建築家・藤本壮介が故郷、北海道の東神楽町で手がけた「大雪葬斎場」は大雪の稜線にひらく葬送建築

北海道・東神楽町に誕生した「大雪葬斎場」は、葬送の時間を「閉じる」だけでなく、風景と光へそっと「ひらく」ことで支える火葬施設です。設計を手がけたのは藤本壮介。2024年10月に竣工し、同年12月に供用開始となりました。運営は、東神楽町・美瑛町・東川町の3町で構成する大雪葬斎組合が担います。

東神楽町にできた、新しい葬送の風景・大雪葬斎場

大雪葬斎場は、火葬場を核にした“地域の葬送インフラ”として整備された施設です。所在地は東神楽町基線12号77番地で、東神楽町・美瑛町・東川町の広域運営(大雪葬斎組合)という枠組みで利用を支えています。

施設の特徴は、葬送の場に求められるプライバシーと静けさを守りながらも、周囲の雄大な自然条件を“慰めの風景”として取り込む点にあります。

雄大な大雪山系を望む立地を背景に、「閉じながら開く丘」と、コンセプトの異なる「4つの庭」を軸に、遺族の滞在時間そのものを整える環境をつくっています。建築が“儀礼の背景”にとどまらず、最後の時間を支える装置として働いていることが読みどころです。

芝生の丘と水平線、「閉じながら、ひらく」建築のつくり方

建築コンセプトの核が、「閉じながら開く丘」という考え方に集約されます。葬送の場は、外部からの視線や動線に対して“閉じる”必要があります。一方で、閉じ切った箱は、滞在者の感情を硬くしがちです。

大雪葬斎場はその矛盾に対し、建物を丘(芝生のマス)として周辺風景に溶け込ませながら、内部には光と眺望を選択的に導く方向で解をつくっています。

各室からの眺望によって、この地域ならではの自然を感じながら思い思いの時間を過ごせるよう、外部の“広がり”を丁寧に扱っている点が特徴です。

設計体制としては藤本壮介建築設計事務所とアイエイ研究所が関わっていることも紹介されています。公的施設であるがゆえに、建築の“新しさ”が目的化しないよう、風景・光・庭という普遍的な要素で体験の質を担保している点は、藤本壮介の建築の文脈とも接続します。

待合の“明るさ”と庭の気配が、最後の時間を支える

大雪葬斎場の内部体験は、「暗く厳粛」だけでは終わりません。むしろ、待合や移動の時間にこそ、光の質と視線の抜けが丁寧に仕込まれています。4つの庭は、単なる植栽計画ではなく、室内からの見え方を変え、滞在者に“呼吸の余白”を与える装置です。部屋ごとに異なる庭を持つことで、同じ時間を過ごしていても感情の置き場が変わり、場の緊張を必要以上に固定しません。

照明や庭の植栽まで含めて、広々と明るい空間をつくるという方針も紹介されています。葬送建築における“明るさ”は、単に照度を上げることではなく、光がどこから来て、どの面で受け止められ、どんな速度で変化するか——その時間設計に近いものです。屋外の丘(芝生)と庭の存在は、室内の光環境を季節や天候と同期させ、人工照明では得がたい「揺らぎ」を持ち込みます。

葬送の場において、建築ができることは限られているようでいて、実は大きいです。歩く距離、立ち止まれる場所、窓の高さ、視線が向かう先——それらが遺族の身体感覚を整え、言葉にならない時間を支えます。大雪葬斎場は、景色に寄りかかり過ぎず、しかし景色を拒まない。公共施設としての機能性と、ひとの感情に寄り添う環境設計が、同じ線上でまとめられています。

「閉じながら、ひらく」。大雪の風景と共にある葬送建築

東神楽町の大雪葬斎場は、3町で運営する公営火葬施設としての合理性を持ちながら、葬送の時間を“空間の質”で支える建築です。2024年12月の供用開始という新しさだけでなく、「閉じながら開く丘」「4つの庭」「各室からの眺望」といった環境設計により、滞在者がそれぞれの速度で時間を過ごせる場を用意しています。設計者が藤本壮介であることは、造形の話題性以上に、「自然と建築の境界をどう扱うか」という問いの実装として、強い説得力を与えています。

訪れること自体が非日常である場所だからこそ、建築は“記憶の器”になります。大雪葬斎場は、北海道の大きな空と稜線を、最後の時間にふさわしい距離感で差し出し、静けさの中に小さな解放をつくる——いまの時代の葬送建築の到達点の一つとして、建築好きにも注目してほしい施設です。

大雪葬斎場

住所:〒071-1560 北海道上川郡東神楽町基線12号 77番地