屋根を立てかけるという解答──建築家・酒井一徳による奄美の気候と暮らしを受け止める「大屋根の家」
奄美大島の海辺の集落に建つ「大屋根の家」。設計を手がけたのは、土地の気候や文化、暮らしの本質を丁寧に読み解き、地域に根ざした空間づくりを行う建築家・酒井一徳です。建築の最大の特徴は、切妻屋根の片側が地面まで伸び、敷地の約半分を覆うほどの“大屋根”。その下に生まれた軒下空間が、内と外をやわらかにつなぎ、奄美ならではの暮らしを受け止めています。
コストと要望を両立するための建築的回答

オーナーからの大前提は「コストを抑えること」。そのうえで、駐車場、子どもたちの遊び場、倉庫、シーカヤックやサーフボードを収納できるガレージといった多様な要望がありました。そこで酒井が導いた答えが、2階建ての住居に大きな屋根を“立てかける”ような構成。建築的な操作によって、一つの屋根が複数の役割を担う合理的な住まいが生まれました。
軒下が生み出す、内と外の中間領域

大屋根の下に広がる軒下空間は、屋内と地続きで使える半屋外の場。プライバシーを保ちながらも、開放感のある居場所として機能します。子どもたちの遊び場としてはもちろん、ガレージや倉庫、さらには宴会の場にもなる用途を限定しない大らかな空間です。人が集い、風が抜け、光が揺らぐ──奄美の暮らしに自然と馴染む中間領域がつくられています。集落との距離が近い奄美の文化に呼応するように、「大屋根の家」は閉じすぎず、開きすぎない佇まいで、人と人との関係を受け止めています。
厳しい自然環境に応える素材と構成

外壁にはサイディングを採用し、耐久性とコストパフォーマンスを両立。屋根にはガルバリウム鋼板を用い、メンテナンス性にも配慮しました。雨が多く、日差しや台風の影響も大きい奄美の気候に対し、大屋根は強い日射や風圧を和らげる役割も担います。全天候型の軒下空間は、天気に左右されずに外遊びができる、地域性に根ざした設えです。
シンプルな構成が支える、柔軟な住空間

間取りは、1階にLDKと水回り、2階に吹き抜けを中心としたプライベートルームを配置。室内はコストを抑えるため、フローリングを用いず基礎をそのまま現しとし、素材の素直さを生かしています。一方で、浴室はオーナーのこだわりによりタイル貼りとし、落ち着きのある空間に。マリンスポーツ帰りにそのまま入れるよう、外部につながるドアも設けられました。
大屋根がもたらす、光と陰のバランス

大屋根は、単なる大きな覆いではありません。その深い軒がつくる陰影によって、室内には柔らかく温かみのある光が差し込みます。東側からの強い日射も遮られ、視線や環境をコントロールしながら、心地よい明るさが保たれています。大屋根の内側には、シーカヤックやボードを掛けられるスペースも確保され、暮らしと趣味が自然につながります。
成長とともに変化する住まい

将来的には、住居2階部分から地続きで大屋根まで床を延ばし、子ども部屋を増設する計画も想定されています。今は余白として存在する空間が、家族の成長に合わせて姿を変えていく。初めから完成させすぎない住まい方も、この家の大きな魅力です。
大屋根が、暮らしと風土を豊かにする
コストを抑えながらも、大屋根という存在が厳しい気候環境に応え、暮らしの幅を大きく広げた「大屋根の家」。酒井が大切にする、土地の風土を読み解き、暮らしの本質をすくい取る姿勢が、この住まいの随所に息づいています。奄美の自然とともに生きるための、ひとつの確かな建築的解答です。