「優れたランドマークは地域全体の価値を高める」建築家・迫慶一郎のデザインで大切にしているポイントと好きな空間について
東京と福岡、北京を拠点に世界各国で数多くの建築設計を手掛ける「SAKO建築設計工社」代表、建築家・迫慶一郎さん。個人住宅から商業施設、公共空間など活動の範囲も限定することなく幅広く活躍されています。今回は迫さんにデザインにおいて大切にされているポイントやお好きな空間について伺いました。
建築家・迫慶一郎
1970年 福岡県生まれ。1994年 東京工業大学卒業。1996年 東京工業大学大学院修了後、山本理顕設計工場を経て、2004年「SAKO建築設計工社」設立。2004~2005年 米国コロンビア大学客員研究員、文化庁派遣芸術家在外研修員。現在は北京と東京、福岡を拠点に、韓国やモンゴル、スペインなど世界各国で数多くのプロジェクトを手掛ける。主な受賞歴に2020年「Vanceva World of Color Awards – Interior Category Winner」、2024年「Asia Architecture Design Awards – Winner of 2024 Asia’s Best Commercial Building」など。著書に「主題四十 迫 慶一郎的建築」(清華大学出版社)、「希望はつくる あきらめない、魂の仕事」(WAVE出版)など。
建築を通してワクワクを感じてもらいたい
まずは日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。
「僕は“ワクワクするデザイン”を大切にしています。クライアントが期待している以上の建築を届けるのはもちろん、クライアントだけではなく、その建築を日常的に使用する人やたまたま通りがかった人、SNSやWebサイトで見た人まで、僕の建築のデザインを通してワクワクしてもらいたいと考えています。」
中国に建てられた市松模様の建築「北京バンプス」などは、本当に見ていてワクワクするような建築ですね。「はい、今では街のランドマークになっています。」
車窓の風景や博物館での展示を通して文化を学ぶ
建築家として、お好きな空間はどういったものなのでしょうか。
「仕事柄、いろいろな都市に行く機会があるのですが、車窓からの風景や高いところから都市全体を眺めるのが好きです。視覚だけではなくて、聴覚や嗅覚を総動員することで現地の風土や文化をより深く知ることができると思っています。文化によって建物は全然違いますし、それぞれのスタイルを見ていてとても刺激になります。
あとは、時間が許せば博物館にも行くようにしています。博物館は文化が凝縮されている場所なので、時間軸も辿りながら一気に理解を深めることができるので気に入っています。」
新興住宅地で続々と生み出される建築に興味を持った
迫さんが建築家を目指すようになったきっかけはどういったものでしょうか。
「小学3年生の時に新興住宅地に引っ越したのですが、僕の自宅の周辺で木造住宅がどんどん作られていってたんですね。何もないところに大工さん数人が数ヶ月で丸ごと一棟建物を作っていく様子を見て、大工さんってかっこいいなと思ったんです。その後、現場で建物を建てる人たちの仕事の前に、全体を構想し、デザインをして図面を描く、建築家という立場の人がいるということを知って、その職業に強く惹かれたのがきっかけです。」
では、その頃から建築家になるべくひたすら走っていたという感じですか。
「具体的にどこかの建物をたくさん見に行ったとかはありませんでしたが、色々な建物を興味深く見ていました。」
建築や都市の構成論が現在の仕事の根底にある
迫さんは、建築家・坂本一成さんの研究室で学ばれ、今年建築界のノーベル賞と呼ばれる「プリツカー賞」を受賞された建築家・山本理顕さんの事務所のご出身ですが、そこではどういったことを身につけられましたか。
「坂本一成先生の研究室では建築や都市の構成論を学びました。建築や都市がどのような要素に分解できて、それらがどのように組み合わされてできているのか、それを解明するのが構築論なんです。卒論で研究したのはアトリウムで、修士制作で行ったのは都市デザインでした。それらは独立後の仕事にもすごく活かされているなと感じています。」
山本理顕さんのところではどういった経験をされましたか。
「主に『広島市西消防署』、『東雲キャナルコートCODAN1街区』、『北京建外SOHO』の3つを担当しました。それら3つに共通するのは、地域社会との連続性です。建築が敷地の中だけで完結するのではなくて、社会と繋がり、どのような役割を果たすのか、建築単体のデザインだけでなく、社会的役割も大切だという考え方なんですね。この考えは僕の独立後の仕事にも受け継がれていると思います。」
その土地の文化を表現するような建築を生み出す
いろいろな都市の車窓からの風景や博物館に訪れることが好きだと語る迫さん。自身のスタイルにこだわることなく、日常の視点から得られたその土地ならではの文化を建築に落とし込む柔軟性が、世界各国からオファーが集まるポイントなのかもしれません。