建築家・佐々木慧が語る、デザインと暮らしへの哲学―福岡で生まれる創造の源泉とは

福岡を拠点に国内外で活躍する建築家・佐々木慧。アクソノメトリック株式会社代表として、建築設計を軸に家具、インテリア、ランドスケープ、都市計画まで多岐にわたる分野で活躍しています。今回は佐々木さんに、日々の暮らしの中から得るインスピレーションや、建築家としての原点について伺いました。

建築家・佐々木慧

Photo : YASHIRO PHOTO OFFICE

1983年福岡県生まれ。九州大学芸術工学部環境設計学科を卒業後、東京大学大学院で建築学を専攻。建築家・藤本壮介建築設計事務所での勤務を経て、2014年「アクソノメトリック株式会社」を設立。現在は福岡に拠点を移し、建築・家具・都市空間とジャンルを横断した空間づくりを実践しています。

子どもの視点はとてもクリエイティブ

まずは日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。

「小さな子どもたちが触れるものや目にするものには、特に気を配っています。彼らは、どんなおもちゃでも楽しめる独自の視点を持っていて、遊びそのものがとてもクリエイティブに感じられます。ブルーノ・ムナーリの作品にも、遊びとデザインが融合したものが多く見られると思いますが、日常に潜む“面白さ”から、僕自身も建築家として多くの刺激を受けています」

手つかずの野生の自然に惹かれる

建築家として、お好きな空間はどういったものでしょうか。

「自然の中が好きで、いまも公園で取材に答えています(笑)。特に人の手が加わっていない、野生のままの自然に惹かれます。福岡を拠点にしていることもあって、阿蘇にはよく行きますね。最近では趣味でトレイルランニングも始めました」

福岡では一つひとつの仕事にしっかりと向き合える

Photo : YASHIRO PHOTO OFFICE

佐々木さんは福岡を拠点に活動されていますが、福岡や地方に事務所を構える意義はどのように考えていらっしゃいますか。

「福岡は、時間の流れや人の動きがゆっくりで、物事や人に丁寧に向き合えるんです。東京にいた頃と比べて、ひとつの仕事にしっかり時間をかけられますし、無駄な体力を使わず集中できる。これは大きな利点だと思います。都市としての機能をしっかりと備えつつもコンパクトなサイズ感にまとまっているのも魅力ですね」

“面白い”をストイックに追いかける

佐々木さんは大学院修了後、藤本壮介さんの事務所に入所されました。藤本さんのもとで働いた経験は、現在の仕事にどう影響していますか。

「“面白い”と思ったことを、時間や労力を惜しまずに追求するストイックな姿勢に影響を受けました。藤本さんの、純粋に面白さを求める姿勢に共鳴し、自分の中でも大事にしています」

暮らしのすべてがインスピレーションになる

Photo : YASHIRO PHOTO OFFICE

佐々木さんは建築設計をはじめ、家具やインテリア、都市計画など、様々なジャンルのデザインに携わっていらっしゃいますが、共通して意識していることはありますか。

「家具や建築、都市計画など、僕の中ではあまり境界がありません。すべて同じ頭で考えていて、椅子のデザインから建築のアイディアが生まれることもあります。生活の中や子どもたちの姿、道に落ちているものなど、あらゆるものからインスピレーションを受けています」

建築設計事務所を営む父の姿に影響を受けた

現在では様々なジャンルで活躍されている佐々木さんですが、建築家になろうと思ったきっかけはどういったものだったのでしょうか。

「父が建築設計事務所を経営していて、小さい頃から建築が身近にありました。本格的に目指したのは大学の2、3年生の頃ですね」

お父様とは作品について話されますか。

「お互いにあまり話しません。言い出すと喧嘩になりかねないので(笑)、暗黙の了解で触れないようにしています」

日常のすべてがアイディアに繋がる

日常の中にある面白さや自然とのふれあいからインスピレーションを得ると語る佐々木さん。日々の暮らしのすべてがアイディアに繋がるという柔軟な視点は、建築という枠にとどまらず、暮らし全体を豊かにするヒントを私たちに与えてくれます。

後編:建築家・佐々木慧が語る、デザインと暮らしへの哲学―建築でつなぐ人と自然、未来へのまなざし(5月31日 公開予定)