北欧デザインの巨匠、北欧のインターナショナルスタイルを創生した「アルネ・ヤコブセン」

デンマークに生まれた「アルネ・ヤコブセン」は、デンマークの有名な建築家でありデザイナーです。デンマーク、ドイツ、英国に数多く建物を残しており、有名な建築として、デンマーク国立銀行(1971)、SASロイヤルホテル(1960)、オックスフォードのセント・キャサリン・カレッジ(1963)などが挙げられます。今回は彼の経歴と代表作をご紹介します。

空間作りへの妥協のないこだわり

Via : Wikipedia

アルネ・ヤコブセンはコペンハーゲンで生まれ育ったユダヤ人でした。1927年にデンマーク王立芸術アカデミーを卒業し、2年間コペンハーゲン市のシティー・アーキテクトとして仕事をした後、自身の設計事務所を開設し、次々と世に残る名建築を生み出してきました。彼の建築はデンマーク内外で栄誉ある賞をいくつも受賞し、1956年から11年間、王立芸術アカデミーで教授を務めました。

インテリアや家具まで一貫してデザインされた建築

建築に限らず家具やテキスタイルとインテリアに至るまで作品を生み出してきたヤコブセン。そんな彼の建築作品の中でも代表作とよばれるのは、〈SASロイヤルホテル〉でしょう。

SASロイヤルホテル

建物から家具、カトラリーに至るまでを手がけた〈SASロイヤルホテル〉は、クラシックな建物が並ぶコペンハーゲンの中心に位置し、高さ76.5m、地上22階建てという圧倒的な存在感を放つ高層建築です。のちに紹介する「スワンチェア」や「エッグチェア」という名作椅子が、このホテルのためにデザインされたことでも知られています。

デンマーク国立銀行

ヤコブセンの遺作となった「デンマーク国立銀行」は、連続する石とガラスのファサードが特徴的。内部も銀行というよりも教会のような空間が非常に迫力があり、圧倒されます。

ベルビュー海水浴場の監視台

ベルビュー海水浴場に立つ監視台もヤコブセンが手がけた作品。ミニマルで可愛らしい監視台がベルビュー・ビーチを見守ります。

ベラヴィスタ集合住宅

ヤコブセンがキャリアの初期に手がけた「ベラヴィスタ集合住宅」は、彼のスタイルの他にミース・ファン・デル・ローエの影響が見て取れます。シンプルでモダンな形態が連続する端正な建築です。

テキサコのガソリンスタンド

ヤコブセンの作品として世界で最も有名となった「テキサコのガソリンスタンド」。前面に飛び出た屋根がヤコブセンの家具のような形でおもしろい建築となっています。

この〈SASロイヤルホテル〉に限らず、ヤコブセンは建築家としての独自の哲学を持ち、建物自体のみならず家具やディテールの大部分に彼の意思を貫き、照明器具、家具、カトラリー、ドア・ハンドル、バスルーム金物、ファブリック、そして壁紙パターンに至る全てを手がけています。

広く普及した名作椅子の数々

そんな彼の作品の中でも、現代でも広く普及しているのが「スワンチェア」や「エッグチェア」に代表されるようなチェアではないでしょうか。ヤコブセンがデザインした椅子は、シンプルな中にも機能性を持ったデザインが多く、沢山の曲線によって人を包み込むような座り心地を実現しています。ここからは代表作とも呼べるチェア4点をご紹介します。

アントチェア

1952年に発表されたアントチェア。同年自身が建築した製薬会社、「Novo Nordisk A/S(ノボノルディスク社)」の社員食堂のためにデザインされたチェアです。丸い大きなテーブルにできるだけたくさん並べられるように、前が1本後ろが2本という3本脚で設計されました。

くびれの入った背に特徴があり、全体的なフォルムからイメージしてアント(アリ)チェアとして呼ばれています。椅子の材は、ブナの成形合板とスチールパイプの脚。発売当初は3本脚でしたが、アルネ・ヤコブセン死後、安定性が考慮され4本脚のタイプが発売されました。

セブンチェア

1955年に発売されたセブンチェア。1952年に発表されたアリンコ(アント)チェアの後継として、その3年後にシェルの幅を広げるなどの改良を施し、座り心地もアップし、更なる進化をとげたセブンチェアが誕生しました。

エッグチェア

1958年に発売されたエッグチェア。〈SASロイヤルホテル〉の設計に際して、1958年にデザインされました。発砲ウレタンを加工した画期的な手法と独特のフォルム。カラダをすっぽり包み込んでくれる、卵を思わせるその形状からエッグと名付けられたユニークな作品です。

スワンチェア

スワンチェアは、エッグチェアと共に1958年、〈SASロイヤルホテル〉のロビーやラウンジのためにデザインされました。 白鳥が羽を広げているかのように見えるそのシルエットから、スワンチェアと名付けられたと言われています。

北欧モダンデザインの先駆者

自分の作り出す建築自体はもちろん、その内部を構成する要素ひとつ一つに至るまで自身の美学を貫いたヤコブセン。そうした空間へのこだわりが名作と呼ばれる建築や家具を生み出したのです。教育の場にも貢献した彼の功績は、モダン様式の代表的存在であり、今日のモダンデザインの原型となった最も影響力のあるデザイナーの一人と呼べるでしょう。