巨匠・ライトの愛弟子、遠藤新の名作住宅「葉山 加地邸」を建築家・神谷修平が現代に再生。

1982年愛知県生まれ。2007年早稲田大学大学院理工学研究科修了後、隈研吾氏の事務所にて設計室長として国内外様々なプロジェクトを経験。ビャルケ・インゲルス率いるBIG にてシニアアーキテクトを務めたのち、2017年に株式会社カミヤアーキテクツを設立した建築家・神谷修平。2020年秋に開催されたDESIGNART TOKYO 2020にて会場構成を担当したほか現在も様々なプロジェクトを抱え、まさに今注目の若手建築家です。

その彼が新たに手掛けたのは、葉山に建つ登録有形文化財「葉山 加地邸」の改修デザイン。プレーリースタイルの歴史と文化的価値を守りながら生み出された文化財建築をご紹介します。

現代の生活に合う”プレーリースタイル”を再定義

photo Takumi Ota

登録有形文化財「葉山 加地邸」は、三井物産初代ロンドン支店長である加地利夫の別邸として、フランク・ロイド・ライトの高弟である遠藤新により、1928年に竣工しました。

photo Takumi Ota

老朽化が進むなか、オーナーにより貴重な建築の保存と利活用を目的としたプロジェクトが発足。一棟貸の滞在型宿泊施設として再生するため、神谷修平率いるカミヤアーキテクツが保存・改修デザインおよびクリエイティブディレクションを手掛けました。

photo Takumi Ota

フランク・ロイド・ライトの建築哲学であるプレーリースタイルが色濃く反映された建築の改修において重視したのは歴史と文化的価値を守りながら、現代の生活様式に合わせて、プレーリースタイルを再定義すること。従来の建築保存の枠を超え、既存のデザインと機能を再解釈し、文化財保護条例の範囲内で改造、新設、家具の制作が行われました。

歴史性と現代の暮らしよさをそれぞれ活かした3つのエリア

photo Takumi Ota

建物は3つのエリアコンセプトを基に改修が行われています。一つ目は歴史性を尊重し、保存に徹するエリア。二つ目は新規家具と照明により歴史と現代を融合するエリア。そして三つ目は、現代的な考え方により歴史性を再定義し、再生するエリア。遠藤新の建築哲学はそのままに、より暮らしやすい空間へとデザインされました。

建設当初の姿をそのままに、美しく蘇った外観。

photo Takumi Ota

フランク・ロイド・ライトの影響が色濃い遠藤新によるプレーリースタイルの建築はそのままに、老朽化が進んでいた外装を補修。屋根や外壁を修復するとともに、自然と融合する遠藤新の建築哲学に沿うよう、庭を再整備しています。

現代の暮らしに添う機能性を備えたクラシックなデザインのインテリア

photo Takumi Ota

竣工当時の姿を蘇らせることに専念した上で、プレイルーム、寝室、ライブラリーには現代の生活に沿う家具・照明を新たにデザインしました。

photo Takumi Ota

プレーリースタイルの哲学を表す六角形、三角形の幾何学をモチーフにした家具はその時々の用途やゲストの人数によって自由な組み合わせで使用することができます。

photo Takumi Ota

また、照度を保つために各所に間接照明を設置。細部までこだわりを感じる既存の照明器具を生かしつつ、より過ごしやすくアップデートされています。

窓からのぞく緑鮮やかな木々が美しい寝室。建設当時からの染色された古材仕上げに合わせ、デスクやベッドフレームなど新規のインテリアを制作しています。

コミュニケーションが生まれる開放的なテラス

photo Takumi Ota

葉山の素晴らしい景観を望むテラスは、元は網戸に囲われた閉鎖的な室内でした。自然に囲まれた敷地の屋内外をつなぎ、訪れた人々が憩う場所として、開放的な半屋外テラスへと改造されました。

photo Takumi Ota

プレーリースタイルの特徴でもあるランダムさ、非対称性を、現代の様式に再解釈した木製のインテリアは、大小様々な石材で構成される特徴的な2つの柱と共鳴します。

photo Takumi Ota

単にシンプルで直線的なデザインではなく、凹凸のある空間にすることでその場に集う人々のコミュニケーションのきっかけを意図しています。

使用人室を浴室へ改造。地下階に位置する荘厳なスパ

photo Takumi Ota

有形文化財の保存条項の中で、最も大胆な改造が可能であったのが地下の使用人室と倉庫でした。それぞれの建築の基本構造を保持しながらも、スパへと改造しています。

photo Takumi Ota

曇りガラスの扉の先が浴室への期待感を高めます。ドアノブもプレーリースタイルをディテールに継承した木製のランダムなデザインとなっており、細部へのこだわりが感じられます。

photo Takumi Ota

扉の先に広がる浴室は、天井部が取り除かれており、地下階ながらも光の差し込む明るく開放的な空間になっています。

photo Takumi Ota

浴槽や窓など空間の構成要素は基本的に直線で構成されており、壮大な印象を強めています。

photo Takumi Ota

まるで大浴場のように広々としたスパは、国内外からゲストを招きたいというオーナーの要望に応えた、日本の生活で重要な風呂文化を満喫するための贅沢な空間となりました。

photo Takumi Ota

長さ4.5mの浴槽では寝湯も楽しめ、時間とともに移り変わる光の表情を眺めながらゆったりと過ごすことができます。

photo Takumi Ota

1日の終わりにゆっくりお湯に浸かって疲れを癒すのはもちろん、朝の自然光が差し込む中で1日のスタートに向けリフレッシュするのも良さそうです。

巨匠・遠藤新の建築哲学をそのままに、現代の暮らしへとアップデートされた住まい

自然や周辺環境と融合し一体化するライトの「プレーリースタイル」と、自然界に多く存在する幾何学を家の中に取り込む遠藤新の「全一」の建築哲学を受け継ぎながら、現代の暮らしへと整えられ、さらに人々が心地よく過ごせるようになった〈葉山 加地邸〉。もちろん宿泊可能なので、1日を通してその魅力を味わってみてはいかがでしょうか。

葉山 加地邸

URL : https://kachitei.link/
住所:神奈川県葉山町一色 葉山 加地邸