
佐藤オオキが総合プロデュース、日建設計の実施設計で実現した大阪・関西万博の「日本館」で体現する“いのちのリレー”
大阪・関西万博の「日本館」は、総合プロデューサーのnendoの佐藤オオキと日建設計が手掛けた、いのちの循環を体現する建築です。CLTの木の板が円環状に連なり、中と外の「あいだ」をつなぐ独特な空間を創出。万博後のリユースも視野に入れた、サステナブルな建築のあり方を提示しています。
循環を体現する建築デザインとCLTが織りなす「いのちのリレー」
日本館の建築デザインは、佐藤オオキの総合プロデュースと日建設計の実施設計が一体となって生み出されました。その最大の特徴は、円を描くように無数に反復して立ち並ぶ木の板です。この板は、木材活用の新たな回路として注目されるCLT(直交集成板)を主に使用しており、「いのちのリレー」や「循環」というパビリオンのコンセプトを物理的に表現しています。
板と板の間には、意図的に視線が通る隙間が設けられており、そこからは内部が垣間見え、外部と内部、展示と建築が連続して繋がります。この「あいだ」の空間は、私たちに、すべてのいのちが互いにつながり合い、影響し合っていることを意識させます。
さらに、従来の万博パビリオンが展示内容と無関係なホワイトキューブになりがちだったのに対し、日本館は展示計画と建築設計を一体的に進めることで、屋内外の明暗や気積の大小など、多様な“展示環境”を創り出し、五感でストーリーを感じられるような設計になっています。
ゴミがエネルギーに変わる“生きたパビリオン”
日本館は、単なる建築物や展示空間ではありません。それは、自らが環境と相互作用し、循環のシステムの一部として機能する“生きたパビリオン”です。
その象徴的な取り組みが、「ごみを食べる日本館」というコンセプトです。万博会場内で出た生ごみは、パビリオン内に設置されたバイオガスプラントに運ばれ、微生物の働きによって分解されます。このプロセスを通じて生み出されたバイオガスは、パビリオンを動かすためのエネルギーとして利用されます。
来場者は、この壮大な循環の過程をインスタレーションで追体験することができます。また、館内は3つのゾーンで構成されており、どこから入っても、どの順路で巡っても、最終的には壮大な物語の一部であることを実感できるように設計されています。
このユニークな体験は、私たち自身の生活が地球全体の循環の一部であることに気づかせ、持続可能な社会のあり方について考える貴重な機会を提供します。
万博後のリユースも視野に入れたサステナブルな建築
日本館は、万博が終了した後もそのレガシーが生き続ける、サステナブルな建築です。円環状の構造を構成するCLTの木の板は、会期後に解体され、日本各地で新たな建築物としてリユースされることを前提に設計されています。
使用されるCLTの一部は、一般社団法人日本CLT協会から貸与されており、万博終了後には返却されて再び活用されます。これは、一度きりで終わってしまうイベント建築のあり方を見直し、資源を無駄にしない「循環型社会」への強いメッセージを世界に発信するものです。さらに、ユニフォームも同様に、環境に配慮した素材を使用し、会期終了後のリサイクルも視野に入れて制作されました。このような徹底したリユースとサステナブルな取り組みは、パビリオンのテーマである「いのちの循環」を、建築物と人々の生活の両方で具現化しており、未来の建築の可能性を示す重要なモデルケースとなるでしょう。
未来のものづくりを体現する「双鶴」共創プロジェクト
日本館では、持続可能な未来のものづくりを示す「双鶴(そうかく)」共創プロジェクトが展示されています。これは、慶應義塾大学や金沢大学を中心とした産学連携チームが開発した、2基のロボットアーム型3Dプリンタを核とする循環型ものづくりシステムです。ここでは、石油ではなく植物由来のバイオプラスチックを材料として、製造からリサイクルまでの一貫したプロセスを体験できます。
特筆すべきは、2羽の鶴のように協働するものづくりで、その有機的で生命的な動きは、日本の文化性と「いのちのリレー」というテーマを象徴しています。3Dプリンタによってつくられた椅子は、ただのプロダクトではなく、環境に配慮した技術と、未来に向けたメッセージを込めた作品なのです。
伊東豊雄が手掛ける「EXPO ホール」が創り出す祝祭空間
日本館に隣接する「EXPO ホール」は、世界的に著名な建築家、伊東豊雄が設計を手掛けました。黄金に輝く円形の大屋根と、荒々しい表情を持つ壁面が大地から力強く立ち上がるような姿は、1970年大阪万博の象徴であった「太陽の塔」を彷彿とさせ、過去と未来をつなぐ万博の新たなシンボルとなります。内部は、客席と舞台が一体となった円形劇場となっており、質感豊かな純白の布地で包まれています。この空間は、「いのち輝く未来」を象徴する、荘厳で祝祭的な雰囲気を創り出します。日本館が「いのちのリレー」を静かに表現する一方で、EXPO ホールは「いのちの輝き」をダイナミックに讃える場として、大阪・関西万博のテーマを多角的に体現しています。
いのちの循環を五感で体感できる「日本館」
日本館は、建築と展示が一体となり、いのちの循環を五感で体感できるユニークなパビリオンです。ごみがエネルギーになる“生きたパビリオン”のコンセプトや、万博後のリユースを前提としたCLTの使用は、持続可能な未来へのメッセージを力強く伝えます。日本の美意識が詰まった、心に響く体験をぜひお楽しみください。