ジャーナリスト、脚本家を経て建築家へと転身。OMAを率いる巨匠レム・コールハースとは?

オランダ・ロッテルダムにある「クンストハル美術館」やアメリカ・シアトルの「シアトル中央図書館」、中国・北京にある「CCTV(中国中央電視台)」など、名だたる建築の設計を手がける建築設計事務所「OMA」。その代表 レム・コールハースは建築でもあり、ジャーナリスト、脚本家など様々な顔を持つマルチな才能を持っていました。世界各国に点在する建築作品の他に、「錯乱のニューヨーク」、「S,M,L,XL」などの建築理論書の著者としても有名な人物です。

多大な影響力を持つ理論的建築家レム・コールハース

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現在、都市建築において大きな影響力を持つ建築家レム・コールハースは、1944年、オランダのロッテルダムで生まれました。彼は幼い時からインドネシア、アメリカなど、様々な国に住みながらジャーナリストとして、また劇作家として活動しました。イギリス・ロンドンにあるAAスクールで建築を学んだ後、自ら研究してきた理論を現実に適用し、都市の流れを再編成してみようと1974年、設計事務所OMA(Office for Metropolitan Architecture)を設立します。また研究機関であるAMOも設立し、所長も務めています。

カタール・ドーハにあるカタール国立図書館:Via : Wikipedia

OMAは同じくオランダを拠点に活動するMVRDVのメンバーや新国立競技場の設計コンペで注目を集めたザハ・ハディット、2010年開催の上海万博ではデンマーク館を担当したBIG主宰のビャルケ・インゲルスなどのちに世界で活躍する建築家を輩出しています。OMAが手掛けた作品はこれまで、プリツカー賞やRIBAゴールドメダルなど名だたる賞を受賞する世界で最も有能な設計事務所の一つとも言えるでしょう。

レム・コールハースについて建築家フランク・ゲーリーは”都市において希望ある存在であると同時に、建築において一番幅広く思考する建築家”だと評価しました。ただの建物としてではなく、それを取り巻く環境、都市の姿を考え、自身の作品に昇華する建築家 レム・コールハース 。マルチな才能を持ち、多角的に物事を思考するからこそ、多くの人に賞賛される作品を生み出せるのかもしれません。

息子であるトーマス・コールハースが製作した映画「REM」は、レム・コールハースの建築や年についての創造性や哲学的な思考、OMAというあまりにも有名な設計事務所のブランドなどをより理解できるドキュメンタリーです。

劇中にはOMAニューヨーク事務所の代表も務める日本人建築家・重松象平も登場し、OMAやコールハースについて語っています。

数々の建築理論を提示する有名な著書群

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1996年以降、ハーバード大学の教授であるレム・コールハースは、マンハッタン成立の過程から資本主義経済下で現われる都市的現象に至るまでを綴った「マンハッタニズム」や、都市の巨大化がもたらす建築の巨大化を論じた「ビッグネス」、都市の均一化による無個性な都市像「ジェネリックシティ」などで資本主義社会がもたらした都市の在り方を基にした実験的な出版物を発行し、話題にもなりました。

マンハッタンのマニュフェストを提示した「錯乱のニューヨーク」

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この本は1978年、まだコールハースが建築家としてはまだ著名な作品もなく無名の頃に出版されたものの、出版から2年後の1980年には売り切れたほど業界内で注目を集めた一冊です。現代文化の基礎として複合的な超過密文化を生み出した都市マンハッタン。摩天楼やロックフェラー・センター、ラジオシティ・ミュージックホールなど、地表上をグリッドに仕切り数々の建築物を生み出した都市の誕生・成立・発展の過程、さらにその可能性と限界を描き、レム・コールハース の代表作となりました。

1370ページを超える分厚い『S, M, L, XL』

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レム・コールハース 本人曰く”建築の小説”と称した著書『S,M,L,XL』(1995年)は、コールハースとOMAの20年間の活動の集大成とも言える大作です。一般的な建築理論書や作品集と異なり、ドローイングや模型の写真から、エッセイや日記、旅行記、漫画、俳句に至るまで、形式も内容も雑多なコンテンツから本書は構成されています。それらが「スケールに従って」、つまり小さいものから大きなものへと並べられ、綴られています。機能や形態にかかわらず、すべてのものを単純に「スケールに従って」分類した結果、直接の関係を持たない内容が隣り合います。モダニズムの機能主義的な秩序とは一線を画し、混交と過密、近接と衝突という、『錯乱のニューヨーク』(1978年)から現在まで持続するコールハースの問題提起を体現している一冊です。

数々の批評的な建築をデザイン

デンマーク・コペンハーゲンにある「BLOX」:レムコールハース率いるOMAが手掛けたコペンハーゲンの複合施設「BLOX」。

現代都市の在り方を批評し、他の建築家とは逸した視点で建築を生み出すレム・コールハース 。慣習にとらわれない自由な構造、デザインの建築は世界中で注目を集めています。

連続的な空間体験がおもしろいクンストハル

オランダ・ロッテルダムにある「クンストハル美術館」:オランダ・ロッテルダムにあるレム・コールハースとOMAによる批評的な建築「クンストハル美術館」

ロッテルダム中心部の公園の中に作られた美術館「クンストハル」は、ユトレヒト大学「エデュカトリウム」と同様に批評性の高い建築でモダニズムから進化した現代建築として楽しめる空間が広がります。

カーブするスラブが特徴的なユトレヒト大学内の「エデュカトリウム」

オランダ・ユトレヒトの「エデュカトリウム」:オランダ・ユトレヒトにあるレム・コールハースとOMAによる革命的建築「エデュカトリウム」

ユトレヒト大学キャンパス内の「エデュカトリウム」は、内部の空間構成がファサードにも現れた、内部空間を外部と一貫性を持たせたいかにもモダニズム的な建築です。だが、空間に出てくる床や壁、天井をできるだけ単純な構成で表現するモダニズム建築に対して、この「エデュカトリウム」は床や壁、天井という要素を融解して空間構成を再構築した革命的な建築です。

本を積み重ねたようなダイナミックな建築のシアトル中央図書館

アメリカ・シアトルにある「シアトル中央図書館」:読書の街・シアトルに現れる衝撃的なレム・コールハース率いるOMA設計の中央図書館。

シアトル中央図書館はダウンタウンの一区画そのまま使うほど大きい建築。菱形のフレームとガラスのスキンに覆われた複雑でダイナミックな形状が圧倒的な存在感を表しています。複雑な多面体の形状は確かに存在感はあるものの、大きく飛び出したりくびれたりしているため、視線が抜ける場所もあり圧迫感はない不思議な建築です。

巨大な岩のような音楽ホール「カーサ・ダ・ムジカ」

ポルトガル・ポルトにある「カーサ ・ダ・ムジカ」

ポルトガルで初めての本格的な音楽ホールとして設置されたカーサ・ダ・ムジカ。ユニークで結果的に合理的だった外観に加え、ダイアグラムをそのまま建築にするレム・コールハースの手法とパッチワークのように空間を組み合わせるOMAらしい空間構成が面白い建築です。

変形したループが構造になったCCTV

中国・北京にあるCCTV(中国中央電視台):Via:Wikipedia

中国中央テレビの本部としてしようされているCCTV。建築は6つの辺が環状に連なるように組み合わされており、中央には巨大な開口部があるのが特徴です。特異な形状と耐震性の確保の為、外壁の支柱の配置などに工夫がなされています。

予見された未来を提示したような展覧会「カントリーサイド」

2020年米ニューヨークのソロモン・R・グッゲンハイム美術館で開催された展覧会「カントリーサイド」は、新型コロナウィルスの影響で短期間で展示が延期となってしまったものの、多くの注目を集めました。こちらでは現在課題となっている環境や経済、社会の問題を「田舎」という観点から考えられており、建築をそれが取り巻く社会、環境から捉え、アプローチをする理論派建築家としての姿が伺えます。

相反する規範を内包することで生まれる革新的なアイデンティティを持つレム・コールハース

レム・コールハースは束縛からの自由、構造からの自由、整形化されたモデルからの自由、イデオロギーからの自由、秩序からの自由、プログラムからの自由、系統や系譜からの自由を主張します。このようなリベラルな考えを持っているからこそ、彼の作品は一つの方向にのみ限られることがないのです。そのため、彼の作品は時には落ち着いた建築に、時には難解な建築になるのです。これまで多くの懸賞設計に当選したにもかかわらず、完成した建物より実現していない計画がもっと多いも言われており、彼の前例や慣習にとらわれない新しい建築づくりへのこだわりが感じられます。