MIDWが描く四世代が緩やかに繋がる住まい「新潟の住宅」

「新潟の住宅」は、京都を拠点に活動する建築家・服部大祐(元Schenk Hattori共同主宰)、服部さおりが共同主宰する建築設計事務所MIDW(メドウ)による、既存母屋の隣地に建てられた新築棟を含む住宅プロジェクト。敷地には一家族四世代が集い暮らす前提があり、既存の母屋や道路向かいにある神社の文脈を丁寧に受け止めながら、新旧が共存するスケールと余白をつくることが設計の出発点になっています。

外部との調和を生む切妻屋根の佇まい

Photo : Kohga Tamamura

敷地は既存母屋に隣接し、計画では敷地の半分を外部空間(中庭的な余白)として確保し、残り半分に切妻屋根を持つ矩形のボリュームを配しています。

Photo : Kohga Tamamura

このボリュームは外側に垂直材でリズムを与え、障子戸の連なりを連想させる繊細なファサード表情をつくることで、周辺の神社や母屋との視覚的調和を図っています。

Photo : Kohga Tamamura

西側短手面は開口を大きく取り、神社側の緑を取り込む一方、長手面は連続する建具の重ねによって視線の抜け方に微妙な方向性を与えています。こうした外観操作により、外部空間と建物の間に“隙間”を生み、内外の関係を柔らかくつないでいます。

母屋と神社をつなぐ「余白」の設計

Photo : Kohga Tamamura

計画では、将来的に母屋の庭と神社の緑が外部空間を介して連続することを想定し、その中間領域としてのアプローチと前庭を整えています。外部半分を余白として残すことで、母屋側からの視線と神社側からの視線の両方に配慮した配置となり、玄関周辺はほどよい開放感とプライバシーを両立する場となっています。敷地の扱い方は、既存建物との関係を変化させずに都市的な緑の連続を復元することを意図しています。

コアを中心にめぐるLDKの空間構成

Photo : Kohga Tamamura

内部は、キッチンや浴室など生活の基本機能を担うコアを建物中央に配置し、そのコアを入れ子状に扱うことで回遊性と奥行きをつくっています。

Photo : Kohga Tamamura

この手法により、経路や居場所の重なりから多様な居心地を生み出します。

Photo : Kohga Tamamura

内部の仕上げには木質素材が多用され、外観の落ち着いた表情に対して室内は明るく柔らかいトーンでまとめられており、世代を超えた日常が自然に収まる構成です。

光と距離を設計した居室空間

母屋と比べても遜色のない居室スケールを確保するため、生活機能を集中させたコアの残余スペースを、ゆったりとした居室群として確保しています。

Photo : Kohga Tamamura

結果として、家族の集いの場やそれぞれのプライベートが明確に分かれつつも、視線や動線によって互いの存在を感じられる関係性が維持されています。窓の扱いや建具によって、外部の緑や光が柔らかく内部へ導かれる設えです。

細部に宿る継承と更新の精神

Photo : Kohga Tamamura

「新潟の住宅」では、外壁の垂直リズムや建具の重なり、木を基調とした内装など、細部において伝統的な要素を現代的に解釈した仕上げが選ばれています。

Photo : Kohga Tamamura

意匠面にとどまらず、設計面でも将来的な増改築を見据え、床や屋根のレベルを既存の母屋に合わせるほか、登り梁を現しにするなど、長期的な継承性を意識した計画がなされています。

時をつなぐ家族のための風景

「新潟の住宅」は、既存の母屋や神社といった地域的文脈を尊重しつつ、敷地内に意図的な“余白”を残すことで、世代の共存と将来的な風景のつながりを描いた住宅。外部空間と切妻のボリューム、そして障子を想起させる建具の操作によって、内外の関係を柔らかく再編し、家族の生活の中心となる幾つかの居場所を丁寧に生み出した一軒です。