巨大な“室内広場”が学びを編む。ブラジル・モダニズムの巨匠アルティガスの「FAU-USP」に見るブルータリズム。
ブラジル・サンパウロにあるサンパウロ大学の建築学部棟「FAU-USP」は、ジョアン・ヴィラノヴァ・アルティガスがカルロス・カスカルディとともに1961年に構想し、1960年代後半にかけて実現した、ブラジル・ブルータリズムの代表作です。空間を細かく分割せず、巨大な中心空間に学びの気配を集めることで、建築を“教育そのもの”として機能させています。
「開かれた学校」を空間で示す、態度としてのブルータリズム

FAU-USPを理解する鍵は、様式としてのブルータリズムではなく、建築を通じて「どんな学校像を社会に提示するか」という態度にあります。

この建築の計画では、分割を避けた開放的で統合された空間として構想されたこと、そして入口の扉を設けず小さな部屋をつくらないことで、必要な活動を受け止める“自由な場”を志向したことが主なコンセプトとして設計されました。

つまり、コンクリートは無機質さの演出ではなく、構造と素材をそのまま見せ、学びと実践の現場にふさわしい「建設の言語」を共有するための選択なのです。

アルティガスらが鉄筋コンクリートを造形と構法の両面から扱い、重さを引き受けながらも光や単純な形態によって“軽やかさ”を成立させようとした点は、パウリスタ派(サンパウロのモダニズム)に通底する倫理として読むことができます。
サロン・カラメロとランプ——断面がつくる「屋根のある広場」という学びの風景

体験の中心にあるのは、校舎の心臓部として知られる巨大な中央ホール「サロン・カラメロ(Salão Caramelo)」です。

複数のレベルがこの中心空間の周囲に配され、緩やかなランプ(スロープ)によって連続的に結ばれます。

ランプで層をつなぐことで“ひとつの平面”のような感覚が生まれ、連続した回遊動線が共存と相互作用を増幅させます。ランプが各階を「緩やかで大きな段差」で結び、空間を切断しない連続性をつくります。

サロン・カラメロは単なる吹抜けの“見せ場”ではなく、周囲の活動に開かれた「屋根のある広場」として、集会や展示など共同体の出来事を受け止める場として成立してきました。

上下階の視線と気配がヴォイドを介して交差することで、個別の制作や学習が常に“共同体の現在形”に接続され、建物全体がひとつの都市のように立ち上がります。
光・陰影・音環境がつくる「コンクリートの快適さ」

インテリアとして見たとき、FAU-USPの魅力は「硬い素材の気配」をどう快適さへ転換しているかにあります。

開放的なヴォイド、回遊するランプ、そして天井面の反復する格子状の構成が、自然光の入り方と陰影のリズムを支配し、時間帯によって空間の表情を変えていきます。

屋根モジュールの反復や構造計算の合理が、巨大なスパンの明快さを支え、結果として“影の深さ”がブルータリズムの迫力としてだけでなく、居場所の密度として立ち上がります。

加えて、硬質な素材ゆえに反響が生まれ、足音や話し声が広場に滲む音環境も見逃せません。

ここでは静寂ではなく、学びの“ざわめき”が肯定されているように感じられます。ランプを上がるにつれて視線と気配がどう切り替わるか、サロン・カラメロが「通過」ではなく「滞在」になっている瞬間はどこか、トップライトがつくる陰影が午後にどう変化するか、という3点が建築が学びの共同体をどうデザインしているか、立体的に変わると思います。
FAU-USPが示す「建築が社会をつくる」瞬間
FAU-USPは、打放しコンクリートの力強さを誇示するための建築ではありません。扉を設けないほどに開かれた姿勢、中心に据えられた巨大な“室内広場”、そしてランプによる連続動線が、議論と偶然の出会いを日常化し、学校という制度を空間として可視化します。構造の合理と光の演出が結びつき、硬質な素材がむしろ滞在を誘う「都市のような内部」をつくっている点に、ブラジル・ブルータリズムの核心があります。サンパウロを訪れるなら、FAU-USPは“建築を見る”場所であると同時に、“建築が社会をつくる”瞬間を体験する場所として、必ず歩いておきたい一棟です。
サンパウロ大学・建築学部棟(FAU-USP)
URL:http://www.fau.usp.br/
住所:Universidade de São Paulo – R. do Lago, 876 – Butantã, São Paulo – SP, 05508-080 ブラジル