平和合金とwe+が高岡の鋳物技術から生まれた家具コレクション「Unseen Objects / Overflow」をミラノデザインウィーク2026で発表
日本のものづくりの中には、完成品の美しさだけではなく、その過程にこそ豊かな価値が宿っているものがあります。富山県高岡市で鋳物づくりを続ける平和合金と、東京を拠点に活動するコンテンポラリーデザインスタジオwe+が、ミラノデザインウィーク2026で発表する家具コレクション「Unseen Objects / Overflow」も、まさにそうした視点から生まれたプロジェクトです。会場となるのは、ミラノの5VIEエリアにあるGalleria Rubin。鋳造技術の本質を見つめ直しながら、これまで見過ごされてきた造形や痕跡を家具へと展開する今回の試みは、日本の工芸技術を現代のデザインとして再提示するものとして注目を集めそうです。
高岡の鋳物文化に宿る、時間と技術の蓄積

富山県高岡市は、江戸時代から約400年にわたり銅器鋳造の中心地として発展してきた土地です。日本で唯一、銅器鋳造の伝統的工芸品産地として指定される「高岡銅器」の技術は、長い時間の中で磨かれ、世代を超えて受け継がれてきました。鋳物は、溶かした金属を型に流し込み、冷やし固めることでかたちを生み出す技術ですが、そのシンプルな原理の背後には、素材を見極める経験や、温度や流れを繊細に制御する感覚、そして仕上げに至るまでの確かな手仕事があります。

平和合金は、そうした高岡の鋳物文化を背景に持ちながら、伝統を守るだけではなく、現代における新たな表現へと接続するものづくりを続けてきました。今回のプロジェクトでは、その技術的な蓄積が、単なる工業製品や工芸品としてではなく、デザインの視点からあらためて読み解かれています。鋳造という行為の中で自然に生まれる現象や痕跡を見つめ直すことで、従来の価値観では周縁に置かれてきた要素が、むしろ主役として立ち上がってくる。その発想の転換に、このコレクションの面白さがあります。
“見えない価値”を可視化する「Unseen Objects」プロジェクト

「Unseen Objects」は、平和合金とwe+が協働し、鋳造文化の中でこれまで見過ごされてきた価値を再発見し、現代のデザインとして提示するプロジェクトです。2025年には第一弾として花瓶コレクションが発表され、製造の舞台裏にある道具や治具、素材の質感、偶発的に立ち現れる造形などに光を当てることで、鋳物文化の新しい魅力を引き出しました。今回の「Overflow」は、その第二弾となる家具コレクションです。
タイトルにある“Overflow”が示すのは、鋳造工程の中で金属が型の継ぎ目からあふれ出し、凝固して生まれる余剰部分、いわゆる「バリ」の存在です。通常、バリは仕上げ工程で取り除かれるものであり、製品として見せる対象にはなりません。むしろ、完成に向かう過程で整理され、消されていくものとして扱われてきました。しかしwe+は、そのバリを単なる不要物としてではなく、物質が流れ、かたちを獲得した痕跡として捉え直しています。制御された工程の中で、素材が一瞬だけ見せる生命力のようなものを、そこに見いだしているのです。
we+

リサーチと実験に⽴脚した⼿法で、新たな視点と価値をかたちにするコンテンポラリーデザインスタジオ。林登志也と安藤北⽃により2013年に設⽴。
利便性や合理性が求められる現代社会で、⾒落とされがちな多様な価値観を⼤切にしながら、⾃然や社会環境との親密な共存関係を築くオルタナティブなデザインの可能性を探究しています。デザイナー、エンジニア、リサーチャー、ライターといった多彩なバックグラウンドを持つメンバーが集い、研究を起点とする⾃主プロジェクトを国内外で発表。そこで得られた知⾒を⽣かし、R&D、インスタレーション、ブランディング、プロダクト開発、空間デザイン、アートディレクションなど、さまざまな企業や組織のプロジェクトを⼿がけています。
FRAME Awards Designer of the Year 2024、Wallpaper* Design Awards、Dezeen Awards、EDIDA等受賞多数。作品は、ドイツのヴィトラ・デザイン・ミュージアムなどに永久収蔵されています。
通常は除去される「バリ」を、家具の造形へと転写する

今回発表される家具コレクションでは、この「バリ」の造形がそのまま主題になっています。生成されたバリのパネルを積層し、そのあいだに板材を挟み込むことで、シェルフやローテーブルといった家具が構成されています。つまり、これまでは製品の完成に向かうなかで取り除かれてきた要素が、今度は家具の骨格や表情をつくる主体として扱われているわけです。
この発想が興味深いのは、ただ廃材や副産物を再利用するという話にとどまらないからです。そこにあるのは、製造の過程で生まれる偶然性や、素材が自然に立ち現わせる表情をどう価値として読み替えるかという視点です。工業製品の世界では、均質であること、誤差がないこと、予定されたかたちに収束することが強く求められます。しかし「Unseen Objects / Overflow」では、その周辺に生まれる揺らぎや逸脱にこそ、豊かな造形の可能性があると示しています。完成品の背後に隠れていた要素を前景化することで、鋳造という行為そのものの魅力を見せているのです。
工芸とデザインのあいだに生まれる、新しい家具のかたち

このコレクションが印象的なのは、工芸とデザイン、産業と表現、そのあいだを軽やかに横断している点にもあります。鋳物というと、重厚で硬質な素材感や、伝統工芸としての文脈がまず想起されますが、ここで提示される家具は、そうした既存のイメージを少しずつずらしていきます。鋳造工程の副次的な造形を用いながら、家具としての機能や構成を成立させることで、作品は彫刻的でもあり、同時に日常の中に置かれるプロダクトでもあるという、曖昧で豊かな領域に立ち上がっています。
we+が継続して取り組んできたのは、自然環境や社会との関係性の中で、既存の価値観を更新するようなデザインです。その視点が平和合金の高度な鋳造技術と重なることで、単なるコラボレーションに終わらない強度が生まれています。技術を装飾的に消費するのではなく、技術の内部にある論理や現象そのものをデザインのテーマとして扱うことで、表層的ではない深みのある表現に結びついています。
ミラノの5VIEで発信する、日本の鋳造文化の新しい未来像
発表の場となる5VIEは、ミラノデザインウィークの中でも、アートやコレクティブルデザイン、クラフツマンシップの文脈が色濃く交差するエリアとして知られています。その中に位置するGalleria Rubinで展示を行うことには、明確な意味があります。日本の鋳物技術を単なる地域産業の紹介として見せるのではなく、同時代のデザインとして真正面から提示すること。そこには、伝統工芸を未来に向けて更新する意志が感じられます。
また、今回の展示は、2025年に発表された花瓶コレクションからさらにスケールを広げ、家具という領域へ展開している点でも重要です。花器のようなオブジェクトから、空間の中でより強い存在感を持つ家具へ。その拡張によって、鋳造文化の見え方そのものが変わってきます。物質の痕跡や工程の副産物といったテーマが、より具体的に、より身体的に感じられるようになるからです。作品を見るだけではなく、その前に立ち、距離を取り、空間の中で存在感を受け止めることで、このコレクションの意味はさらに深く伝わってくるはずです。
見過ごされてきたものに価値を見いだすということ
「Unseen Objects / Overflow」が投げかけているのは、ものづくりにおいて何を価値あるものとして見なすのかという問いでもあります。完成された製品、磨き上げられた表面、整えられたフォルムだけが美しいのではない。そこに至るまでの痕跡や、通常は取り除かれる要素、制御しきれない物質のふるまいにもまた、別の美しさが宿っているのではないか。そうした視点は、工芸やデザインの未来を考えるうえでも、とても示唆に富んでいます。
平和合金とwe+が今回ミラノで示すのは、伝統技術を守ることだけでも、最新のデザインとして消費することだけでもありません。長い時間をかけて受け継がれてきた技術の中から、これまで見えにくかった価値をすくい上げ、未来の表現として組み替えていくこと。その姿勢こそが、このコレクションの核心にあります。日本の鋳物文化が、世界のデザインシーンの中でどのように新しい解釈を獲得していくのか。ミラノでの発表は、その大きな一歩になりそうです。
Unseen Objects / Overflow(アンシーン・オブジェクツ / オーバーフロー)
会期: 2026年4⽉20⽇(⽉)- 26⽇(⽇) 10:30 – 20:00
会場: Galleria Rubin(住所/Via Santa Marta 10, Milan MAP )
主催: 株式会社 平和合⾦
リサーチ&デザイン: we+
写真: Daisuke Yoshio / Kenichi Murase