「お金がなくて財布が買えなかったんです」段ボールアーティスト・島津冬樹の大切なデザインや段ボールとの出会い

Amazonやzozotownなど、新型コロナウィルスの影響でより身近になったネットショッピング。そこに欠かせないのがダンボールですよね。今回はその段ボールを材料に、様々なアイテムを制作する段ボールアーティストの島津冬樹さんに、大切にしているデザインや、段ボールとの出会いについて伺いました。

段ボールアーティスト・島津冬樹

1987年生まれ。多摩美術大学卒業後、広告代理店を経てアーティストへ。2009年の大学在学中、家にあった段ボールで間に合わせの財布を作ったのがきっかけで段ボール財布を作り始める。 2018年自身を追ったドキュメンタリー映画『旅するダンボール』が公開。著書「段ボールはたからもの 偶然のアップサイクル」(柏書房)「段ボール財布の作り方」(ブティック社)のほか、自身が講師を務めるワークショップも各地で人気を集めています。

暮らしの中で大切にしているデザイン

まずは日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。

「普段の制作活動はメモやスケッチから始めることが多いので、ペンのデザインは意識しています。最近だとiPad等の電子機器で作業される方も多いと思うのですが、僕は紙とペンを使って手書きでアイディアをまとめていくのが好きなんです。特にコレクションしているわけではないのですが、持ち歩くペンとアトリエに置いておくペンとで使い分けています。」

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たくさんのペンを見てきた中でいちばんお気に入りのペンはどういったものなのでしょうか。「会社を辞めるときに記念に購入したペンで、ロットリングというドイツのペンのメーカーの600シリーズの万年筆が気に入っています。既に廃盤になっていたのでオークションで3、4万程で購入したのですが、無骨で六角形、インダストリアルな雰囲気がお気に入りです。これを持つと“考えよう”という気にさせられます。」

好きな場所、空間

次に、お好きな場所について伺いました。

「旅によく出るので、空港ですね。どこの国もそうですが、ひらけた構造で、ワクワクを掻き立てられる感覚があります。空港から出るとその国に入るドキドキ感みたいなものがあって、境目を作っている空港という空間が好きなんです。特に印象に残っているのが、ミュンヘンの空港です。世界で唯一空港の中にビールの醸造所があるんです。飛行機待ちながらのビールが良かったですね(笑)。」

確かに、飛行機待ちの間に出来立てのビールを楽しめるなんて、贅沢な旅行気分ですね。

段ボールに注目したきっかけとは

島津さんは多摩美術大学在学中にダンボールでの財布作りを開始されましたが、段ボールという素材に注目したきっかけは何でしょうか。

「大学2年生の時にお金がなくて財布が買えなかったんです。家にあった段ボールで間に合わせで作ってみたのがきっかけでした。大学の芸術祭ではフリーマーケットがあって、自分の作品を販売することができるので、そこに向けて段ボール財布を作ってみようと思って段ボールを集め始めました。その中でダンボールの種類やデザインに感化されたのと、当初は1ヶ月くらいもてば良い方かと思っていた段ボール財布が、結果1年以上使えたことにも驚いて、段ボールのポテンシャルに気づきました。

初めての海外旅行ではニューヨークを訪れたのですが、ニューヨークで落ちている段ボールがおしゃれで可愛くて、海外の段ボールに興味を持ちました。2010年頃から世界中の段ボールを拾い集めてみようという目標を立てて、かれこれ今に至ります。」

まさか学生時代の金欠が段ボールとの出会いになるとは。当時の島津さんもここまで続く相棒になるとは思いもよらなかったでしょうね。

気に入っている段ボールとは

2018年公開のドキュメンタリー映画、「旅する段ボール」では数々の国で段ボールを集める様子が記録されていますが、特にこの国の段ボールがお気に入りというのはありますか。

「2016年にフィリピンに訪れたときに見つけた段ボールの一つが、エジプト産の段ボールでした。一見するとただのオレンジの段ボールだったんですが、エジプト産の果物があるということに驚いたのと、同時にその段ボールが欲しくなったんです。ただそこではその段ボールをもらうことができなくて、翌年にエジプトに行ってその段ボールを見つけようと思ったのですが、そこでも手に入らなくて、2018年にマレーシアを訪れたときに偶然その段ボールを見つけて、お店の人に確認してやっと手に入れることができました。段ボールを集めることの難しさを体感したきっかけになった段ボールでした(笑)。また、段ボールは旅をしているので、あらゆる国で見つかる可能性があるという面白さも感じました。」

先入観に囚われず、新たな可能性を見つける

お金がなかったことが段ボールとの出会いのきっかけと話す島津さん。ひょんなことから着目した段ボールでしたが、ただの梱包材としてではなく、好奇心を持って接することで、気づけることや楽しめることが増えそうですね。

後編:「不要なものから大切なものへ」段ボールアーティスト・島津冬樹が見た流通の世界や活動のコンセプトについて