囲うことで立ち上がる非日常──建築家・酒井一徳による与論島のプライベートホテル「AMADA」
鹿児島県・与論島に建つ「AMADA」は、1日1組限定で利用できる一棟貸しのプライベートホテルです。設計を手がけたのは、奄美群島を拠点に活動する建築家・酒井一徳。島の風土や歴史的背景を読み解きながら、場所の記憶を建築として再構成する姿勢は、本作においても随所に表れています。
廃墟化が進むリゾート跡地という条件

「AMADA」が建つのは、与論島の内陸部。かつてバブル期にリゾート地として開発されたものの、時代の移ろいとともに静けさを取り戻したエリアの一角に位置しています。海からは離れており、敷地から海を望むこともできない、観光地としては不利ともいえる立地条件でした。酒井はこの環境を否定するのではなく、周囲の風景からあえて距離を取り、敷地内に“別世界”を立ち上げるという発想を採用します。周囲をRCの壁で囲い、外部環境を遮断した内向きの構成とすることで、日常から切り離された滞在体験を生み出したのです。
囲うことで生まれる、開かれた非日常

建物は、大きなプールとアウトドアテラスに沿うようにLDKと2つのベッドルームを配置。室内の反対側には、壁に沿って一本の長い廊下が通り、各室から直接プールやテラスへとアクセスできます。建物全体が水景を中心に構成され、どこにいても光と水の気配を感じられる空間としています。
囲いの壁の一面はあえて高さを抑え、遠景に立つ別荘の琉球瓦を借景として取り込む工夫も施されています。完全なプライベート空間でありながら、島の空気や気配を感じ取れる設計が、この建築の大きな特徴です。
素材がつくる、静かな緊張感

外観および内部は、打ちっぱなしのコンクリートを基調に、インテリアの随所に木の素材を組み合わせた構成です。無機質なRCと、温もりのある木材が調和することで、モダンでありながらも、与論島の穏やかな時間の流れを感じさせる空間が生まれています。過度な装飾を排し、素材そのものの質感を生かすことで、滞在者が空間と静かに向き合える環境が整えられています。

夜の表情も「AMADA」の大きな魅力です。重厚な外観はライン照明によって下方から照らされ、建築全体が地中から浮かび上がるような印象を与えます。その光は、訪れる人を非日常へと静かに導きます。

室内の照明は、まぶしさを感じにくい小さな灯りを細かく配置し、窓ガラスへの映り込みを抑えています。やわらかくまとまった光が、空間に心地よい陰影を生み出し、落ち着いた雰囲気をつくり出しています。
屋外テラスの照明も同様に、足元を照らすように光を抑えることで、室内からテラスへと視線や気配が自然につながるよう工夫されています。
囲われた先に立ち上がる、与論島のもう一つの風景
「AMADA」は、立地条件の不利さを逆手に取り、囲うことで成立させたプライベートな建築です。外部から切り離された空間でありながら、光や素材、借景を通じて土地の空気を感じさせる構成は、酒井の設計姿勢を端的に示しています。与論島の過去と現在、その間に生まれた余白に静かに佇むこの建築は、滞在することで初めて立ち上がる、もう一つの島の風景といえるでしょう。
AMADA
URL:https://amada-yoron.com/
住所:〒891-9301 鹿児島県大島郡与論町茶花字田二2483−7