0.3mmの細いペンで点と線から命を描く、ペン画アーティストの日高あゆみさん
0.3mmの細いペンで点と線から生命を描き出す、ペン画アーティストの日高あゆみさん。緻密でありながら柔らかいそのタッチは、動物たちの息づかいまでも感じさせ、多くのファンを惹きつけています。
作品づくりだけでなく、年間を通して個展を開催し、精力的に作品を発表し続ける日高さん。SNSでも制作の様子や新作を積極的に発信し、見る人の心に火を灯すような創作活動を広げています。
今回は、日高さんに暮らしの中で大切にしているデザインや、好きな空間についてお話を伺いました。
ペン画アーティスト・日高あゆみさん

1986年生まれ。山口県出身/福岡県在住。0.3mmのペンで緻密な動物たちを描く。動物の中に描き込む模様は下描きをせず、気になるところから思いのまま描き進める。繊細な絵柄とともに、動物たちの優しく力強い瞳も印象的。各地での個展や出展のほか、依頼による壁画制作も行っている。2023年 Fukuoka WallArt 入賞。2023年JR博多シティ アミュプラザ博多 館内ビジュアル起用。2024年,2025年 福岡PARCO『BOOK MEETS FUKUOKA』ビジュアル起用。
暮らしの中で大切にされているデザイン

「デザインについてお話しするのが恐縮ではあるのですが、机です。絵を描く際に使っている机や暮らしの中で選んでいる家具などは、遊び心があるようなものが好きで集めています。」
お仕事で使われる机は、どのような机ですか?
「ベルギーの古いアンティークの机です。一見シンプルなのですが、天板を手で持った際に斜めに角度がつけられ、イーゼルのようになります。机の仕組みが、とても面白く『この机が昔から作られていたんだ』というドキドキがあり、その子を迎えました。」
お好きな場所、空間
「川や滝がとても好きです。」
川や滝が好きな理由を教えてください。
「田舎に生まれたこともありますが、生まれ育った家の目の前に川・後ろには田んぼ、お庭には祖父が作った池があり、常に水の音が聞こえている環境の中で育っていたからです。また、水の音を聞いたり川に行ったりすると、とても落ち着きます。
透明なものがずっと流れているのは、自分も清らかな気持ちになり、とても好きです。」
お祖父様は、機械の設計士とお聞きしましたが、機械以外にもさまざまな設計をされていたのですね。
「そうです。まさか池を設計するとは・・・素人でスコップで地を掘っていましたが、 結構深く『これおじいちゃんが自分で作ったんだ』ってびっくりしました。」
イラストを描き始めた経緯
動物のペン画が至るところで好評な日高さん。叔母さまが漫画家志望であったというプロフィールを読ませていただいたのですが、叔母さまの影響を受けてイラストを描き始めたのでしょうか?
「そうですね。叔母がとても上手だったので、自分も絵が好きで幼い頃描いていました。ただ、大人になるうちに縁遠くなり、忘れていってしまいました。
絵からは、一旦離れて一般企業で勤めていました。しかし、社会人3年目に体調を崩し、うつ病を発症し仕事を全部辞めることになりました。その後、再就職もうまくできず、何もなくなった際に、どうしようかなと考えました。
その際に、自分の好きだったものについて考え、 絵を思い出しました。そこから絵だけは、体調を崩した後も描けるため、絵だけは描き続けました。」
ペン画を選んだきっかけについて

同じイラストでも、さまざまなタッチがあると思うのですが、なぜペン画を選ばれたのでしょうか?
「たまたまなのですが、絵を再開してから友人が年賀状のデザインを頼んでくれたのがきっかけです。年賀状の修正の依頼で『光の帯の部分を細かい点で描き直してもらってもいいですか』と言われ、 その修正を点々とやってたのですが、点々するのがとても楽しく思い、自分でもやめられなくなってしまいました。
その仕事が終わってからもコピー用紙に点々して、『何なんだろうなこの衝動は?』と思いながら続けて、今に至っています。」
点々しながら作品が出来上がっていくのは、すごいことですよね。
「はい。たまたま鳥の絵を下書きしているものがあり、この点々を埋めてみたらどうなるのかなと思い、描いてみたらすごく心地よく収まったのです。また、模様を描くことをやめたくなくなり、動物だったら種類が多くあるため『やったー』と思い、今もずっとやっています。」
動物を点々と描きたい衝動はどこからきている?

さまざまな絵のモチーフがある中で、動物をモチーフにしているのは、種類が多くいるため点々を無限にかけるからという理由。また、描きたい動物が次から次へと出てくる、というコメントを見ましたが、描きたくなる衝動は、どこからきているのかを伺いました。
「面白い質問ですね。正直、この衝動がどこからきているのかは、わかりません。本当に描きたくて描いています。ただ、このペン画を描き始めた際に、起こした熱中症がしんどかったため『死ぬかも』と思ったのです。
人間が死ぬことは、知識では知っていましたが、肌感覚で『こうやって死ぬ時が来るんだな』っていうのがそこで腑に落ち、その瞬間、涙がブワーって出てきました。
『まだ全然絵が描けてない、まだ描きたいのに描けきれていない、死にたくない』という心境から、悔し涙が止まりませんでした。この経験を機に、死ぬまでに描ききらないと、後悔することが分かりました。そこからは、あまり疑わずずっと描いてます。」
一番多く描かれている動物は?

「カバだと思います。」
なぜカバが多いのでしょうか?
「これも分かりません。ですが、カバは最強の生き物だなと思っていますし、ぽってりした体型もすごく好きです。また、見た目はゆっくりなのに走ると速く、生命力が強い・・・。『生き物としてかっこいいな』と思います。 」
下書きなしで描く際に間違えることはある?
下書きをせずに、描くことで間違えることはないのでしょうか?
「間違えたと思うことはありますが、終わってみると結果そこの間違いが活きてくるというか、 人生にも似てるなって思うのですが、失敗はありません。」
動物を描く際に最も大切にしているポイントやこだわり

「できるだけ自分を静かにさせる、整えることに気をつけています。」
どのようにして整えているのでしょうか?
「疲れすぎてたら、少し休むことです。また、床を拭くのが好きで、床拭いてるととても心が晴れやかになっていくので、拭き掃除をします。」
日高さんが影響を受けたヒト・モノ・コトは?
「祖父と叔母も大きいのですが、 今パッと浮かんだのが、本です。
小さい頃、本を読むのが好きで、偉人たちの伝記の本を読んでいた時期があったのですが、印象に残っているのが『ウォルト・ディズニーの伝記』がとても好きで繰り返し読んでいました。この本から影響を受けているかもしれないです。」
日高さんがこれから挑戦したいことについて
「ラッピングバスや本の装丁のお仕事はやってみたいことのひとつです。」
なぜラッピングバスなのですか?
「街の中を走ってたら素敵だなって思ったのが一つですが、さまざまなお仕事を少しずつ経験させていただく中で、絵がバーンと大きくなることは、自分の中でとても心が震えるぐらい嬉しかったです。
バスじゃなくてもいいのですが、乗り物や飛行機、宇宙船などなんでもいいのですが、 ビルや商業施設など絵が大きくなるのがすごく嬉しかったため、このようなお仕事はまだやってみたいです。」
開催中・これから開催予定の個展やイベントについて

「ちょうど終わってしまいましたが、年間2回は個展をしています。自分のインスタグラムが一番発信しているところなので、もしご興味ある方いらっしゃったら見ていただけたら嬉しいです。」
LIFE IS 情熱
インタビューの最後、日高さんに「Life is ◯◯」空欄に当てはまる言葉を尋ねると、「Life is 情熱」と答えてくれました。
「やっぱり命が終わってしまうといつもどこかで思っており、どうせ終わりが来るなら全部燃やしきって死にたいなっていうのを思っているので、情熱です。」
0.3mmの細いペンで点と線で命を描く、ペン画アーティストの日高あゆみさん
0.3mmの細いペンで、点と線から生命そのものを立ち上がらせる。日高あゆみさんの作品には、動物たちの温度や息づかいまで感じられるほどの繊細さと力強さがあります。
幼い頃に親しんだ自然、水の音、そして人生の節目で再び絵に戻ってきた経験。そのすべてが日高さんの表現を豊かにし、唯一無二のペン画の世界をつくりあげています。
これから挑戦したいのは、ラッピングバスや大きな媒体でのアート表現。点から生まれる生命の物語が、これからどんな形で広がっていくのか、ペン画アーティスト・日高あゆみさんの今後の活躍がますます楽しみです。