「調和が取れたものが大切」建築家・手嶋保のインスピレーションの源と家具デザインへのこだわり
前編:「飽きの来ないデザインを目指したい」建築家・手嶋保のデザインへの視点やこれからの住宅に求められるもの
日本建築士会連合会賞にて優秀賞を受賞した〈伊部の家〉や、日本建築学会作品選集に入選した〈桜台の家〉など住宅設計を中心に手掛ける建築家・手嶋保。今回は手嶋さんに、デザインのインスピレーションや家具デザインのこだわりについて伺いました。
デザインのインスピレーションとは
手嶋さんの住宅は、シンプルながらもどこか温かみを感じる作風が特徴ですが、そういったデザインのインスピレーションはどちらから得られるのでしょうか。
「土地の雰囲気ですかね。どこまでも視線が伸びていくような、建築物ではなく時を経てなった風景に惹かれます。例えば海の景色とかを見ていると怖さをも感じられるのですが、そうした畏怖の念が小さい頃から自然に対してあるんです。あとは、重力ですね。この世のあらゆるものは重力で支配されています。雨がどう流れるとか、当たり前の道理に一つひとつ照らし合わせて見ていく。完成するまで時間をかけて整え、作り上げていくことを意識しています。」
家具デザインへのこだわり
家具のデザインにも精力的に取り組まれていますが、家具のデザインで大切にしている点はどういったところでしょうか。
「例えば椅子に関して言えば、かけ心地は大切です。それ以外にも、それが置かれたことで部屋の質に大きく影響を与えます。世の中にはたくさんの名作家具がありますが、それを自分が作る空間に置くと違和感を感じるものが多いんです。照明器具にもそうした印象を感じるものがあるのですが、そうした空間作りにおける調和の点で、納得いくものを作りたいと思ったのが家具制作のきっかけでした。だからこそ家具においては煩わしくないもの、調和が取れたものが大切だと考えています。」
住宅にも自然に溶け込むこと、家具に対しても同じことを求めていらっしゃるんですね。
「そうした中にも刺激ではありませんが、ときめきみたいなものも入れたいと思っています。日々感じたことを取り入れるのも大切だと思います。」
住空間設計の魅力とは
手嶋さんは住空間の設計をメインにされていらっしゃいますが、商空間設計に比べて面白いと感じる点はどういった点でしょうか。
「住宅というジャンルにとらわれて考えてはいないんです。建築中心から考えるのではなく、人の営みを視点に考えています。だから学校や美術館、病院などの施設も同様なプロセスで考えると思います。専門性も大事ですが、そこにいる人がどう感じるかが一番の問題です。あとは、建築の本質的なところは「スピリット」があるか。つまり心を豊かにする場所があるかだと思っています。これについては呼び名のない場所や空間があることが、人の感じる豊かさにつながるんじゃないかなと思っています。難しい話ではなく、余裕があってこそ調和が生まれると思います。」
行間を読む、と言った遊び心に近いものかもしれませんね。
ライフイズ“ミラクル”
様々な住宅設計の現場を中心に活躍されている手嶋さん。そんな手嶋さんにとってライフイズ◯◯の〇〇に入るものは何でしょうか?
「”ミラクル”ですかね。僕は今58歳なのですが、この歳になると人と人との出会いや、若い時の判断というのが今の自分につながっているんだと、奇跡的なものを感じるんです。そうした日々のミラクルの積み重ねが人生かと思います。」
本質をついた普遍性を追求する
トレンドを追いかけるのではなく、その場所の特性や人の暮らしの豊かさを見つめ、シンプルながらも質の高い空間を提案する手嶋さん。お話の中でも度々口にされた“飽きの来ない”とは、すなわち自然に近い事による心地良さなのかもしれません。そんな手嶋さんの大切にされているデザインやこれからの住宅に求められるものについては「『飽きの来ないデザインを目指したい』建築家・手嶋保のデザインへの視点やこれからの住宅に求められるもの」からどうぞ。