環境にひらき、人に寄り添う――原田収一郎(しう)が考える、ブランディングの重要性とこれからの建築
前編:空間をつくることは、暮らしをデザインすること―建築家・原田収一郎(しう)が語る「居心地」の原点
シンプルかつ深みのある言葉で、多くの人々から注目を集める建築家・原田収一郎さん(以下、しうさん)。今回は、しうさんが建築を考える際に重要視している「環境との調和」や、大きな窓に込めた哲学そして今後取り組んでみたい領域について伺いました。
「たたずまい」を形作るということ

しうさんの作品には、環境と一体化した印象や、空間自体が環境に変容しているような美しさが感じられます。建築をデザインする際、どんな視点を重視しているのでしょうか。
「『たたずまい』という言葉がありますよね。その建築がただそこに“立つ”だけで醸し出される雰囲気を大切にしています。周囲の環境や景色との調和について、建物をなじませるべきか、それともあえて対比させるべきかといった切り口を考えます。その建物が周辺環境に適合することはもちろん大事ですし、そこに住む人々がどのような暮らし方をするのかも重要です。立地条件にも配慮しつつ、お施主様の暮らしに寄り添い、私自身のデザインの強みを活かす。こうした複合的な視点で設計を進めています」
風景の一部として建築を捉え、住む人と環境の双方への配慮を大切にする視点が印象的です。
ミニマルな空間と緑との関係

しうさんのデザインでは、ミニマルな空間が緑を引き立てる印象ですが、施主にもそのような趣向の方が多いのでしょうか。
「緑が好きという施主様は多いですね。でも一方で、『虫が出るのが嫌だ』とか『お手入れが大変そう』と言われることもあります。インスタグラムなどで発信した作品を見てお越しになる方がほとんどなので、私がどのような建築を手がけているのかを事前に知っている方が多いです」
自然との調和を感じさせる空間づくりですが、緑の演出に伴う「実用性」への配慮も欠かしていない点が興味深いです。
大きな窓と「カーテンのいらない家」
しうさんのご自宅や事務所は、自然との距離が近く、環境と空間がひと続きの印象を受けます。そうした空間で日々過ごす中で、どのように感じているのでしょうか。
「自宅も事務所も自然が近い場所にあるので、目の前に木があったりして驚くこともありますが、そのたびに心地よさを感じていますね。例えば、大きな窓を開け放てる設計にしているのですが、窓を全開にできる日は年に数十日程度。しかし、そんな“数少ない特別な瞬間”だからこそ、窓を開けたときの快感や幸福感は格別です。その価値を実感しています」
大きな窓へのこだわりについて、その理由は何でしょうか。
「窓を大きくすると、開放的で気持ちいい空間が生まれると思います。それが、住まいを居心地よくするために必要な要素だと感じています。ただし、防犯面や外からの視線への不安もあるので、外壁を少し高くしたり、窓の配置を工夫することで解消しています。結果として、窓を大きくしながらも“カーテンをしなくて済む家”を作ることを目指しているんです」
視覚的な開放感を重視しつつ、安心感を両立させる設計は、暮らしの質を高めるしうさんならではの工夫と言えそうです。
ブランディングで大切にしていること

建築だけでなく、ブランディングにも注力されているしうさん。その感覚における大切なポイントは何でしょうか。
「一番大事にしているのは、一貫性です。自分が手がけるブランドに似合うもの、似合わないものを徹底的に見極めています。同時に、見た目をきれいに整えることも意識しています」
空間も言葉も、ぶれない軸を持つからこそ、その静かな強さがしうさんの仕事に宿っているのがわかります。
住宅設計から広がる未来

これまで多くの住宅設計を手がけてこられたしうさんですが、今後挑戦してみたいことは何ですか。
「住宅設計では、居心地の良い室内空間を作ることが求められます。この経験を活かして、ホテルや飲食店など、居心地の良さを追求する空間づくりの幅を広げていきたいと思っています」
暮らしの延長線上にある空間づくりという新たなフィールド。次の挑戦に際してもその視点が活かされていくことでしょう。
人生を通して人の役に立ちたい
最後に、しうさんにとって「LIFE IS ◯◯」の◯◯に入る言葉とは何でしょうか?
「LIFE IS“サービス”です。人の役に立つ生き方をしたいと常々思っています。自分だけが満足するのではなく、周りの人も満足できる空間をつくりたい。そして、自分の暮らしを整えることで余裕を生み出し、他者へのおもてなしにつなげていきたい。人の役に立つような生き方を実現することが私の目標です」
居心地の先にあるもの
環境にひらき、人に寄り添う建築のあり方――しうさんの空間は、派手さよりも、時間とともに心に残る居心地の良さを追求しています。暮らしを整えることが他者への「サービス」につながるという思想は、これからの空間デザインの新たなヒントを静かに示しているように感じられました。