リノベとは“参加可能な場”をつくること。「ブルースタジオ」クリエイティブディレクター・大島芳彦さん

一級建築設計事務所「ブルースタジオ」の専務取締役、クリエイティブディレクターの大島芳彦さん。2000年よりリノベーション事業を始動し、個人邸のリノベーションのほか、まちづくりなどにも力を入れています。そんな大島さんが考えるリノベーションの魅力とは、詳しくお話を伺いました。

ブルースタジオ専務取締役・クリエイティブディレクター・大島芳彦

大島芳彦
Photo : Kohichi Ogasahara

1970年東京都生まれ。株式会社ブルースタジオ専務取締役、クリエイティブディレクター。建物や街の「使い方」をデザインしており、リノベーション事業やコンサルティング、まちづくりまで活動は多岐にわたる。

“妄想力”を豊かに働かせる

大島さんが“暮らしの中のデザインにおいて大切にしていること”は、「妄想力」。今ある状況をどう使いこなすか、ということをテーマにしており、株式会社ブルースタジオは“まちの使いこなし方をデザインする会社”と謳っているといいます。どう使いこなすかを考える時に大事なのは、現在の状況に対して妄想が豊かに働くか否か。妄想を発想に変え、発想に変えたものを構想に変えて、事業化していく。この順番で考えることが大事なのだとか。

そんな大島さんのお気に入りの場所は、裏通り。いつも人生を裏、斜め、下から見ることが多いといい、市場などの一本裏にある通りが好きなんだそう。「その街や市場の作為のない日常、生命力の本質は裏通りにあるのではないかと思うんです。表通りは、みなさん場を取り繕っているもの。本質はその人たちの日常生活にあったりするから、裏の生々しさが好きなんですよね」と話します。

建て替えるのではなく、今ある環境を活かす

大島さんがリノベーションの仕事をスタートさせたきっかけを伺うと、「実は僕、大家業の息子なんです」とのこと。「親父が貸ビルや借家を建てていた高度経済成長の時代のまちは、借家を作ったら必ず住む人がいた。僕が受け継いだタイミングはいよいよ人口も減少に転じると言う20年前。建物は老朽化して、親父も歳をとって。自分はその資産を受け継いでこれからどうするべきなのか」を、考えるようになったといいます。莫大なお金のかかる建て替えのリスクを取るばかりじゃなく“使いこなす”ことを考えなければならず、「今自分たちがおかれた状況を冷静に見つめるべきなんじゃないか」と思ったのがきっかけだと、語ってくれました。

大島さんがリノベーションの仕事を始めた2000年頃は、1997年に京都議定書が制定されるなど、環境問題に対して世界中が注目していて、脱炭素を目指そうと大きく舵切った時期。

「解体して建て替えるって、ものすごく炭素を放出するわけです。昨年の菅総理所信表明の2050年カーボンニュートラル宣言もあるけれども、20年以上前にはすでに既存活用の方向性に舵が切られていた。そういうことも併せて、今ある資産をどう活用するか。それは社会にとって大きな課題であり、それにチャレンジしなきゃいけないんだってなんとなく感じていたんです」

大島さんが考えるリノベーションのメリット

「新築っていう選択肢を一旦無くして、“あるものでもいいじゃん”って思うと意外と自由なんです。自分らしい暮らしを手に入れられる」と語る大島さん。つまり新築住宅を選ぼうとすると、その家は明らかに「商品」であり、それを商売にしている人の利益のために自分は動かなければならなくなる。つまり自分は単なる消費者になっちゃう。ところが中古の既存住宅から家探しをしようとすうると選択肢は無限大。売りに出してる人は個人かもしれませんし、そもそも自分好みの街を選ぶところから家探しができる。

「閉じた“家”と言う箱とは違い、まちには人と人のコミュニケーションをはじめ多様な暮らしの価値が散りばめられています、不動産業者の価値基準に左右されずに、どの街に暮らすか、自分にとって何が暮らしの要素で大事なことのか。全部自分なりに生活の環境を編集できるというポイントが、既存住環境の“リノベーション”という言葉に含められているのでは」と語ります。

田舎の古民家が着目されたり、古い家がリノベーションされてお店になったり…。既存のものの価値が再発見される空気感が感じられる昨今ですが、大島さんは「今までのような古いものを大切にするような骨董趣味ではなく、一皮むけて、“使いこなして楽しもう”という感じになってきた」と表現。「既製品をただ“買う”ということを退屈に感じているのが、これから家を手に入れる世代。今ある社会環境の中から自分だけのオンリーワンを見つけ出して、自分なりにカスタマイズする。空き家は、楽しむべき対象なんですよね」と話します。

今あるものには歴史が詰まっており、それを受け継いでいく楽しさも。大島さんは真っ白なキャンバスを例に出し、「いきなり渡されて、『さぁ絵を描いて』と言われても、何を描けばいいかわからない人も多いかもしれません。しかしそこが暮らしの舞台であったとすれば『そういう歴史があったんだ』と、それを受け入れながら受け継いで楽しさを感じているのでは」、と語ってくれました。

そんな大島さんが2019年に出版した著書『なぜ僕らは今、リノベーションを考えるのかなぜ』では、「物件を物語に」というキャッチコピーが登場します。「物件って、殺伐とした言葉ですよね。家にはそれぞれ100の家があれば100のストーリーがあるはず。だから漢字を一文字変えて、素敵な“物語”をつくろうよ、と。家も“物件”じゃなくて“物語”と考えた方がワクワクしますよね」

みんなが参加できる場をつくる

大島さんによると、「リノベーションとは“参加可能な場づくり”のこと。ワクワクする街とは受け身の“消費者”がつくれるものではなく能動的な“当事者”たちがつくるもの。誰もが主役になれる場所は常に変化し成長します」と話します。例えば、全国で増え続ける廃校、閉校の小学校。その活用策の相談を受けることが多くなってきました。でも義務教育の小学校に対する地域の人々の愛校心はとても強く、小学校と言う場はその地域においてかけがえのない存在として多くの人々の能動的なコミットメントを発露させうる場所になります。参加可能な場づくりには最適な場所だと言えます。

※ブルースタジオでは鹿児島県鹿屋市の旧菅原小学校をリノベし“おおすみ半島の人と自然が先生です”というコンセプトの宿泊施設「ユクサおすみ海の学校」を運営しています。

「大切なのは箱の価値ではなく、人がそこにいた価値であり、思い出があるという価値。大事なことは、みんなで参加できる場にするということだと思います」

大島さんは、郊外団地の再生プロジェクトや地方都市での講演会を行って、衰退すると言われているような街の応援も積極的に行っています。今の時代、人々は自分らしく生きることを欲しています。例えば何かにチャレンジしたいと思った人は、そのために都会や都心に移り住む必然性はなくなってきています。オンラインで自分の仲間やファンを作って自分の家で商売ができちゃったり。「みんなと顔を合わせたい時は、自分の家の軒先、あるいは自分の街でやるのが一番いいんです。その方が“翻弄されない”という魅力がある。自分の生活環境で、住宅地で過ごす時間が増えれば増えるほど、そういった感覚は現実のものになってきているし、可能性の塊だと思っている」と語ります。

災害が増加して、高齢化少子化も進んでいる昨今。そんな中で必要なことは無いものを望むのではなく、自分たちの今の暮らしに誇りを見いだし共存していくことです。大島さんは「人間性や自分自身というものを見つめ直す時代」とし、「まさに皆さんが当事者になれる時代が必然的に訪れている。何かに翻弄されるのではなく、自分自身で自分らしい生活を作り上げいく。それは楽しいことであり、豊かなことであると気づいていく時代になったのかなという気がします」と話しました。

ライフ・イズ・ファンタジー

そんな大島さんにとっての「ライフイズ◯◯」は、ライフ・イズ・ファンタジー。

「イマジネーションは、人生を豊かにする上でとても大事。ファンタジーの世界は人からもらうものではなく、自由なものです。逆境もファンタジーに変えられるような力を、皆さんも本当は持っているはず。僕自身もそう思って、ポジティブに生きていきたいなと思っています」

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