「全ての建築は使う人のためにある」建築家・納谷学の記憶に残る案件や設計へのモットー

前編:「住宅は生活のステージ」建築家・納谷学が大切にしているデザインや好きな空間について

個人住宅の設計を中心に、商業施設や店舗、集合住宅などこれまで200軒以上の作品を生み出している「納谷建築設計事務所」代表、建築家・納谷学さん。建築家としての活動の傍ら、関東学院大学や芝浦工業大学で講師としても活躍されています。今回は納谷さんに、これまで手掛けた作品の中で特に印象的だった事例や設計へのモットーを伺いました。

スキップフロアを居室に仕上げた狭小住宅

納谷さんが手掛けられた建築事例を拝見して、200軒近い事例の数に驚いたのですが、これまで手掛けた作品の中で特に印象に残っているエピソードがありましたらお願いします。

「特に記憶に残っているのが、敷地8.62坪、建坪5.1坪、地下1階地上3階建という間取りの住宅の依頼です。最初、敷地を見に現地に行ったのですが、敷地に気づかずに通り過ぎてしまうほどでした(笑)。あまりの小ささに衝撃を受けました。」

いわゆる狭小住宅はよくメディアでも取り上げられますが、どうやって解決したのでしょうか。

「スキップフロアと言って、階段の踊り場部分を活用することで納得のいく空間に辿り着きました。階段のスペースも無駄にできないので、踊り場が居室になったような構成にしています。」

地元産の建材にこだわった、街に開いたオープンな空間

納谷さんの設計された事例は福岡にもあり、明太子発祥の店「ふくや」の福岡・中洲本店の設計を手掛けられています。こちらは設計の際にどういったことを重視されましたか。

「ふくやの川原会長が生粋の博多っこで、地元が大好きな方なんです。ですので、床は福岡の石を混ぜたテラゾー仕上げ、壁や天井の杉は福岡産と、地元産の建材をふんだんに取り入れ、福岡を愛するオーナーの想いを形にしました。」

白を基調とした外観で、清潔感のある建物に仕上がっていますね。

「当初のお店は閉鎖的な印象だったので、もっと街に開き、店の中の様子が外からも伝わるような外観にすることで、お客さまも安心して入れるお店にしました。」

すべての建築は使う人のためにある

納谷さんは一般住宅から集合住宅、公共建築から商業建築まで様々な分野の建築を手掛けていらっしゃいますが、そこに共通しているモットーはなんでしょうか。

「住宅は生活の舞台だということと同じように、集合住宅だろうが商業建築だろうが関係なく、使う人のための建築だということを常に意識しています。」

中でも、特にお好きな分野というのはありますか。

「住宅が建築の基本ではないかと考えています。ですので住宅系は生涯ずっと手掛けていきたいと考えています。」

家づくりはもっとわがままに言っていい

リスナーの中には家づくりについて考えている方もいらっしゃるかと思いますが、建築家の立場からアドバイスをするとしたらどういったところでしょうか。

「家づくりに際して、なにかと諦める人が多いんです。『設計事務所に依頼すると高いだろう』とか、『こんなことはできないだろう』とか、なかなかリクエストも出てこなかったり、引っ込み思案な人が多い印象です。でも、マイホームは人生で一番大きな買い物なので、もっと好きなことを言っていいいと思っています。こちら側がそれらの希望を整理して提案するわけなので。そこに気兼ねは何もいらないと思います。なんでも自由に言って、楽しんだもの勝ちです。」

人生は色々あるから素晴らしい

住宅を中心に、使う人に寄り添った建築設計を手掛ける納谷さん。そんな納谷さんにとってライフイズ〇〇の〇〇に入るものは何でしょうか?

「“素晴らしい”です。もちろん、良いことだけではなくて、涙もあれば笑いもある、出会いもあれば別れもあって、そうした全ての経験が人生の良いところであると考えています。」

使う人の視点で生み出す、心地の良い空間

住宅に限らずすべての建築は使う人のためにあると語る納谷さん。オーナーはもちろん、その空間を使う人のことを第一に考えることで、長く愛される建築が生み出されるようです。