建築家・内田奈緒が手がける南アルプスを望む文化拠点・清春芸術村の「こどものための建築」がオープン!

山梨県北杜市の清春芸術村に「こどものための建築」として新たな施設がオープンしました。この施設は、建築家・内田奈緒によって設計され、南アルプスを望む絶景の中で、子どもたちが自由に遊びながら感性を磨ける環境を提供しています。遊びと学びの融合がこの場所の魅力を形作っており、新しい文化の息吹を感じさせます。

内田奈緒が設計した遊びと創造の場「こどものための建築」

撮影/筒井義昭

山梨県北杜市に位置する清春芸術村に、新たなランドマークとして「こどものための建築」が誕生しました。このプロジェクトは、子どもたちが自由に遊びながら創造性を育むことを目的としており、その設計を手掛けたのは若手建築家の内田奈緒氏です。内田氏は、建築と自然が調和する環境の中で、子どもたちが物理的な制約を感じることなく遊べる空間を創出することを意図しています。

撮影/筒井義昭

この建築は、見た目にもユニークな「遊びの塔」と名付けられ、その構造は子どもたちが登りやすいよう工夫されており、どの角度から見ても異なる表情を見せる設計になっています。また、内部は多機能な遊び場として設計されており、教育的要素も取り入れながら、遊びを通じて子どもたちの身体的、精神的な成長を促進する場としての役割も果たしています。この「こどものための建築」は、ただ楽しむだけでなく、子どもたちが日常的に建築美を体感できるような、まさに次世代の文化拠点と言えるでしょう。

建築家のコメント

撮影/足立ゆり

遊びの塔 ― tower of play

昨年清春芸術村を訪れた際、広い芝生にポツンと建つ、小さな塔のような「エッフェル塔の階段」に登らせてもらいました。少し揺れる心許ない階段を空へ向かって登りながら、少しの高さの違いで移り変わっていく情景に心が弾みました。そして、例えば登るといった身体的な行為によって自分の周りに広がる空間を知覚し直すこと、これが幼いときの「遊び」の原点となる感覚なのでは、と考えました。

この清春芸術村に、もう一つ小さな塔を建てるとしたら、その塔がどんなだったら、子どもたちにもその感覚を体験してもらえるでしょうか。少しねじれたネットの床を空に向かって積層させるイメージから、「子供のための建築」のプロジェクトは始まりました。

ほとんどの建築は、水平と垂直の要素で構成されます。これは私たちが重力の中で安定して身体の平衡を保てるように自然に形式化した在り方ですが、この塔ではむしろ、じっとしているだけでも身体と建築との間のエネルギーのやりとりが意識されるような、そんな体験をして欲しいという想いがありました。

マルク=アントワーヌ・ロージエが唱えた「原始の小屋」のように、まずは基本的な建築言語である、四本の柱と梁と屋根でプリミティブな塔のフレームをつくり、その中に傾斜した柔らかい床を重ね、階や部屋といった要素を意識しながらも、上に向かって緩やかに連続するような塔の建築をつくりました。この建築の中で、身を委ねる床と、外の景色との関係性を絶えず変化させながら、これからの時代を生きる子どもたちが身体いっぱい遊び、感性を育んでいってくれることを願います。

建築家・内田奈緒 (nao architects office主宰)

建築家・内田奈緒 (nao architects office主宰)
撮影/足立ゆり

うちだ・なお 東京生まれ。 2010年より日本デザインセンター・原デザイン研究所にて空間、建築関係のプロジェクトに携わる。2016年、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。 在学中の2014-2015年にスイス連邦工科大学(ETH)留学。 修了後、デザインオフィス<nendo>に在籍し、国内外でインスタレーションや展覧会の会場構成、建築・家具のデザインを担当。現在は<nao architects office>を主宰し、建築や内装、家具等の設計に従事。また、バーゼルと東京を拠点とする建築設計事務所<an-a-c>共同主宰。日瑞建築文化協会(JSAA)理事。

WEB:https://naoarch.jp/

清春芸術村に芽生える新たな文化の息吹

撮影/筒井義昭

清春芸術村は、もともと地域文化の活性化を目指して設立され、多くの著名な建築家によって設計された美術館や施設が立ち並ぶ場所です。この度、内田奈緒氏が設計を手がけた「こどものための建築」が加わることで、さらに多様な文化的価値がこの地に根付くことになりました。

撮影/筒井義昭

子どもたちが主体的に参加し、遊びを通じて自らを表現する場を提供することにより、芸術村全体の活性化に寄与しています。また、このプロジェクトには地域住民や訪れる観光客を巻き込んだイベントも企画されており、地域コミュニティとの連携も図られています。これにより、芸術村は単なる観光地としてだけでなく、地域住民が日常的に利用する生活の一部としての役割も果たすようになり、新たな文化の息吹が吹き込まれています。

AI時代に向けて子どもたちの感性を育む「遊びの塔」

撮影/筒井義昭

現代社会が迎えるAI時代において、子どもたちの感性や創造力の育成はこれまで以上に重要とされています。清春芸術村に新設された「遊びの塔」は、その理念を具現化した場所であり、子どもたちが自然と触れ合いながら感性を磨くための環境を提供しています。この塔は、遊びと学びが融合した設計で、子どもたちが自由に探索し、新しいことに挑戦することを促します。建築家内田奈緒氏によるユニークなデザインは、子どもたちの好奇心を刺激し、物理的な活動を通じて創造的な思考が促されます。また、この施設の開放的な構造は、子どもたちが社会的スキルを育てる場としても機能し、異年齢の子どもたちが互いに交流し合う機会を提供します。内田氏の設計する「遊びの塔」は、単なる遊具ではなく、子どもたちの全人格的な成長を支援するための教育的な要素を含んでおり、これからの時代を生きる子どもたちにとって必要なスキルを育成するための重要な基盤となっています。

子どもたちが創造力を豊かに育てるための場「こどものための建築」

清春芸術村に新設された「こどものための建築」は、子どもたちが創造力を豊かに育てるための場として機能します。内田奈緒のユニークな設計による「遊びの塔」は、AI時代を生きる子どもたちに必要な感性と社会性を育むための理想的な環境を提供し、地域社会との強い結びつきも促進しています。

清春芸術村

清春小学校の跡地を活用し1980年に誕生した芸術文化施設。建築家・谷口吉生の設計による<清春白樺美術館>(1983年開館)や<ルオー礼拝堂>(1986年開堂)をはじめ、藤森照信の茶室<徹>(2006年完成)、安藤忠雄の<光の美術館>(2011年開館)、新素材研究所/杉本博司+榊田倫之のゲストハウス<和心>(2018年完成)など、敷地内には名建築が立ち並ぶ。

開館時間:午前10時~午後5時(入館は4時30分まで)
休館日:年末年始・月曜日(祝日の場合は翌平日休み)
入館料:一般 1500円 大高生 1000円 小中学生 入場無料
URL:https://www.kiyoharu-art.com/
住所:山梨県北杜市長坂町中丸2072