路地と街をつなぐファサードデザイン ― MIDWによる「和泉の長屋改修」
京都にある袋小路の奥、通りから伸びる細い路地の先にひっそりと佇む3軒長屋。そのうちの2軒を改修し、構造家の自邸として再生した「和泉の長屋改修」。こちらのファサードの設計を、京都を拠点に活動する建築家・服部大祐(元Schenk Hattori共同主宰)、服部さおりが共同主宰する建築設計事務所MIDW(メドウ)が担当しました。共用の洗面所や私道を含めて計画することで、単なる住宅改修にとどまらず、小さな都市空間を設計するようなスケール感をもって進められました。
中空ポリカーボネートが繋ぐ「内」と「外」

通りから続くトンネル路地を抜けると、右手に現れるのが改修された長屋。既存の外壁には、中空ポリカーボネートによる半透明の引き戸を設置。

これにより、かつて外壁として「内と外を断絶」していた土壁を“仕切り”から“媒介”へと変えました。

「しっかりとした木枠と薄い面材」ではなく、「強度のある面材と細い木枠」という新しい構成で、外壁が軽やかに内側へと溶け込む。

昼は光を柔らかく通し、夜は内部の灯りが路地を照らす。引き戸を開け放てば、住まいは路地と連続し、暮らしそのものが都市空間へと滲み出ます。
ファサードの“隙間”に生まれた緩衝帯

新旧二重のファサードの間に設けられた隙間は、バルコニーや玄関、出窓のような多義的な空間に。

もとは外部だった部分を半内部化することで、路地との距離感をやわらげ、同時に断熱や採光の調整装置としても機能する。この“緩衝帯”が、建築と都市、個と共同体をつなぐ中間領域として大きな役割を果たしています。
ひと続きの空間で暮らしを変化させる

奥行き約3mという細長い建物の中で、既存の壁や建具は撤去され、内部を一体化。

カーテンなどでゆるやかに仕切ることで、シーンに応じて可変的に使えるのも魅力です。

開口部を開け放つと、幅約1.4mの路地と連続する“ひとつながりの空間”となり、通風と採光のバランスも良好。閉じても中空板越しに外の気配を感じることで、外と内が曖昧に共存する心地よさが感じられます。
路地の屋根を見下ろす、光あふれる2階

南側の長屋が平屋のため、2階にはたっぷりと光が届きます。新設した吹き抜けを介して、1階にもやわらかな光が落ちる構成に。

寝室として使われる2階の部屋は、既存開口部の外側に新しい窓枠を重ね、内部化した旧枠部分を腰掛けられる窓辺として再生。

新旧が重なり合う窓際は、時間の層を感じさせる穏やかな居場所となっています。
路地とともに生きる、都市の新しい住まい方
路地という最小単位の都市空間に寄り添いながら、建築の境界を軽やかに開いた「和泉の長屋改修」。外と内、個と公共、新旧の関係を再編しながら、“住む”という行為を都市的な営みへと拡張しました。半透明のファサード越しににじむ光や、路地を通して聞こえる生活の気配が、この家の本質そのものを物語るような一軒です。