「花と暮らしを結びつけること」アナウンサーから転身したフラワーアーティスト前田有紀の現在
10年間アナウンサーとしてテレビ局に勤務後、イギリスへの留学・インターンを経て、現在はフラワーアーティストとして、フラワーブランド「gui」実店舗「NUR」を手掛け、株式会社スードリーの代表取締役も務める前田有紀さん。
プライベートでは2児の母でもあり、様々な肩書きを持つ前田さんに、暮らしのこと、自身の歩みを振り返りながら新たな道へと進んだきっかけ、今後のことなどについて、じっくりとお話を伺った。
花と暮らしを結びつける
現在フラワーアーティストとして活躍している前田さんが、暮らしの中で大切にしているデザインは、「花と暮らしを結びつけること」
自宅が木の木材と白い珪藻土の壁をメインとし、シンプルな作りでありながらも、その中で季節ごとに花を飾ることを何よりも楽しみとし、日々の暮らしで欠かせないこととなっているそう。
「家の中の構造や家具を変えたりすることは大掛かりだが、花と緑だけは、数分でインテリアを変身する魔法なんですよ、花を変えるだけで気分も空間も変わるのでおすすめです。」と、コロナ渦により家で過ごすことが増えた現在。おうち時間を少しでも心地良くするための一つの方法として、お花のある暮らしについて話してくれた。
季節を感じられる鎌倉
そんな前田さんに好きな空間やデザインを伺った。現在住んでいる鎌倉市には、あちこちにお寺や神社があり、境内では季節の花を目にすることができる。そのような空間に惹かれるようで、どこにいても花が目に飛び込んでしまうそうだ。
「鎌倉で出会う花は季節の花が多く、鎌倉で過ごすことで、より季節を感じられるんです。」と、日々季節や自然と共に暮らすことを大切に過ごしている前田さん。
アナウンサーを経て新たな道へと
そして現在はフラワーアーティストとして活動中だが、前職はアナウンサーであった。約10年勤めたテレビ局を退社後、ロンドンへ留学、古城でガーデナーとして働いたのち、帰国後、都内の花屋で約2年半の修行を経て、フラワーアーティストとして新たな道へ進んだ。
「アナウンサーと花屋、全く違うジャンルであったため、不安もたくさんあったけど、昔から花が本当に好き。それを仕事にしている自分を見てみたいという好奇心が強くあった。不安な気持ちが好奇心を上回ったら転職しようと思っていた。」と当時を振り返った。イギリスは庭園文化も盛んで、花屋もたくさん。勉強には最適な環境だと感じ、ロンドンを留学先として選び、日本を旅立った。
花屋の仕事をする覚悟を決めた時
ガーデニングといえば優雅な仕事のイメージだが、実際は、大変なことも多く、植物やホースを運ぶ力仕事、雑草を抜いたりと全くイメージとは違ったそう。しかし、その時間がただただ楽しく、顔に土がつくほど地面に這いつくばったりと、自然と共に仕事が出来ることに喜びを感じたという。そこから真剣にこの仕事で生きていくぞという覚悟が決まった。と花屋になるキッカケを話した。
アナウンサー時代は華麗な印象で人々を魅了していたが、意外と体育会系であり、自分自身も身体を動かすことが好きなんだと新たな発見があったという。それらも含めて好きなことであり、現在も楽しんで仕事をしているようだ。
花とあなたが出会う場所「gui」
2018年「花とあなたが出会う場所」をコンセプトとしたフラワーブランド guiを立ち上げた。ポップアップストアやワークショップを中心に移動花屋として今年で3周年を迎えた。
「gui」はフランス語で「ヤドリギ」という植物を指す言葉で、新しい木々に宿っては、芽を出し実をつけていくヤドリギのように、様々な場所でお花を楽しむ文化が増えたらいいなと思ってつけた名前だと教えてくれた。
「アナウンサー時代は、カメラの前の仕事であり、画面の向こう側の人たちの温度感が分からなかったが、移動花屋guiの仕事は、目の前のお客様にお花を手渡しすることが多いので、温度感がとても伝わる。やっぱり笑顔になっていただくとやりがいを感じますね」と、温かい様子で話した。
神宮前に実店舗「NUR Flower」をオープン
そして2021年4月末に、神宮前4丁目に「NUR Flower」として実店舗をオープンした。「NUR」はドイツ語で「オンリー」という意味があり、お客様にオンリーワンの体験ができる場所となったらいいなと思って名付けたそうだ。
「珍しい花や色合いの花をセレクトし、それらをこだわって並べている。都会の真ん中の小さな一角だが、お花を通してホッとできる場所を作れたらいいな、お客様に特別な体験をしてもらえたら…。」とNURのこだわりを教えてくれた。
花の廃棄を減らすこと「株式会社スードリー」
また、前田さんは株式会社スードリーの代表取締役も務めている。スードリーの企業理念の一つは、花の廃棄を減らすこと。
会社の立ち上げのきっかけは、花屋として順調に仕事を受けていく中、仕事が広がれば広がるほど余ってしまうお花がどうしても出てくることに目が止まったという。撮影で数時間だけ仕事に使い役目を終えた花や、売れ残ってしまった花たちを、捨てないようにと様々な活動をしているそうだ。
地域のコミュニティにお届けしたり、鎌倉市や東京の児童養護施設へ寄付。またドライフラワーにしてアクセサリーの一部に入れて作ったりと、なるべく廃棄せずに活用することで、現在、捨てる花はほとんどなくなったそう。
「花は鮮度が大切なので、どうしても鮮度の関係で売ることができない花はあるが、まだまだ家で飾れるものではあるので、そういったものに目を向けてきちんと向き合っていきたい。」と今後の取り組みについての意気込みを語った。
簡単なフラワーデザインのコツ
そんなフラワー業界で大活躍中の前田さんに、簡単なフラワーデザインのコツを教えてもらった。
一番は「お気に入りの花瓶を見つけること」一生物で、本当に可愛いと思う花瓶に出会うと、一輪であったとしてもお花を飾ることがすごく楽しみになるという。また花瓶の高さとちょうど2倍ぐらいの高さにカットしてあげるとバランスよく飾ることができることをアドバイスしてくれた。
一人の人が多くの肩書きを持つ時代
新型コロナウイルスにより、時代が大きく変化した昨今。変わりゆく今後の時代についてのお話しも伺った。
最近はグリーンのブランドも立ち上げて、観葉植物を提案するグリーンアドバイザーとしても活動を始めたという前田さん。
「会社の経営者であり、フラワーアーティストでもあり、プライベートでは2児の母でもありと、様々な面が自分にある。私のように一人の人が多くの肩書きも持っていく時代、誰もが好きなことにチャレンジして、一人一人が力を発揮できる未来が増えていければ良いなと思う。」とコロナ渦の中、働き方や暮らし方が変化する世の中への想いを語ったのだ。
「LIFE IS 冒険」
インタビューの最後。前田さんへ「LIFE IS ◯◯」空欄に入る言葉を尋ねてみた。
「LIFE IS 冒険」「冒険というとファンタジーの世界のように感じるが、私が思う冒険とは、今自分が生きている世界で、人生の舵を切って好奇心を持って楽しんでいくことだと思っている。自分が生きている世界で冒険を楽しむこと=LIFE IS 冒険」とハキハキした様子で答えてくれた。
「一生冒険していきたいと思っている。」とまだまだ新たなことに挑戦していく前田さんに、「今後チャレンジしてみたいことはあるのか」と尋ねると、「40代になって、子供たちに花の裾野を広げる活動は増やしていきたい。現在、様々な地域の人と話しながら子供たちのワークショップをできる場所を作ったり、教室を増やしたい。そのような活動を始めていきたい。」と熱意を持って話した。前田さんの冒険は、まだまだ始まったばかりである。