タンチョウが翼を広げる象徴的な博物館。毛綱毅曠が手がけた「釧路市立博物館」
北海道・釧路市の春採湖(春湖台)の高台に建つ「釧路市立博物館」は、釧路出身の建築家・毛綱毅曠が設計した、釧路の自然と歴史を“建築体験”として編み直すミュージアムです。1983年11月に完成した建物は、タンチョウが翼を広げて雛を抱く姿を思わせる外観と、周辺丘陵の起伏を反映した段状の屋根が特徴です。館内では二重らせん階段が回遊を生み、展示を見る行為そのものが、空間を歩く体験へ変換されていきます。
毛綱毅曠と釧路——風土を「象徴」に変える建築家の視線

毛綱毅曠(1941–2001)は釧路市出身の建築家で、地域の自然環境や土地の記憶を、強い象徴性をもった造形へ翻訳することで知られます。釧路市立博物館と釧路市湿原展望台の設計では、1985年に日本建築学会賞を受賞しており、地方の公共施設を“文化のランドマーク”として成立させた点でも評価されています。

釧路市立博物館が面白いのは、展示を収める「器」で終わらず、釧路という土地のスケールや生態系の気配を、外観と動線の設計によって身体へ届けようとしているところです。風景の中に建築を置くのではなく、建築そのものを「釧路を読むためのレンズ」にしている、と言い換えてもよいでしょう。
タンチョウの翼、そして外観と屋根が語る「風景の翻訳」

外観はタンチョウが翼を広げた姿をイメージしたとされ、左右へ張り出す量塊が、風景に対して大きな身振りをつくります。さらに屋根は、隣接する春採湖周辺の起伏ある丘陵地形のイメージを取り込み、段状に重なるシルエットとして表現されています。

ここで重要なのは、自然をそのまま写すのではなく、地形や生物の“特徴”だけを抽出し、建築言語として再構成している点です。結果として、建物は周囲の緑や空の色に溶け込むのではなく、風景の中で確かな輪郭を保ち、訪れる人に「この場所へ来た」という到達感を与えます。

春採湖の静けさと、量塊がつくる陰影の強さが同居することで、博物館は単なる施設ではなく、都市と自然の境界に立つ“前室”として機能します。
二重らせん階段と展示の回遊——建築がつくる「学びの動線」と内部体験

館内体験の核となるのが、二重らせん階段です。展示階(1階・2階・4階)を結ぶこの階段は、上下移動を単なる移動にせず、視線の切り替えや気配の交差を生む「出来事」として設計されています。

階段の周りに展示が展開することで、鑑賞は直線的な順路ではなく、行き戻りや寄り道を含んだ回遊へと自然に変わっていきます。

歩く速度が変われば、見える範囲も、音の反響も、光の濃淡も変わります。そうした感覚の変化が、展示内容(自然・地質・歴史・文化)を“知識”としてではなく“体験”として定着させるのです。

インテリアとして見れば、手すりの連続や壁面の陰影が動線を導き、吹抜けを介して別の階の気配が伝わることで、館内全体がひとつの連続した学びの場として立ち上がります。
釧路の自然と都市をつなぐ「建築としての博物館」
釧路市立博物館は、タンチョウの翼という象徴性と、春採湖の丘陵という地形の記憶を、外観と屋根の造形に変換した建築です。内部では二重らせん階段が展示の回遊を生み、鑑賞のプロセスそのものを“歩く体験”へ更新します。釧路の自然や歴史を学ぶ場所であると同時に、釧路という土地の輪郭を身体で確かめる場所でもあります。釧路を訪れるなら、展示を見るだけで終わらせず、外観のシルエット、屋根の段差、階段を中心に変化する視線と音まで含めて味わうことで、この博物館が持つ「風土を編集する力」がより鮮明に見えてきます。
釧路市立博物館
開館時間:9:30~17:00
休館日:月曜日
URL:http://www.city.kushiro.lg.jp/museum/
住所:〒085-0822 北海道釧路市春湖台1−7