名作映画を生み出す東映プロデューサー・紀伊宗之の大切なデザインやヒット作の共通点とは!?
映画「幕が上がる」や「リップヴァンウィンクルの花嫁」など人気作を手がけ、近年では「孤狼の血」、「犬鳴村」といった骨太なタイトルを生み出す東映所属の映画プロデューサー・紀伊宗之さんに、大切にしているデザインやヒット作の共通点について伺いました。
東映プロデューサー・紀伊宗之
1970年兵庫県西宮市生まれ。大学卒業後、テレビ制作会社を経て東映映画興行に入社。2014年東映に異動し「リップヴァンウィンクルの花嫁」「犬鳴村」「初恋」などをプロデュース。2021年8月には松坂桃李が主演を務める「孤狼の血 LEVEL2」が公開され、今後は庵野秀明さんが監督・脚本を手がける「シン・仮面ライダー」の公開を控えています。
暮らしの中で大切にしているデザイン
まずは日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。
「日々仕事として映画を作る中でも、手掛けるのは商業映画なのでお客さんに入ってもらわないといけません。作品としての魅力づくりはもちろんのこと、お客さんが劇場にやってきて映画を鑑賞してくれるまでを、“トータルでデザインする”ことをプロデューサーの仕事として大切に考えています。」
良い映画を作るだけじゃない、ビジネス視点も大事なポイント
「放課後ミッドナイターズ」などの作品では、映画の長編と短編を同時進行で制作し、短編をまずメディアに展開することで興味を持たせて、長編を映画館で見てもらう、というようなビジネス戦略にも長けていらっしゃいますよね。
「たくさんの映画が世に出ていく中で、どのようにして見たいと思ってもらうか、ということもプロデューサーとして常に意識しています。」
プロデューサーとして映画を、どうやって伝えるか、人に見たいと思わせるか、といったきっかけ作りも重要なお仕事なんですね。
新型コロナウィルスの映画業界への影響
新型コロナウィルスの影響で物理的にも映画が撮り辛い状況かと思いますが、業界的にはいかがでしょうか。
「映画館がオープンできない時期も長くあったので、全体で言うと映画館からの収入は減っているのが事実です。お金を出す人に投資という感覚があるのであれば、収益率が悪化しているのが現状なので、以前に比べると厳しくなっていますね。」
好きな場所、空間
次に、お好きな場所について伺いました。
「家のソファが好きです。いつもゴロゴロしています。(笑)」
確かに、間違いなく一番落ち着く場所かもしれませんね。
若い頃の経験も糧に
現在ではプロデューサーとして映画の賞も多数受賞されていますが、一方で若い頃には東映の子会社で切符のもぎりをされていた紀伊さん。そうした経験にもヒットを生み出す秘訣は転がっていたのでしょうか。
「いわゆるシネコンというたくさんの映画を上映している映画館で、お客さんがどんな映画をどうやって選択するのか、というのを現場で見ていたので、当時の経験が今の支えになっていると思います。」
一度製作側に回るとなかなか経験できなさそうな映画館の現場。観客を常に意識する紀伊さんの原風景がここにあったのかもしれません。
ヒット作の秘訣とは
多くの人気作を手掛けられてきた紀伊さんですが、ヒット作に共通するものはあるのでしょうか。「世の中が望むものを作ればヒットするし、望んでいなければ良い映画でも無視されてしまうと思っています。映画の中身のことを考えるのはもちろんですが、世の中の気分をよくみるということが大事ではないのでしょうか。」
映画とSNSの関係性とは
度々映画とSNSの関係性について言及されていますが、それぞれは切っても切れない関係と言えるのでしょうか。
「そうですね、世の中の気分がSNSに現れていると思います。僕も自分で発信するというよりかは、眺めることで情報収集することが多いです。」
世の中のトレンドや空気感を敏感に察知しながら映画に反映されているんですね。
最新作「孤狼の血 LEVEL2」の見どころとは
2018年に公開され、瞬く間に話題を呼んだ「孤狼の血」、その続編「孤狼の血 LEVEL2」が8月20日に公開されました。早速ですが見どころはどういったところでしょうか。
「前作の3年後という設定で、最強の敵が現れます。松坂桃李さんが演じる広島大学出身の刑事がどう対峙するのか、楽しみにして頂ければと思います。」
前作では32件もの映画賞を受賞されたということで、プレッシャーもあったのではないでしょうか。
「そうですね。前作は役所広司さんが主演だったのですが、今回はいらっしゃらないので、どういうお話にしていこうかと時間をかけてシナリオを作りました。」
日本映画の強みとは
ファンタジア国際映画祭では紀伊さんがエグゼクティブプロデューサーを務められた「放課後ミッドナイターズ」がスペシャル・メンションを受賞するなど海外からの注目も集めていますが、紀伊さんがプロデュースする作品も含めて、日本の映画の強みというのはどういったところでしょうか。
「日本人はたくさん本を読むし、コミックは世界でも最も進んでいると思います。映画においてもドラマがしっかりある、ということが大きなポイントかと思います。」
確かに、画の美しさだけではなく、起承転結とストーリーがきちんとあるのが日本映画には多いのかもしれませんね。そんな数々の映画作品を生み出した紀伊さんが、やり甲斐を感じるのはどういった点でしょうか。
「企画者なので、こんな映画を作れば世の中に受け入れられるんじゃないか、じゃあ誰と作るか、どんな人に出演してもらうか、ということを考えるのですが、そうした頭の中で描いていたものが実際に動き出すまでの時間がとてもワクワクしますね。」
辛苦を味わった監督だからこそできる映画作りとは
最近の映画づくりではクラウドファンディングで資金を集めたり、ツールもスマートフォンとデスクトップで制作することもできたりと、比較的誰でも映画づくりができる環境になりつつある印象ですが、たたき上げの監督だからこそ映画に反映できるところとは何でしょうか。
「映画作りの基本は現場です。たくさんのクリエイターが参加して、一つの映画を作り上げるので、座学だけ、頭でっかちの人には人の心は掴めないと思います。多くの現場を経験しているからこそ、美術スタッフや撮影部、照明部など色々なクリエイターの心を掴んで一つの方向に向かわせるという点で、やはり経験値が生きてくると思います。良い監督には勉強だけではなれません。」
「孤狼の血」シリーズに込めた想いとは
「昔に比べるとテレビでも言いたいことが言えず、世の中全体がコンプライアンスだとかガバナンスだとか、窮屈な世の中になってきていると感じています。だからこそ、映画館に行けば日常には見られないようなものが観れる、といった映画の本来の楽しさを具現できればと思いながら監督と制作しました。」
確かに、地上波では難しそうな内容ですよね。
「テレビでは見られないような、映画ならではの映画を作ろうと1作目からスタートしています。表現に関してはリミッターかけずに臨んでいますね。」
また、庵野秀明さんが監督・脚本を手がける「シン・仮面ライダー」の企画にも携わっていますが、どのような経緯で企画されたのですか。
「エヴァンゲリオンのQから今回のシン・エヴァンゲリオンまで、庵野さんとずっと一緒にお仕事をやらせて頂きました。『エヴァンゲリオンが終わったら是非仮面ライダーをやろう』と話していたので、ついに実現しました。」
ライフイズ” 映画と共に”
映画館の現場からキャリアをスタートし、現在では数多くのヒット作を生み出してきた紀伊さん。そんな紀伊さんにとってライフイズ◯◯の〇〇に入るものは何でしょうか?
「“映画と共に”ですね。どこからが仕事でどこからが趣味なのかわからないくらい、毎日毎日映画について考えて生きていけるというのはすごく幸せなことだと思います。尊敬しているスタジオジブリの代表取締役プロデューサーである鈴木敏夫さんが、『仕事は公私混同しろ』とおっしゃっていたので、それがなんとなく自分でもできているかなと思っています。」
人々が観たい世界を確実に届ける
ヒットメーカーとして数々の名作を生み出してきた紀伊さん。人気作の秘訣は意外と、世の中が求めているものを敏感に察知する日常での嗅覚が大切なようです。私たちが心の奥で求めている世界を、魅力的な仲間達と作り上げる紀伊さんの活動は、これからも目が離せなさそうです。