「余白を大切にすること」アートディレクター、編集者として活動中のニッポン工房代表取・水谷幸男さん

日本とポルトガルの二拠点で活動をし、アートディレクター、編集者など様々な活躍をしている株式会社ニッポン工房・代表の水谷幸男さん。

今回はそんな水谷さんにご自身のことや、活動内容など様々な角度からお話を伺いました。

余白を大切に

はじめに、水谷さんが暮らしの中で大切にしているデザインについて伺いました。

「いろいろなプロダクトだったり、インテリアなど全てに言えることなのですが、余白を大切にしています。スケジュールも含めて、何もしない時間、何もしない日を作ると、新しいものがそこに入ってきたりするのかなと考えています。」

長野県諏訪市「万治の石仏」が好き

続いて、水谷さんのお好きな場所や空間はどこでしょうか?

「長野県諏訪市にある、万治の石仏です。田んぼの中に絶妙なバランスの巨大な自然石を使ったおじぞうさんが急に現れるのですが、それが本当に愛らしくて。芸術家の岡本太郎さんが、生前訪れたことで人気となった一面もあって、そういう話も面白いなと思っていますね(笑)」

アートディレクター、編集者となるきっかけ

アートディレクター、編集者として幅広い分野で活躍されている水谷さんですが、この世界に入るきっかけはなんだったのでしょうか?

「大学卒業前に、自分はどんな仕事をやっていきたいかと考えたときに、漠然といろいろな場所に行きたいなと思っていました。当時はどんな職業がいいのか分からなかったんですけども、そんな悩みを抱えていたときに、伊豆の山奥の温泉に行ったんですね。そしたらそこにおじいちゃんがいて、湯船で1時間ぐらい話をしたんです。半分ぐらい話が分かんなかったんですけど(笑)」

「そして話を終えて脱衣所の方に行ったら、知らないおじさんから『君は偉いよ!あんなに人の話を聞けるなんて才能だ』と言われたんです(笑)そこで、人の話を聞くこと、取材することは仕事になるのかもと思って、メディアだったり制作の仕事を探して、今にいたるきっかけとなりました。」

印象深い場所は「アルタミラ洞窟」

水谷さんは、「乾祐綺」名義でフォトジャーナリストとして、日本のみならず世界中で取材をされていますが、取材をして特に印象深い場所は、どこかありますか?

「もちろんいろいろあるんですけど、スペインの北部にあるアルタミラ洞窟ですね。壁と天井に牛、馬、鹿などが洞窟内に描かれているのですが、絵を描くということ自体が人間の純粋な本能の一つや欲求なのかなとか、ふと感じました。人間ってかっこよさなどを追求する“デザイン思考”のようなものって、太古の人から持ってたのでは、と今質問いただいて改めて思いました。」

サーキュラーエコノミーに関心を持つきっかけ

循環型社会やサーキュラーエコノミー関連の取材が多いようですが、この分野に関心を持つようになったそもそものきっかけについて教えてください。

「雑誌の取材でオランダのアムステルダムに行ったことが大きいですね。2015年ぐらいにちょうどオランダでサーキュラーエコノミーなどのプロジェクトが盛んに行われるようになって、取材で2週間ほど滞在していました。色々なものを見せていただいたのですがその中で特に記憶に残っているのが、Schoonschip(スホーンスヒップ)です。」

「Schoonschipを直訳すると、オランダ語で綺麗な船という意味があるのですが、運河に浮かぶ住宅や建物で構成される水上の住宅コミュニティのことを指しています。見た目は、日本の住宅のようなものが運河に浮いているので、パッと見遠くから見ると住宅展示場があるのでは?と思います。そこにはもちろん暮らしている人もいて、雨水やシャワーを濾過して使用したり、屋上緑化したり。エネルギーも太陽光で発電して、余ったらブロックチェーンの技術を使って販売したりだとか…。本当に面白くて関心を持つきっかけとなりました。」

宗像・沖ノ島と関連遺産群におけるクリエイティブ

水谷さんは、「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群におけるクリエイティブも手掛けていらっしゃいます。その際、どのようなことを重視されましたか?

「人も渡れず、神職さんしかいけない場所の宗像・沖ノ島は、2017年に世界文化遺産に登録されました。パンフレットやポスター、世界遺産の推薦状のデザインなど僕がディレクターで、専門のデザイナーさんにお願いをして作業を行いましたね。」

「クリエイティブを手がける際に重視したことは、『宗像大社』の『辺津宮 高宮祭場』に行き感じたことがあるのですが、そこは斜面もなく木だけがある古代の祭祀空間なんです。そこに行くと自然や、自然に近しいものがある意味完成されたデザインであり、そこ自体が完成された空間デザインだなと感じられたんですね。なので実際クリエイティブをするっと言っても、そう言った部分をいかに留めるか。あんまり手を入れず、自然の美しさをいかに残すか。というところを重視しました。」

活動場所をポルトガルに選んだ理由について

現在、日本とポルトガルの二拠点で活動をしていますが、なぜポルトガルなのでしょうか?

「ポルトガルが好きな場所というのと、パートナーが元々ポルトガルでゲストハウスをしていたというのがきっかけです。コロナ前は実際に彼女がメインで僕がお手伝いとして運営していました。コロナで一度戻ってきたんですが、コロナが終わり『やっぱり向こうで暮らしたいよね』となり、去年の5月に再びポルトガルに渡りました。」

今後新たに取材したいこと

水谷さんが今後取材したい場所や、興味がある分野について教えてください。

「ポルトガルに、ポルトガル出身のヴィルズというアーティストがいます。ヨーロッパだとバンクシーと比べられるような有名なアーティストで、彼のプロジェクトを去年の秋に取材させていただきました。まだまだビルズの面白さは奥深いものがあると思っているので、近々ではビルズについてもっと取材を深めたいと思っています。」

Life is チェンジ

インタビューの最後、水谷さんに「Life is ◯◯」空欄に当てはまる言葉を尋ねると、「Life is チェンジ」と答えてくれました。

「いろいろな場所に行き、いろいろなものを食べ、いろいろなデザインを見て、いろいろな人に会って、自分がどう変われるか、どう変わるかというところかなという思いで“チェンジ”にしました。」

「余白を大切にすること」アートディレクター、編集者として活動中の株式会社ニッポン工房代表取・水谷幸男さん

アートディレクター、編集者だけでなく、フォトジャーナリストとして世界中で活動している水谷さん。私たちはそんな世界で活躍している水谷さんが手がけるデザインや写真などを通じて、きっと様々なことを感じられるでしょう。今後もどのような作品を手がけていくのか、水谷さんのご活躍に目が離せません!