートエリア

撮影:楠瀬友将

地階へ続く階段室。地階の高圧洗浄仕上げの荒々しいコンクリート壁と、黒皮鉄の手摺り、1階床のモルタル掻き落として仕上げや木の壁面など様々な素材が調和し、トップライトや東面開口部から回る柔らかな光に包まれています。

撮影:楠瀬友将

下階に配されたプライベートエリアは夏涼しく冬暖かく、かつ道行く人の視線からも守られており、1日を通して心地よく過ごせる場所となっています。開口部から庭の木々と空を望むことができる主寝室は、自然を身近に感じることができる心地の良い空間です。

自然環境の特性を活用した穏やかで心地の良い住まい

敷地特有の眺望を活かした空間が日々の暮らしに彩りを与える「鎌倉山の家」。郊外の自然環境の特性を活かした住まいは、ランドスケープとして周辺環境を整えることで、本来あるべき軽快で設備や建材に頼りすぎない豊かな生活を実現できそうです。