注目の建築家が手がけた大阪・関西万博の海外パビリオン15選

前編:建築家の個性が光る、大阪・関西万博「いのち輝く未来社会のデザイン」を体現する国内パビリオン10選

2025年に開催される大阪・関西万博では、世界各国からの参加によって多彩なパビリオンが建ち並びます。なかでも見逃せないのが、世界的建築家が設計を手がけた15の海外パビリオン。各国の文化的背景と建築家の思想が融合した造形美と空間体験です。今回は、15の代表的な海外パビリオンを紹介します。

サウジアラビア館/ノーマン・フォスターが描く未来都市のビジョン

イギリスを拠点とする建築家ノーマン・フォスターが手がけた「サウジアラビア館」は、同国が推進する未来都市「NEOM」をテーマにした近未来的な建築です。ファサードには軽量なサウジ産石材の複合システムによって中東の幾何学模様を彷彿とさせる装飾が施され、内部はデジタル映像と立体音響を駆使した没入型空間によって、王国の街並みにおける日常生活や都市の構造を伝えます。建築は、夏に西からの涼風を路地へと導くために、数値流体力学シミュレーションを用いて慎重にデザインされました。4月と10月の涼しい時期には、植栽が施された前庭がバリアとして機能し、厳しい北風からパビリオンを守ります。

バーレーン館/リナ・ゴットメが紡ぐ「関係性」の建築

フランスを拠点とする建築家リナ・ゴットメが設計した「バーレーン館」は、「海をつなぐ」をテーマにした構成。伝統的な船の製造技術に日本の木組の技術も融合させたパビリオンは、海沿いに面した4層構造となっており、高さは13mから17mに達します。建築は約3,000本の加工されていない木材を複雑な木組みで組み上げることで、廃棄物を最小限に。また、パッシブ冷却によってエネルギー使用も削減されており、持続可能な建築の在り方を提示します。パビリオン内のカフェでは、バーレーンの地元の味わいと日本の食材を融合させた季節ごとのメニューによる、ユニークな食の体験が提供されます。

ルクセンブルク館/STDM + みかんぐみによる白い山並みのような膜屋根

日本の設計事務所みかんぐみとルクセンブルクを拠点とする設計事務所STDMにより共同設計された「ルクセンブルク館」。パビリオン全体のテーマは「Doki Doki ―ときめくルクセンブルク」。複数の小さな都市や街、そして民族の集合体の国でもある同国を、大小さまざまな13個の箱型建築物を並べて連結することで表現。その上を山の連なりのようにリズミカルな大きな膜屋根が覆うことで、1つのパビリオンを形成しています。ルクセンブルクは公用語が3つあり(フランス・ドイツ・ルクセンブルク)、国民の約48%が移民。展示では多様な人種と文化が交わる様子を演劇や映像など様々なコンテンツで表現しています。

クウェート館/LAVAが描く砂漠と水の融合

ドイツを拠点とする設計事務所LAVAは「クウェート館」を担当。敷地面積3503㎡、建築面積2164㎡という参加パビリオンのなかでも最大規模のひとつとなる。「ビジョナリー・ライトハウス」をテーマとした同館は、クウェートの時代を超越した未来へのビジョンを紹介することを目指しており、鳥の翼が羽ばたく様子をイメージしたパビリオン正面の印象的な大きな庇は、ライトアップによって昼と夜で変化することでテーマを強調します。一方館内は砂漠、水、岩、空などから想起した落ち着いた素材や色のインテリアによって、星空の下、夜の砂漠で休息するような感覚を得られます。パビリオン後方にある美しい中庭は、伝統的なイスラム建築を模しており、クウェート式の植栽が施されており、多角的にクウェートの自然環境と文化を伝えます。

スイス館/マヌエル・ヘルツが設計する“軽い”建築

ドイツを拠点とする設計事務所マヌエル・ヘルツ・アーキテクツが手がけた「スイスパビリオン」は、軽量性と持続可能性を追求した革新的なデザインが特徴。空気圧構造の球体が連結するデザインは、1970年の大阪万博のメタボリズム建築へのオマージュであり、スイスの美しい自然を象徴する植物で覆われています。管理棟を除いた球体は、従来の平均的なパビリオンに比べて重量の約1%という驚異的な軽さを実現し、海水や砂を充填したタンクを基礎に用いることで、輸送エネルギーの削減と環境負荷の最小化を図っています。内部では「生命」「地球」「人間拡張」をテーマに、ライフサイエンスやAI技術を体験できる展示が展開され、スイスの創造性に触れることができます。また、最上階にはスイス料理やワインを楽しめる「ハイジ・カフェ」が併設され、スイスの文化を体感できる空間となっています。

チェコ館/アプロポス・アーキテクツによるらせん状の建築

「チェコパビリオン」は、欧州を拠点とする設計事務所アプロポス・アーキテクツが担当し、「人生のための才能と創造性」をテーマに掲げています。全長260mの螺旋状通路を巡る構造で、来場者は4階分の高さを上昇しながら、身体と心の動きを連動させる体験ができます。外観はチェコ伝統のボヘミアンガラスを用いたファサードで、自然光の変化により動的な視覚体験を提供します。内部では、著名なチェコのアーティストによるマルチメディアインスタレーションが展示され、文化と芸術の融合を体感できます。最上階には展望デッキとVIPラウンジが設けられ、穏やかな海のパノラマが広がる一方、ガラスの天窓を通して講堂を真下に見下ろすことができます。また、1階にはチェコ料理を提供するレストランがあり、訪れる人々に多面的な体験を提供する空間となっています。

フランス館/CRA×コルデフィによるフランスの美意識で統一された空間

「フランスパビリオン」は「愛の讃歌」をテーマに、フランスを拠点とする建築家コルデフィとイタリアを拠点とするデザイン事務所カルロ・ラッティ・アソシアティが設計しました。日本の「赤い糸」伝説に着想を得たデザインで、来場者を「生命の劇場」へと誘います。17mの布製ヴェールが劇場のカーテンのように外観を覆い、内部は「上昇」「展示の旅」「最後の移行」の3つの章で構成されています。来場者は回遊型の動線に沿って展示の中心を巡りながら、複数のテーマ空間を横断し、途中で小さな庭に立ち寄ります。その後、もう一度屋外での時間を楽しみ、パビリオンに再び足を踏み入れることで、この旅を締めくくる構成となっています。建築はプレハブやモジュール式の構造で建設され、万博終了後の解体と再利用が可能となっています。

マレーシア館/隈研吾が設計する「木陰のオアシス」

「マレーシアパビリオン」は、建築家・隈研吾が設計し、「Interwoven(編み込む)」をテーマに掲げています。マレーシアの伝統織物「ソンケット」をモチーフに、約5,000本の竹を立体的に編み込んだファサードが特徴で、自然光と風を取り込み、柔らかな布のような表情を生み出しています夜間には、金銀の糸がきらめくような幻想的な光を放ち、多様な文化が融合するマレーシアの魅力を象徴しています内部では、マレーシア産のセランガンバツを用いた床材や、赤土をイメージした「タナメラ」色の壁面など、マレーシアの素材と色彩を取り入れ、多文化共生と持続可能性を伝える展示が展開されています

アメリカ館/トレイハン・アーキテクツが描く共生の風景

「アメリカパビリオン」は、ルイジアナ州を拠点とする設計事務所トレイハン・アーキテクツが手がけ、「共に創出できることを想像しよう(Imagine What We Can Create Together)」をテーマに掲げています。木を用いた三角形の建物2棟の間に、浮遊感のあるガラス張りのキューブが設けられ、その外壁には大型LEDスクリーンが設置され、アメリカの風景や文化を映し出します。内部ではNASAによる宇宙探査の仮想体験をはじめ、教育や起業家精神をテーマにした展示が来場者の創造力を刺激します。中央にはアメリカ式庭園が広がり、音楽やパフォーマンスが楽しめるステージも設置。さらに、公式キャラクター「スパーク」も登場し、多様性と創造性を象徴する体験を提供します。

ポルトガル館/隈研吾による「音と光」のパビリオン

「ポルトガルパビリオン」は、建築家・隈研吾が設計し、「海洋:青の対話」をテーマに掲げています。大航海時代に使われた船のロープを想起させる約1万本のリサイクル素材を天井から吊るし、風や光で揺れることで海のうねりを表現した有機的な建築が特徴です。素材にはリサイクル漁網などの環境配慮型資源を用い、持続可能性や循環型経済の思想を建築に体現しています。館内では、海洋保全やバイオエコノミーを紹介する展示のほか、伝統的なポルトガル料理が味わえるレストランや文化イベントも実施。日本とポルトガルの500年にわたる歴史的関係を踏まえ、未来に向けた海との共生を考える空間として設計されています。

イタリア館/マリオ・クチネッラによる生命を再生する空間

「イタリアパビリオン」は、イタリアを拠点とする建築家マリオ・クチネッラが設計し、「芸術は生命を再生する(L’Arte Rigenera la Vita)」をテーマに掲げています。ルネサンス期の理想都市を現代に読み替えた構成で、持続可能な素材と自然換気を活用し、環境に配慮した有機的デザインが特徴です。内部は「人間」「社会」「宇宙」の3ゾーンに分かれ、医療、都市、宇宙などの分野における日伊の協業を紹介。中央には劇場と広場、屋上にはイタリア式庭園が設けられています。バチカン館を併設し、カラヴァッジョの〈キリストの埋葬〉のレプリカ展示など、芸術と信仰の融合を体験できる空間となっています。

カタール館/隈研吾による海と共鳴する建築

「カタールパビリオン」は、建築家・隈研吾が設計し、カタールの伝統的な木造船「ダウ船」と、日本の木組み技術を融合させた有機的な建築です。帆を思わせる白い膜素材が木構造を覆い、周囲の水盤と相まって、まるで海に浮かぶ船のような軽やかさを感じさせます。内部では、カタールの海洋文化や歴史に加え、現代のイノベーションを紹介。2階には文化交流をテーマにしたギャラリーや会議室も併設されており、両国のつながりと未来志向のビジョンを建築的に表現した空間となっています。

カナダ館/レイサイド・ラボシエール+ペルティエが描く風景的建築

「カナダパビリオン」のテーマは「再生(Regeneration)」。設計は、モントリオールを拠点とする設計事務所レイサイド・ラボシエールとギオン・ペレテイエ・アーキテクト、ソウアンドコウが手がけ、春に凍った川の氷が解けて流れる自然現象「水路氷結」から着想を得た外観が特徴です。入館時にはタブレット端末が渡され、内蔵カメラを展示物にかざすと、拡張現実(AR)技術を通じて、カナダの全10州と3準州が織りなす多様性、創造性、そして豊かな自然が紹介されます。また、入口には赤い「CANADA」のサインが設置されており、来場者の記念撮影スポットとしても人気を集めています。

イギリス館/WOO architectsが描く未来への展開

「イギリスパビリオン」は、「ともに未来をつくろう」をテーマに、ロンドンを拠点とする設計事務所WOO architectsが手がけました。外観は、産業革命時代の織機で使用されたパンチカードや、世界初のプログラマーであるエイダ・ラブレスの業績から着想を得たアルミニウム製の穿孔パネルで構成され、光の変化により表情を変えるファサードが特徴です。夜間には、照明によりユニオンジャックが浮かび上がる演出が施されています。また、10m四方のモジュール式グリッド構造を採用し、万博終了後の再利用を想定した持続可能な設計となっています。内部では、英国のイノベーションを紹介する展示や、庭園と一体化した開放的な空間が訪問者を迎えます。

アイルランド館/創造性で結ぶ島国の精神

「アイルランドパビリオン」は、アイルランド政府公共事業局(OPW)が設計を手がけ、テーマ「創造性が人々をつなぐ」のもと、文化と技術、自然と人間の調和を表現します。建築は古代ケルトのシンボル「トリスケル」をモチーフに、3つの楕円形が重なり合う構成。外装にはアイルランド産のダグラスファー材を使用し、自然素材の温かみと持続可能性を体現。内部には、造形作家のジョセフ・ウォルシュによる彫刻作品「マグナス・リン」が設置され、伝統と革新の融合を象徴します。映像や展示では、アイルランドの歴史・言語・創造性の多様性に触れられ、訪問者に国際的な対話とつながりの価値を訴えかけます。

建築が語る世界の多様性と未来への展望

大阪・関西万博の海外パビリオンは、建築を通じて国ごとの文化、歴史、自然観を表現しながら、未来社会に向けたビジョンを提示しています。著名建築家たちの創意工夫により、パビリオンは単なる展示空間ではなく、訪れる人々に多様性や持続可能性について問いかける建築的メッセージとなっています。