福岡が拠点のクリエイティブチーム「anno lab」所属の若手デザイナー・須藤史貴の暮らしとデザイン

来年へと延期となったオリンピックに続き、日本への注目が高まるイベントである2025年日本国際博覧会。先日開催されたロゴマーク公募にて最終候補5案に選ばれ、優秀賞を受賞したのは若手グラフィックデザイナー・須藤史貴(すどうふみたか)さん。今回は福岡を拠点に活動されている須藤さんに、日常で大切にしているデザインや今後の活動について、お話を伺いました。

グラフィックデザイナー・須藤史貴

撮影:角洋介

1993年太宰府市生まれ。九州大学大学院・芸術工学府CCD(修士課程)修了。現在福岡を拠点に活動するクリエイティブチーム「anno lab」所属。大阪・関西万博ロゴマーク公募での優秀賞受賞(宮垣貴宏とのデザインユニット minamo 名義)ほか、様々な企業・ブランドをクライアントにグラフィックデザイナーとして活躍されています。

日常に欠かせない、創作に向けたインプットのための大きな本棚

撮影:角洋介

まずはじめに「日常生活の中で大切にしているデザイン」について伺いました。

「自分の本棚にはこだわっています。まだ僕は駆け出しなので価格の高いものは買えませんが(笑)、デザイン書や画集をたくさん持っているので、天井近くまである収納力に優れた本棚にしています。できる限り本を買ったり読んだりすることを職業柄常に大切にしています。」

モノを生み出すデザイナーとして、色々な書物からインスピレーションを得ているのですね。インプットを絶やさないためにも、こだわりの本棚は欠かせない存在だと言えそうです。

落ち着くのは、地元の原風景

まだお若い須藤さんですが、どのような空間がお好きなのでしょうか。

「自分は太宰府天満宮がある太宰府市で生まれ育っているので、天満宮をはじめとした史跡周りが特に気に入っている空間ですね。」

なるほど、歴史が感じられる文化的な建物、空間に魅力を感じられるのですね。

デザイナー視点で惹かれる映画とは

画像提供:STUDIO MOVES

映画が好きだという須藤さん。特に気に入っている作品はどういったものでしょうか。

「大学の頃からの友人と映画であったりアニメーションを作っていて、その中で自分はポスターのデザインや劇中に用いられる文字を担当しています。なので、そうした視点で『いいな』と思える要素が多い作品に惹かれます。特にクリストファー・ノーラン監督の作品にはストイックで抑制が効いた表現が多く、影響を受けていると思います。」

仕事に限らず、仲間たちと映画も制作しているという須藤さん。SFであったり人間ドラマであったり、様々なジャンルの作品を作っているそうです。幅広い経験が、今後の制作にも生かされそうですね。

コロナを経て、より身近になったグラフィックデザイン

新型コロナウィルスによって生活が変わりつつある現代。グラフィックデザイナーの活動にも影響はあるのでしょうか。

「グラフィックデザインそのものは、“インスタ映え“という言葉が定着したこともあって、今後暮らしに密接になって重要度がますます大きくなると考えています。そうした中で、大胆で実験的な試みができる場面が増えるとよりやり甲斐が感じられますね。」

デザイナーを目指すきっかけとなった出会い

大学院を修了して間も無く、様々なプロジェクトにグラフィックデザイナーとして携わり、数々の作品を世に生み出している須藤さん。グラフィックデザイナーを目指したきっかけとはどういったものなのでしょうか。

「高校の美術の先生に『世界のグラフィックデザイン 第1巻 ビジュアルコミュニケーション』という本に載っている、様々な図版のコピーを見せて頂いたことがきっかけです。古今東西の言語や世界観やメッセージなど、抽象的な考え方、概念を視覚的に表現した資料が集められている本なのですが、見えないものを可視化して他人と共有したりコミュニケーションしたり、またアーカイブとして残していくということに興味を持ちました。」

地方で活躍するデザイナーに刺激を受ける

高校生時代に目にした書籍がデザイナーを目指したきっかけと話す須藤さん。これまで影響を受けたデザイナーはいるのでしょうか。

「歴史上の多くのデザイナーから影響を受けています。現役のデザイナーでは特に、地方でグラフィックに取り組んでいる方々が、自分にとっては参考になったり大きな影響を受けていると思います。特にデジマグラフというデザイン事務所は、長崎でローカルに密着したブランディングを行なっていて、明快なビジュアルでクオリティの高い作品を多く生み出しているので尊敬しています。」

なるほど。愛着のある地域の課題をコミュニケーションで解決していくデザイナーは、地方の活性化が進む現代ではより重要性が増す存在かもしれませんね。

日本と海外のグラフィックデザインの違い

撮影:角洋介

ドイツに留学経験がある須藤さん。日本と海外でグラフィックデザインに違いはあるのでしょうか。

「グラフィックデザインの歴史を考えるとそれぞれの地域によって違いはありましたが、インターネットが普及してからは、その差は無くなってきたように感じます。一つあげるとすると、海外はポスターやチラシに入る文字が少ない印象があります。その代わり写真やイラストが非常に力強く、語りかけてくるようなものがあって、言葉がネイティブではない自分にも魅力が伝わるものが多く、制作の参考になりました。」

2025年日本国際博覧会 ロゴマーク優秀賞受賞後の変化

撮影:角洋介

宮垣貴宏さんとのデザインユニット minamo 名義でデザインされた2025年日本国際博覧会のロゴマークが最終候補まで残り、結果優秀賞を受賞されましたが、その後仕事の依頼内容に変化はありましたか?

「ロゴデザインの相談は以前と比べて多く頂いています。宮垣と共同で制作できる体制を整えているところで、今後二人でできることを増やしていきたいと思っています。」

撮影:anno lab

宮垣貴宏さんとのデザインユニット minamo での活動では、2025年日本国際博覧会のロゴマークでの優秀賞受賞に加え、〈不均質な自然と人の美術館〉や〈福岡タワー〉のロゴデザインを担当したり、所属するクリエイティブ・ラボanno lab では九州の神楽上演イベントの広報物デザインを手がけたりと様々なジャンルで活躍されている須藤さん。ご自身のデザインの特徴とは何だと思いますか?

「形を何か別のものに見立てたり、タイポグラフィを使った意味かけなど、視覚的なダジャレのようなアイディアを用いることで見た目の説得力を出そうとしている点だと思います。一方でそうしたアイディアが表面的で浅いものでは意味がないので、クライアントの価値観やビジョンといった内面と噛み合うような造形的なアイディアを出すことを意識しています。表面的にはわかりやすくしても、内面のメッセージを疎かにしないように気をつけています。」

なるほど、デザイナーとしての工夫、苦悩が伝わりますね。そうしたわかりやすい中にメッセージを込めるというのは両極端な気もしますが、特に意識している点はあるのでしょうか。

画像提供:anno lab、minamo

「バランスをとらなくちゃ、というところで日々苦労しています。ロゴは一瞬しか人の目に触れない場合が多いものですが、そこでふと、目を留めて意味を読み解こうとした人を裏切らない、解釈や気づきを得てもらえるような作品にできるように努力しています。」

これまでの須藤さんの作品を改めて見返してみると、新たな発見も多そうですね。

常に遊び心を持った暮らしをつくりたい

撮影:角洋介

福岡を拠点に、様々なプロジェクトにグラフィックデザイナーとして携わる須藤さん。そんな須藤さんにとって「ライフイズ◯◯」の空欄にはどんな言葉が入るのでしょうか。

「『人生とはこうだ』というにはまだまだ経験不足だなと思うことが多いのですが、大喜利のように考えるのであれば、『人生は“シコウ”』というのが今の自分には合うと思っています。“シコウ”には“思考”という意味であったり、“志向”、“試行錯誤”、“嗜好”、など様々な意味合いがありますが、最終的に『人生は“至高”』だったな、と言えるようにしたいなと思っています。こういった言葉遊びを視覚的な要素で行っているのが自分が得意としているグラフィックデザインの分野なので、そうした遊び心を持ちつつ人生を楽しみたいですね。」

お見事!と言いたくなるような須藤さんらしいウィットに富んだ回答でした。平成生まれの若手デザイナー、今後がますます楽しみですね。